世界銀行東京開発ラーニングセンター(TDLC)が2020年10月に開催した廃棄物管理に関する都市開発実務者向け対話型研修(TDD研修)に、パートナー都市の北九州市から日本人専門家が登壇しました。北九州市で約40年、先進的な廃棄物管理の取り組み等を先導してきた環境局参事の青栁祐治氏です。
開発途上国11カ国からの参加者に北九州市の事例を紹介
「きれいな街は、市民と一緒につくっていくものです」。資源の有効活用や再利用によって、循環型社会を目指す市の取組みをテーマに登壇した青栁氏が強調したのは、行政の取り組みに対する市民の理解でした。リサイクル促進のため、市の職員とボランティアの計1万3,200人が早朝から市内の各ごみ置き場に立って分別を呼びかけた事例を紹介しました。
青栁氏はごみ処理の流れや関連施設、ごみ袋有料化に関わる取組みについても説明。行政と市民が一丸となってごみの分別やリサイクルに取り組んだ結果、市がこの20年間で一般家庭ごみの総量を約40%削減したことを発表しました。「北九州も1960年代、街や川にごみがあふれていた。努力をすれば、どんな都市でもきれいな街になれます」と参加国にエールを送りました。
研修の最終日。参加した開発途上国からのアクションプランの発表では、「北九州市のベストプラクティスを採り入れる」などと掲げる国もありました。
リサイクル事業の中心メンバーとして活躍
青栁氏は1981年に北九州市に入り、ごみ処理施設の管理を担う部署に配属されました。当時はリサイクルが導入されておらず、大量の灰や煙を生む焼却施設や、ごみの埋立地が拡大していく様子を日々目の当たりにしながら、「こんなことを未来永劫続けていっていいのか、という危機感があった」と振り返ります。
市は1993年、リサイクルを重視する方針に大きく舵を切りました。青栁氏は、リサイクルの推進と産業の振興を目的とした一大プロジェクトである「北九州エコタウン事業」の中心メンバーとして、1998年から民間企業と連携して5カ所のリサイクル工場の立ち上げに従事。当時の日本では先進的な取り組みとして注目を集め、国内外の都市の行政関係者たちが視察に訪れたり、青栁氏が講演に招かれたりすることもありました。
ペットボトルや家電、自動車、医療廃棄物などの様々な資源のリサイクルに取り組むなかで、青栁氏が実感したのは「廃棄物も、大切な資源」ということでした。「資源の少ない日本にとって、循環型社会への移行は不可欠。そしてリサイクルや再資源化を進めるために大事なのが、廃棄物管理なのです」と強調します。この時の経験が、その後の活動への原動力になったと振り返ります。
過去の教訓を途上国に
2017年3月、北九州市とTDLCは都市連携プログラム(CPP)を結びました。パートナー都市としてのテーマの一つには、当時環境局の環境国際戦略部長だった青栁氏が強く提案した廃棄物管理が盛り込まれました。
北九州市が様々な廃棄物の課題を乗り越えてきた経験から、青栁氏は予算や人材不足に悩む途上国に「ごみ処理には大きなコストがかかるため、ごみの量をどう減らし、資源をいかに有効に使うかがカギ」と伝えます。
また、廃棄物管理の役割は「新型コロナウイルス感染症の流行でより重要になっている」と指摘します。市はごみ袋の密閉を市民に強く呼びかけ、回収する職員はマスクや手袋の着用を徹底。医療廃棄物は指定の密閉容器で回収され、市の認可を得た民間業者によって焼却処理されています。廃棄物管理の職員が感染したケースは報告されていません。(2020年10月時点)
市は廃棄物管理を「専門性の高い仕事」と位置づけ、関連部署を経験した職員を積極的に登用しています。人材育成が事業の継続に欠かせないからです。青栁氏自身も2017年3月に定年退職後、再任用職員として復帰しました。40年間で培った経験を、組織の内外に伝えることが今の大きな役割です。
「廃棄物管理は、地球規模で取り組むべき課題。TDLCとのパートナーシップを最大限に活用しながら、私の経験を役立てていきたい」
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【青栁氏プロフィール】
1981年に北九州市役所に入り、廃棄物管理や大気汚染対策などの環境行政に約40年従事。北九州国際技術協会(KITA)出向時に中国の都市でリサイクルや省エネ技術などに関する事業に参加し、国際貢献への関心が高まる。環境省のプロジェクトでも、タイの産業廃棄物管理の制度設計に専門家として貢献。市環境局の環境国際戦略部長を最後に定年退職した後、再任用され現職。
【TDD研修とは】
TDLCの代表的な実践的知識共有プログラム。約1週間にわたり、専門家によるパネルディスカッションや現地視察、参加者同士のつながりなどを通じて都市の課題に向き合い、世界と日本の成功事例を活用しながら、途上国におけるプロジェクトに適用する行動計画の策定につなげることを目的としています。