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「都市の洪水管理」に関する都市開発実務者向け対話型研修(TDD)実施報告 ~気候変動下の都市洪水管理: 日本と世界の知見~


洪水は、世界で最も頻繁に発生し、経済的損失が大きい自然災害の一つであり、急速な都市化と気候変動によってその影響がさらに深刻化しています。1980年から2016年にかけて、洪水による被害額は1.6兆米ドルを超え、世界中で225,000人以上の命が奪われました。世界銀行の支援対象国においても、洪水は最も頻繁に発生する災害の一つであり、気候変動の影響と密接に関係しています。効果的な対策が講じられなければ、これらの損失は2050年までに10倍に増加する可能性があります。

こうしたリスクが高まる中、その対策を支援するため、世界銀行東京開発ラーニングセンター(TDLC)は、東京防災(DRM)ハブおよび防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)とともに、2025年3月3日から7日にかけて「都市洪水管理」に関する都市開発実務者向け対話型研修(テクニカルディープダイブ:TDD)を開催しました。本研修には、11か国から44名の参加者が集まり、グレーおよびグリーンインフラを統合した洪水管理対策や都市の強靭性を高め、気候変動の影響を最小限に抑えるための戦略について議論しました。

参加者は、専門家による講義やインタラクティブなディスカッション、視察を通して日本の包括的な洪水管理対策について理解を深めました。ディスカッションでは、参加者の国の都市やプロジェクトの課題について取り上げられ、急速かつ無計画な都市化、資金不足、気候変動の影響、ステークホルダー間の連携不足、インフラの接続性の欠如などが指摘されました。こうした課題への対応策を探るため、他のセッションでは日本や世界のベストプラクティスが紹介され、効果的な洪水管理のあり方について議論されました。

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都市の洪水リスク管理に関するマッピング演習に取り組む参加者たち。

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参加者が自国の課題や教訓を発表するShift-and-Shareセッション。

日本の包括的な都市洪水管理アプローチ

日本は長年にわたり洪水管理の最前線に立ち、気候変動や都市化の進展に対応しながらアプローチを進化させてきました。当初のハードインフラ技術を中心とした対策から、現在では、自然を活用した解決策(NbS)、地域主導の取り組み、リスクに基づいた都市計画を組み合わせた包括的な戦略へと発展しています。国土交通省が主導する「流域治水(River Basin Disaster Resilience and Sustainability by All)」のアプローチは、災害への備えを強化しようとする他国にとって貴重なモデルであると言えます。

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日本の統合的な都市洪水管理について学ぶ参加者。

東京では、参加者は高潮対策センターを訪問し、沿岸地域の洪水対策について学びました。視察では、洪水ゲートの監視室や排水ポンプ施設を見学し、東京の強固な洪水管理インフラについての理解を深めました。

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東京港の現地視察で、洪水ゲート、防潮堤、ポンプ場などのグレーインフラを見学。

京都では、都市計画と洪水対策を統合した持続可能な洪水管理の事例が紹介されました。 京都市は、グレーインフラとグリーンインフラの両方を取り入れながら、全市をあげて「雨に強いまちづくり」に取り組んでいます。具体的には、遊水池や地下貯水施設といったハード対策と、防災意識向上や情報発信などのソフト対策を組み合わせ、浸水被害の最小化を目指しています。その一例として、 (1) 雨水を吸収し排水負担を軽減する「雨庭」(都市型の雨庭)や(2) 洪水緩和に重要な役割を果たす調整池(七瀬川調整池など)が挙げられます。

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京都・四条堀川交差点の雨庭への現地視察。

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洪水リスクの軽減に重要な役割を果たす「いろは呑龍トンネル」を訪問。

さらに本研修では、静岡市北九州市の洪水管理の取り組みについても紹介されました。静岡市では、強化された河川堤防や排水システムを含む戦略的なインフラ投資が紹介され、異常気象に対する強靭性強化の取り組みが示されました。北九州市では、廃棄物管理と都市の洪水リスクの関係が強調され、効果的な廃棄物管理が排水路の詰まりを防ぎ、洪水の軽減につながることが示されました。これらの事例を通じて、洪水に強い都市を構築するためには、統合的な都市計画と部局を超えた協力が不可欠であることが改めて確認されました。

洪水レジリエンスのための総合的アプローチ:知見と行動計画

議論や現地視察を通じて、効果的な都市洪水管理には多面的なアプローチが必要であることが明らかになりました。洪水管理には、包括的なガバナンスとステークホルダーとの連携が不可欠であり、政府の取り組みだけで洪水耐性を高めることはできません。日本のアプローチは、国と地方自治体、民間セクター、地域社会の協力を強調し、防災戦略が社会のあらゆるレベルで統合されるように設計されています。

もう一つの重要な視点は、グレーおよびグリーンインフラの統合です。ハードインフラによる洪水対策(グレーインフラ)に加え、自然を活用した解決策(グリーンインフラ)を組み合わせることで、洪水リスクを軽減するだけでなく、環境の持続可能性やウェルビーイングの向上にも寄与します。さらに、都市の洪水耐性を長期にわたって持続させるためには、制度化された戦略と安定的な財源によって支えられたインフラの運営・維持管理(O&M)が不可欠です。

こうした知見を踏まえ、参加者は、日本で得た知見を自国のプロジェクトで生かすための行動計画を策定しました。行動計画に共通するテーマとしては、グレーインフラとグリーンインフラを融合した強靭性の向上、効果的な洪水対策を実現するための政府・民間、地域社会の連携の必要性、戦略的な意思決定を支える手段としての洪水リスクマッピングおよびデータに基づく都市計画の活用が挙げられました。気候変動が加速する中で、洪水管理を都市計画や水資源管理と統合することが、都市の強靭性を高める鍵となることが確認されました。

「私が得た重要な学びの一つは、異なるアプローチを統合する必要性です。具体的には、建設やエンジニアリングといったグレーインフラと、地域住民の関与や行動変容に焦点を当てたグリーンインフラの取り組みを組み合わせることです。持続的な解決策を生み出し、人々の生活を向上させ、社会全体の習慣を変えていくためには、包括的で統合的なアプローチが不可欠です。」        

エドガード・ウスイ ブラジル サンタカタリーナ州政府 計画局長

「日本では、さまざまなレベルの地方自治体が、計画策定や実施の段階で地域社会を巻き込みながら、主体的にリーダーシップを発揮しています。これは、南スーダンにとって非常に重要な教訓です。」       

ドロマ・カット 世界銀行 都市専門官

 

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11か国の参加者が都市型洪水管理に関する知見を共有し、今後の取り組みについて発表を行った。

研修の写真はこちらをご覧ください。

世界銀行プレゼンテーション:

Defining Urban Flood Resilience Challenges and Opportunities

Advancing Urban Flood Resilience through Planning and Regulation

Urban Floods and Lessons learned from ECA

Stakeholder Engagement for Enhanced Urban Flood Risk Governance

Urban Flood Exposure Mapping

Advancing Urban Flood Resilience through Gray, Green, and Blue Infrastructure and Services

Global Facility for Disaster Reduction and Recovery (GFDRR)

Long-Term Flood Resilience: Infrastructure Operations & Maintenance