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イベント実施報告:「質の高い都市インフラのための資金調達」に関する テクニカルディープダイブ (TDD)

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世界はいま、COVID-19、気候変動、ウクライナ侵攻、食糧不足など、複数の危機に直面しています。途上国は、2030年の持続可能な開発目標の達成を目指す中で、財政的・能力的制約に苦しんでいます。低炭素で気候変動に強いインフラ整備には、2015年から2030年の間に毎年総額1兆5,000億ドルが必要です。長期的な利益が明らかである一方、資金調達は依然として大きな課題となっています。

このような状況や気候変動リスクの高まりを考慮すると、環境に配慮した強靭で包摂的な開発を支えるために持続可能で質の高いインフラ投資と必要不可欠なサービスを提供することが、かつてないほど重要になっています。これを達成するためには、限られた公的資源を可能な限り効率的に活用しなければならず、各国政府と国際開発金融機関(MDBs)のパートナーは、インフラ投資により多くの資金を動員すべく革新的な解決策を模索する必要があります。

「質の高い都市インフラのための資金調達」に関する都市開発実務者向け対話型研修(TDD)は、参加者にQII原則に則ったインフラ投資の重要性について理解を深める機会を提供することを目標に実施されました。参加者は、都市インフラ投資の質を向上させるための実践的な方法や資金を動員し、デジタル技術を活用して住民により良いサービスを提供するための革新的な手法を学びました。

クライアントの課題

多くの代表団が、インフラプロジェクトを進めるためにはより多くの資金が必要であると報告しました。また、負債が多い国や、公的資金を他のセクターに流用せざるを得ない国々では、新しいインフラプロジェクトに着手することがことさら困難であるとの見解が示されました。官民パートナーシップ(PPP)に関しては、地元の民間企業は公共インフラプロジェクトに関心を持つ一方で、市場の安定性に対する懸念からまだ市場に参入していないと指摘しました最後に、気候変動問題に対処するためには、既存のインフラをさらに改善・発展させる必要があるとの意見が出されました。

TDDセッションの概要

本TDDでは、以下のトピックについて議論しました。

a.         質の高いインフラ投資の主要要素

  • 質の高いインフラ投資(QII)を実施することで、環境に配慮した強靭で包摂的な開発を促進することができます。しかし、QIIがもたらす利益はインフラの建設と運営だけに限定されるものではありません。広義には、雇用機会の創出、地域経済の活性化、持続可能な開発の促進など、インフラ投資がもたらす社会的な影響も含まれています。
  • 急速な都市化、環境問題、インフラの老朽化、人口減少など、戦後の日本社会が直面したさまざまな課題により、日本では「質の高いインフラ投資(QII)」という概念が重要視されてきました。これらの問題に取り組むため、環境にも社会にも優しい、より持続可能なインフラ整備が求められました。戦後の横浜の都市開発は「6大事業」とも呼ばれ、QII原則が取り入れられ、また現在では脱炭素都市づくりの基盤となっています。
  • 障害者は高い確率で多次元貧困に直面しています。ユニバーサルデザインのような障害者や高齢者だけでなく、非障害者にも恩恵をもたらす包括的なインフラ整備を推進することが極めて重要です。インドネシアをはじめとする発展途上国では、こうしたユニバーサルデザインの取り組みが進んでいます。この取り組みは、人々の日常生活におけるアクセシビリティを向上させ、観光の活性化など経済活動にも寄与しています。

b.         経済効率と質の高いインフラ投資のための資金動員

  • 多くの政府や自治体は、気候変動対応メカニズムや関連商品・サービスにかかるコストの増加により、財政赤字に直面しています。この課題に対処するためには、債券や融資などのさまざまな借入手段や、インパクトフィーおよび特別評価地区などの利益還元投資を検討するべきです。官民パートナーシップ、特にコンセッション方式も、民間資本を動員し、インフラの設置・維持に関連するコストを削減する上で極めて重要です。
  • 政府が官民パートナーシップを活用する理由は、初期費用の削減、業務効率の向上、契約違反時のリスク軽減、質の高い事業成果の確保、長期的なコストへの配慮など様々です。しかし、官民連携事業を効果的に実施するためには、政府が民間企業を慎重に選定し、事業のどの部分を民間企業に委託するかを決定し、潜在的なリスクを適切に織り込んだ契約を締結することが重要です。また、複数の民間企業が事業に関心を示すような環境を醸成し、事業実施プロセスを通じて透明性を維持することが不可欠です。
  • 官民パートナーシップの推進は、民間セクターへの十分な理解なしには困難です。富山市の場合、地元金融機関や民間企業と情報共有の場を設け、定期的に対話を重ねてきました。その中で、富山市のビジョンや自治体のニーズ、事業の進め方などを紹介しながら、市場や民間企業の強み・弱みへの理解を深めてきました。こうした継続的な対話が、具体的な官民パートナーシップの取り組みにつながっています。

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富山市のコンパクトシティ政策と官民連携の取り組みについて説明する岸聡之氏(富山市 企画管理部行政経営課 課長)

c.        都市インフラとサービスにおけるデジタル変革の活用

  • 今日のデジタル技術は、質の高いインフラの構築に大いに役立てることができます。データや技術、その他のリソースを都市計画、 管理、サービス提供、市民参画、説明責任に活用する、いわゆるスマートシティ構想は、統合的な計画とより包括的な都市開発を促進することができます。このような事業を推進する上で、都市は具体的なビジョンを持ち、そのビジョンを実現するためデータを用いて現状を分析する必要があります。
  • 市の職員は、最新の技術の進歩に対応するという課題に直面しています。しかし、民間企業からのDX関連の提案を効果的に評価し、市のプロジェクトと整合させるには、ある程度の知識と経験が必要です。そのため、市はデジタル分野の専門家を採用・育成し、デジタル市場の動向に注意を払わなければなりません。
  • 富山市では、スマートシティへの取り組みが進んでいます。そのひとつが、子どもたちの通学路をセンサーネットワークで監視する取り組みです。これにより、市内の危険箇所を特定し、公共施設の安全性を向上させています。さらに、橋や道路脇にもセンサーが設置され、洪水や積雪への迅速な対応に役立っています。収集されたデータの一部は市民や民間企業と共有され、都市計画に役立てられています。

視察地

本TDDでは、以下の施設を視察しました。

  • 横浜市川井浄水場

横浜市が所有する川井浄水場は、日本で最も古い浄水場のひとつです。2009年、日本初のPFI型浄水場として生まれ変わりました。このプロジェクトでは、ウォーターネクスト横浜株式会社が出資して新施設を建設し、所有権を横浜市水道局に譲渡しました。設置後は、同じ民間企業が運営・維持管理(BTO方式)を行っています。

  • 総曲輪レガートスクエア

総曲輪レガートスクエアプロジェクトは、富山市のコンパクトシティ政策に基づいたプロジェクトです。"医療・福祉・健康 "をテーマに、公共施設と民間施設を一体的に開発・運営しています。 医療・福祉・健康増進施設(民間施設・公共施設)を一つのエリアに集約し、官民が連携することで、富山市が抱える課題を総合的に解決しています。.

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官民パートナーシップで建設された富山市の総曲輪レガートスクエアを見学する参加者

  • 富山市電

富山市は、路面電車事業で全国初の「上下分離方式」を導入しました。「上下分離方式」とは、富山市が「軌道整備事業者」として線路の建設や車両の購入を行い、富山地方鉄道が「軌道運送事業者」として車両の運行を行うものです。公有施設を民間事業者が運営するというコンセプトのモデル事業です。 

  • オーバードホール/中ホール

富山県民の芸術文化活動を推進するシンボル的な空間です。PFI(BTO方式)により整備された中ホールを含んでいます。

  • 富岩運河環水公園

富岩運河環水公園は、鉄道跡地や運河ドックなどの未利用空間を活用し、富山駅北地区の活性化を図る「とやま都市MIRAI計画」の一環です。同計画は、21世紀の富山市の産業・文化を牽引する活力ある中心市街地の形成を目指し、民間の積極的な参画を得ています。公園内には、店舗内装で人気のスターバックスコーヒーがあります。また、日本のPFIの先駆けである「設置許可管理制度」を日本で初めて採用しました。

行動計画

多くの代表団が、TDDへの参加を通じてQII原則と官民パートナーシップの性質について理解を深めたと述べ、帰国後に次のような行動計画を立てました:

1.  各国における官民パートナーシップに関る人材育成および官民パートナーシップ(PPP)基金と委員会の設立。

2.  スマートシティと強靭なインフラを推進するためのロードマップの作成。

3.  QII原則に沿った調達、プロジェクト実施、評価方法の見直し。

参加者からのフィードバック

TDDの開催直後に行った参加者の満足度を測るアンケートでは、本研修がほとんどの参加者にとって満足度の高いものであったことが分かりました。アンケート回答者(n=33)の91%が、この研修に「非常に満足した」と回答。これは、過去のTDDの中で最も高い満足度でした。さらに、回答者の73%が本TDDは自分たちのプロジェクトに「非常に関連性があった」と答え、27%が「関連性があった」と答えました。この結果は、ほとんどの参加者が、自身が取り組むプロジェクトにとって大いに見識を深めることができたことを示しています。参加者の多くは、日本での視察を高く評価しており、横浜市と富山市を訪問した際に官民パートナーシップの実施について理解することができたと述べています。日本における官民パートナーシップの包括的な概要をさらに知りたいという意見もありました。

あとがき

富山市には本研修に全面的にご協力いただきました。3日目のセッションとレセプションには富山市を代表し、藤井裕久富山市長が参加され、5日目には本田信次政策監より参加者の行動計画について貴重なアドバイスがなされました。富山市からは、プレゼンテーションや視察に関して建設的な提案があり、実りあるセッションを行うことができました。