日本の都市: 持続可能で質の高いインフラの計画・実施
行動計画に対するフィードバックを聞くマダガスカルのチーム
これまで実施した都市開発実務者向け対話型研修(TDD)と同様に、今回のTDDも知識共有と構造的学習の場として、参加者同士のディスカッションのほか、海外の都市専門家との対話や日本のベストプラクティスの紹介など、参加者に様々な恩恵をもたらしました。講義ではQIIのエキスパート、都市や各国の専門家が登壇し、QII原則が何を意味するのか、QII原則がどのように都市インフラの改善に役立ってきたのかについて解説しました。参加者は、東京都の豊島区役所、福岡市の山王雨水調整池、同市の天神ビッグバン開発地区、国土交通省の九州技術事務所への視察などを通じて日本の事例について学び、質の高い日本のインフラ、官民パートナーシップ、インフラの維持管理・運営について理解を深めました。
佐々木竜次氏(福岡市)による福岡市の治水対策・山王雨水調整池についての説明(写真:世界銀行グループ)
世界銀行で「質の高いインフラ投資パートナーシップ」のプログラムマネージャーを務めるジェーン・ジェミーソンは、「QII原則をどう実施してきたかについて、日本の専門家の話を直接聞けたことはとても貴重な経験となりました。世界銀行のQIIパートナーシップでは、途上国政府と協力し、彼らのインフラ整備計画におけるインフラの質の問題に取り組んでいます。今回、日本のこれまでの取組みが我々の事業にも有益であることを再認識できてよかったです」と述べました。
今回のTDD終了後に実施された満足度調査によると、33人全員が満足し、32人が「自国の事業に適用できる解決策への理解が深まった」としています。また、参加者の60%以上が、「自国の行動計画を作成するにあたり、本TDDで最も有益だったのは日本の事例である」と回答しています。ある参加者は、「本TDDを通じて、事業や都市計画におけるQIIの基準と実施・適用方法への理解が深まった」とコメントしました。
主な論点:効率性、アクセシビリティ、漸進性の重要性
各登壇者はQII原則に基づいて事業を進めることにより、持続可能で質の高いインフラを整備でき、ライフサイクルの最初から最後まで経済性を高められることを強調しました。
世界銀行のコンサルタントである西牧宏氏は、50年にわたって質の高いインフラを整備してきた日本の経験を総括し、 1)質の高いインフラは、経済成長、インフラのライフサイクルコストの低減、災害に対する強靭性に貢献する、2)環境に配慮した制度的枠組みと透明で包括的なガバナンス構造が不可欠である、3)技術開発とイノベーションがインフラ開発には欠かせない、と述べました。
また、テクニカルリードを務めた世界銀行の持続可能な都市インフラのグローバルリード、ジョアンナ・マシックは、全体を振り返り、「QIIパートナーシップと連携し、インフラと都市という2つの重要なトピックを関連付けることができ大変嬉しく思います。私にとっての一番の成果は、QII原則を紹介しながら、世界の事例や日本の経験を共有できたことです。公共サービスやアクセスも含めて、日本がいかに一貫して質の高いインフラを導入してきたかを参加者自身が学べたことは大きな収穫だったと思います」と述べました。
また、テクニカルリードを務めたQIIパートナーシップのプログラムマネージャー、ジェーン・ジェミーソンも、東京の質の高いインフラが30年から50年の進化を経た成果であることに言及し、「私が学んだことの一つは、インフラの構築は漸進的に進めていく必要があるという点です。国がどういう状況にあるかをまず確認してから、課題に対して質の高い介入をすべきなのです」と述べました。
ジョアンナ・マシック(世界銀行持続可能な都市インフラのグローバルリード)とジェーン・ジェミーソン(世界銀行の「質の高いインフラ投資パートナーシップ」のプログラムマネージャー)に質問を投げかけるTDLC知識管理官の田邉信(写真:世界銀行グループ)
各国の参加者もそれぞれの経験を共有し、自国における実行可能な解決策としてQIIの原則をどのように適用できるかについて語りました。
パキスタンのパンジャーブ州にある「手頃な住居プロジェクト」のフォーカルポイントであるカディジャ・ムニリ氏は、同州ではインフラ整備とサービス提供が不十分であると述べ、QII原則が都市再生、民間資金の活用、インフラ事業の建設・所有・運営を促進するための指針になると述べました。ジャマイカ社会投資基金のマネージングディレクターであるオマー・マクファーレン=スウィーニー氏は、同国が投資しているインフラの質に問題があると指摘し、今後は費用対効果、ライフサイクルコストの計算、調達手法を見直し、インフラ整備に必要な財務的・技術的な専門知識についての理解を深めることが重要であると述べました。セネガルのデリバリーユニットの副CEOであるジビー・ディアグニー氏は、インフラへのアクセス、ライフサイクルコストに基づく民間事業者の選定、既に建設されたインフラの維持管理とコンプライアンスの重要性に気づかされたとし、今後セネガルのインフラ事業にQII原則が適用されることを願うと述べました。エチオピアのアレメイ・エフ・アルビエイ都市開発大臣は、質の高いインフラ整備に対する需要が同国で高まっているとし、官民パートナーシップ(PPP)を通じた民間セクターの参加、上流工程から調達する方法、政府の役割について学んだことが主な収穫であると述べました。
イベントの最後には、QIIパートナーシップのホストであり、インフラ・ファイナンス・官民パートナーシップ・保証(IPG)グループのグローバル・ディレクターでもあるイマド・ファクーリが閉会の挨拶を行いました。
TDLCが主催する都市開発実務者向け対話型研修(TDD)は、都市に関連するテーマや新たなトピックを取り上げ、地域および世界レベルで実行可能な解決策を生み出すことを目的としています。QIIを取り上げた今回のTDDは、2023年度に実施された5つのTDDのうち2つ目にあたります。2015年以来、都市開発実務者向け対話型研修は計41回行われ、90カ国以上から総勢1,632名の人々が参加してきました。こうした参加者は世界銀行の融資事業(計290件)や非融資事業(計128件)に関わっており、TDDを通じて他の参加者から多くの知見を得ています。