洪水は世界中の都市に重大なリスクをもたらし、こうしたリスクの軽減を目指す政府関係者に難題をもたらします。低・中所得国が大都市社会に移行するなか、都市洪水の対策は、ますます高コストかつ困難になっています。日本の総合的な都市洪水リスク管理は、こうした課題に取り組む国に重要な教訓となります。特に、ステークホルダーの役割と責任を明確に定義し、洪水リスクの軽減に向けた有効な施策を開始するための強力な制度的・法的枠組みの必要性を示しています。
日本政府(財務省および国土交通省)、水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)、およびシンガポール公益事業庁(PUB)貯水池・河川局と協力して、世界銀行東京防災ハブは、「総合的な都市洪水リスク管理に関して日本が持つ知識を獲得すること」および「世銀のクライアントが都市レジリエンス向上に向けた計画・投資を行う際に、学んだ重要な教訓を生かせるようにすること」を支援しています。
東京防災ハブと東京開発ラーニングセンター(TDLC)は、世銀で初めての、総合的な都市洪水リスク管理に関する分野別実務者研修会合(TDD)を企画しました。このTDDには、アルゼンチン、ガーナ、インドネシア、ラオス、マダガスカル、ナイジェリア、ソロモン諸島、ベトナムの8カ国の政府関係者、世銀プロジェクト・チーム、および日本とシンガポールの主要な専門家が参加し、高度な洪水管理を行う日本とシンガポールが洪水リスクの慎重かつ体系的な管理に向けてどのように投資・機能・進化し続けてきたかを、より深く理解できるようにしました。3日間のTDDで、8カ国からの参加者は以下のことを行いました。
- 日本の経験と成功事例からの学び。
- 日本国内の5カ所(堤防、ダムなど)を訪問
- これらの訪問と行動計画立案の結果について討議。
- TDDのフォローアップとして公開セミナーを開き、学んだ教訓について討議。
クライアント国からの参加者は、効果のない制度的枠組み、土地利用・管理の問題、財政的問題、および洪水リスクの軽減に向けた総合的アプローチの欠如が原因で、自分たちが直面している問題を指摘しました。TDDはこうしたニーズと具体的な課題に向き合い、最終的には参加者が自国の総合的な洪水管理システムの計画を策定できるよう支援しました。
本TDD概要報告書は、総合的な都市洪水リスク管理を向上させるための、以下の5つの重要な教訓を示しています。
- 明確に定義された有効な制度的・法的枠組みを、どのようにして策定するか。
- 省庁間およびステークホルダーの協調を、どのようにして向上させるか。
- 構造的施策と非構造的施策を、どのようにして補完的方法で統合するか。
- 洪水リスクを考慮に入れた土地利用計画策定は、新たなリスクの発生の防止にどのように役立つのか。
- 新しい技術的ソリューションが、どのようにすれば、洪水リスクを特定・軽減・管理するための革新的手法に用いることができるか。
本TDD概要報告書は、各参加国の経験と成果を詳述することにより、都市洪水リスク管理に関して得られた知識を体系化して、本書を役立てることのできるすべての人が利用できるようにしています。