豊かな人たちと比べ、貧しい人たちは自然災害が発生しやすい地域の壊れやすい住まいで暮らし、農業や畜産、養殖など、異常気象による影響を受ける危険性が高い産業で働いています。また、復興という点でも、政府や地域社会からはるかに少ない支援しか受けられません。その結果、暴風雨、洪水、干ばつ、地震は貧しい人たちにとり、他の人たちと比べて倍以上の重い負担になるのです。
例えば、2005年にムンバイを襲った史上最大規模の洪水で、貧困層は豊かな層よりも60%も多くのものを失いました。そして、わずかな持てるものを失ったとき、貧しい人たちの健康状態には即座に、時には回復不能な結果が生じます。エクアドルでは、1997~1998年のエルニーニョの影響による洪水に胎児の状態で被災した貧しい子どもたちに関し、出生時の体重と身長が低く、認知能力も低いことがわかりました。
「防災と貧困削減」 報告書では、自然災害の被害を評価するための新たな測定値として、貧困層の負担が偏って大きいことを勘案した値を導入し、現在、自然災害が世界経済に5,200億ドル(通常報じられているよりも60%多く)の損失を与え、約2,600万人が貧困に陥る状況を毎年作り出していることを明らかにしました。
それでも希望はあります。政府は自然災害から貧困層を保護する対策の強化を通じ、数百万人を極度の貧困化から守ることができます。
報告書では、貧困層が異常気象などの異常な自然現象の影響に対応できるよう補助する「レジリエンス(強靭性)政策」パッケージを提案しています。これには早期警告システム、個人の銀行口座の利用促進、保険契約、社会保護制度(現金給付、公共事業計画など)など、衝撃に対応し、復興する能力の強化に役立つ施策が含まれます。 「防災と貧困削減」 では政府に対し、社会基盤、堤防、その他の水位を管理する手段に対して重要な投資を行い、適切な土地利用施策と建築規制を策定することも呼びかけています。これらの対策では、高価値の資産を持つ人たちだけでなく、最貧困層と最も脆弱な市民を守ることを特に目標とする必要があります。
報告書では、117カ国でこれらの政策から期待される効果を試算しました。例えばアンゴラで、最貧困層の市民を対象とする大規模に展開可能なセーフティネットを導入した場合、国の利益は年1億6,000万ドルになります。こうした世界中の対策を総合すると、国と地域社会にとり年1,000億ドルの節約が可能になり、自然災害が人々の生活に与える全体的な影響が20%減少します。
報告書作成責任者である ステファン・ホルガット GFDRRリード・エコノミスト は、「多くの国々は気候変動の結果としてますます増え続ける予想外の衝撃に苦しんでいます」と述べました。「貧しい人たちは避けられない自然災害からの社会的・経済的保護を必要としていますが、有効性が確認されたリスク政策の導入により、数百万人の貧困化を回避できる可能性が生まれます。」
貧困層のレジリエンス構築に向けた努力はすでに広がりつつあることを報告書は示しています。先月も、革新的な保険プログラムのおかげで、ハイチ、バルバドス、セントルシア・セントビンセントおよびグレナディーン諸島が、ハリケーン・マシュー被災後の復興活動に対して2,900万ドルの援助を受けました。
「防災と貧困削減」 は、気候変動に対する各国の適応の改善を助け、最も脆弱な市民のレジリエンスと繁栄を強化するためのロードマップです。対応・再建・復興のための手段を最も脆弱な人たちに与えることにより、数百万人を極度の貧困から救い出す可能性を高めることができます。