最大60パーセント過小評価されていた自然災害による人的・経済的損失
マラケシュ、2016年11月14日 ― 世界銀行と世界銀行防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)の最新報告書によると、甚大な自然災害による影響は年間消費にして5,200億ドルの損失に相当し、毎年約2,600万人が貧困状態に陥る状況を作り出している。
ジム・ヨン・キム 世界銀行総裁は「過酷な気候による衝撃で、貧困撲滅を目指すこれまでの進歩が数十年分、後戻りするおそれがあります。暴風雨、洪水、干ばつは人々と経済に悲惨な影響を与え、中でも貧しい人たちが最大の代償を払うことになりがちです。自然災害に対する強靭性(レジリエンス)の構築は経済的に賢明であるだけでなく、道義上の急務でもあります。」と訴えた。
この報告書「防災と貧困削減:自然災害に立ち向かう貧困層のレジリエンス構築 (仮題)(Unbreakable: Building the Resilience of the Poor in the Face of Natural Disasters)」は、異常気象が貧困層の人と経済に与える総合的影響が、これまで理解されていたよりもはるかに壊滅的であると警告している。
調査対象とした117カ国すべてにおいて、生活状態を示す消費の損失への影響は財産の損失への影響を上回った。自然災害による損失は対応能力が低い貧しい人たちに偏って大きい影響を与えるため、これらの国で暮らす人々の生活への影響は年間約5,200億ドルの消費の損失に相当すると報告書では試算している。これは他のすべての試算結果を60%も上回る数値である。
国連気候変動枠組条約第22回締約国会議(COP22)の開催中に発表された同報告書は、災害に最も脆弱な人たちの保護を強化する気候問題対応政策の必要性という喫緊の課題を浮き彫りにした。貧しい人たちは自然災害の影響を受けやすく、財産と比較した損失の比率が高く、家族、友人知己、金融制度、政府の支援を受けることが不可能な状況に置かれている。
同報告書では、自然災害による被害の評価に新たな手法を導入し、自然災害が貧困層に与える偏って重い負担を勘案した。例えば2008年にミャンマーを襲ったサイクロン・ナルギスでは、同国の貧しい農民の半数がサイクロン後の借金返済のために土地などの財産の売却を余儀なくされた。その結果、ナルギスによる経済社会的影響を数世代にわたり受け続けることになる。
同報告書では、調査を実施した国々におけるレジリエンスの構築のための介入の効果を初めて評価した。介入には早期警報システム、個人の銀行口座の利用促進、保険契約、社会保護制度(現金給付、公共事業計画など)など、衝撃に対応し、復興する能力の強化に役立つ施策が含まれる。この評価の結果、そうした施策を導入することにより、国と地域社会は年間1,000億ドルを節約し、自然災害が生活状態に与える全体的な影響を20%削減することにつながることがわかった。
報告書作成責任者であるステファン・ホルガット GFDRRリード・エコノミストは、「多くの国々は気候変動の結果としてますます増え続ける予想外の衝撃に苦しんでいます。貧しい人たちは避けられない自然災害からの社会的・経済的保護を必要としています。有効性が確認されたリスク政策の導入により、何百万人もの人々が貧困状態に陥ることを回避する可能性が生まれます。」と述べている。
貧しい人たちのレジリエンスを構築しようとする努力はすでに広がりつつあることを報告書は示している。例えば、ケニアの社会保護制度では、2015年の干ばつのかなり以前に、影響を受けやすい農家に追加資金を提供し、それが干ばつの影響に備え、影響を緩和するために役立った。また、パキスタンでは、2010年の記録的な大洪水の後、政府が緊急無償キャッシュ支援プログラムを設け、およそ800万人の復興努力を支援し、ほぼ確実視されていた貧困から多数の人たちを救出した。
レジリエンスの構築は、世界の貧困を撲滅し、繁栄の共有を促進するという世界銀行グループの2大目標達成に向け、鍵を握る要素である。