BRIEF

世界銀行グループと気候変動

2015年11月2日


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気候変動への取り組みは、極度の貧困を撲滅し、繁栄の共有を促進するという世界銀行グループの目標達成にとって不可欠です。2015年度、世界銀行グループは、気候関連分野の支援を、59カ国で188件実施しましたが、その取り組みは、農業従事者が気候変動に適応するための支援から、再生可能エネルギーへの新規投資まで多岐にわたります。


気候変動が及ぼす深刻な影響

 気候変動が国家、個人に及ぼす影響は益々深刻化していますが、一番影響を受けているのは貧困層です。2015年1月~8月の期間に発生した気候関連が原因の自然災害は120件以上に上りました。また、観測が始まって以降130年間で、最高気温を記録した15年の内14年は今世紀に入ってからです。

世界銀行は、ポツダム気候変動影響研究所に依頼して報告書シリーズ「温度を下げろ」第3弾を作成しました。それによると、地球温暖化が産業革命以前と比較して1.5°C近く進む(現在より 0.8°C上昇)事は、これまでに排出された温室効果ガスと今後の排出予想量を考えると、もはや避けられないとしています。その上で同報告書は、異常気象が今以上に頻発し、食糧、水、エネルギー安全保障のリスクが高まり、貧困層のみならず全ての人々に影響を及ぼすと警告しています。

2030年を期限とする持続可能な開発目標(SDGs)を達成するには、温室効果ガスの排出を削減し、気候変動に対する強靭性を強化する投資を進めなければなりません。12月にパリで開催される第21回国連気候変動枠組条約締結国会議(COP21)を前に、各国による低炭素型で強靭な開発の支援に向けて、世界銀行グループが意欲的な合意を国際社会に呼びかけているのはそのためです。COP21は、直ちに行動を起こすべく政治的意思を固めるための重要な機会と言えます。

 

世界銀行グループの5つの取り組み

世界銀行グループは、気候変動の緩和、適応、そして防災への取組みを強化しており、全てのプロジェクトに気候変動対策の視点を取り入れることを決定しています。具体的には、1)気候変動に強い低炭素型の都市づくり、2)気候変動に迅速かつ適切に対応する農業への転換と森林景観づくり、3)省エネ推進と、水力発電など再生可能エネルギーへの投資、4)化石燃料補助金の撤廃、5)適切な価格設定の下での炭素価格制度の構築、という5つの主要分野に重点的に取り組んでいきます。

最貧困層のための世界銀行の基金である国際開発協会(IDA)は、新規プロジェクトに短期的・長期的な気候変動と災害リスク管理の視点が盛り込まれている事、さらに強靭性強化のための措置が適切に行われている事を、その支援要件としてが求めています。さらに世界銀行グループは、気候変動と災害リスクへの視点の有無を基にプロジェクトと投資を審査するためのツールキットを作り出した他、強靭性に関する指標も開発しています。

また、防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)を通じて、災害リスク削減と気候変動への適応を、開発戦略の主流に据えることにより、途上国が自然災害への脆弱性を軽減し、気候変動に適応できるよう支援しています。

世界銀行グループはパートナーと協力して、気候変動対策のための更なる資金を動員するための革新的な方法を提案しています。例えば、大規模な投資を対象とするIFCの触媒ファンドや、$80億ドルの気候投資基金があります。気候投資基金は、気候変動に強い低炭素型開発に向けて、状況を一変させるような結果をもたらすための大規模資金を国際開発金融機関を通じて提供するものです。

世界銀行は、18のカーボン・ファイナンス基金 と、複数のイニシアティブの受託機関でもあります。これらのイニシアティブは、75の援助受入国で145件のプロジェクトを支援し、2000年以降、二酸化炭素換算で1億9,600万トンの排出を削減しています。

 

気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)に向けて

ジム・ヨン・キム総裁は、2015年10月、リマ総会の場で、気候変動対策資金の大幅な拡充を発表しました。 世界銀行グループは、加盟国と協力し、気候変動対策資金を2020年には年間290億ドルまで引き上げる事が可能だとしています。

温室効果ガス排出拡大のペースを今後10年間で減速させ、各国が温暖化への備えに取り組み、今後起きる変化に適応できるようにするためには、国際社会が直ちに行動を起こす事が必要です。今世紀末までに、ゼロエミッションを実現するための経済政策を軌道に乗せる必要があるのです。

そのための経済政策の見直しにインセンティブをもたらし、将来のための資金を確保するには、化石燃料の補助金撤廃と、炭素価格制度の導入が必要です。化石燃料の補助金は約5,500億ドルに上りますが、その恩恵は必ずしも貧困層には届いていないとする調査結果もあります。現在、炭素価格制度を導入しているのは、約40カ国と23の都市、州、地方に上り、温室効果ガスの年間排出量全体の約12%が対象となっています。

COP21を前に、炭素の排出者に負担を求めようという機運が高まっていますが、こうした動きに、多くの国家元首、都市や地方政府の首長が支持を表明しています。自国の炭素排出者に負担を求め、環境により配慮した投資を促進するための措置を講じてきたこれらのリーダーたちは、世界銀行グループと国際通貨基金(IMF)の呼びかけの下、経済協力開発機構(OECD)の支援を得て、炭素価格委員会を立ち上げました。

世界銀行の報告書「炭素価格設定の状況と傾向2015(State and Trends of Carbon Pricing 2015)」 によると、実施済み又は計画中の炭素価格制度の数が、世界全体で2012年以降ほぼ倍増し、現在は約500億ドルに上ります。

世界各地の炭素価格の取組みから得られた経験に基づき、政府や企業が、温室効果ガス排出に伴う社会的コストの負担を求める上で、有効兼つ費用効果の高い仕組みを開発するための指針を示す新たな調査報告があります。

世界銀行グループとOECDがIMFからのインプットを得て実施した同調査は、適切に設計された炭素価格制度は、強力かつ柔軟なツールとして、気候変動を引き起こす温室効果ガス排出を削減できるだろうと指摘しています。

この指針は、公正(Fair)、政策と目標の整合(Alignment)、安定性と予測可能性(Stability)、透明性(Transparency)、効率性とコスト効果(Efficiency)、信頼性と環境への配慮(Reliability)の頭文字をとってFASTERと名づけられています。投資を促進して人々を保護するため炭素排出者に負担を求めようとする政府にとって、この指針は有効でしょう。

市場参加の準備のためのパートナーシップ」は、低炭素型社会への移行に取り組む中国を含めた各国を支援しています。

低炭素型のビジネス戦略策定が最終的な収益にプラスに働く可能性がある、と認識する企業が増えて来ています。炭素価格リーダーシップ連合は、2014年の国連気候サミットでは74カ国と1,000以上の企業が炭素価格への支持を表明するなど、炭素価格への支持の高まりを受けて設立されましたが、パリのCOP21において正式に発足することになります。

 更新日: 10/23/2015



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