(仮訳)
ナップ学長、ブラウン学部長、教授の皆様、学生諸君、そしてご来賓の皆様。
本日は、このような講演の機会を頂きありがとうございます。皆様の前でお話できますことを光栄に存じます。本日は、現在世界が直面している課題についてお話させていただく他、貧しい人々や弱い立場にある人々の生活水準を効果的に向上していくための世銀グループの取り組みについてご説明させていただきます。
世界を見渡し、何が最も差し迫った課題かを考える時、米国の財政運営不安は我々の大きな懸念です。政策担当者による迅速な問題解決を望みます。この不透明な状況は、世界経済の他の不安定要因も重なり、近年数百万人が貧困から抜け出したアフリカ、アジア、ラテンアメリカの新興国や途上国に大きな打撃を与えかねません。
また、現在、中東で起きている混乱も特に注視する必要があります。シリアの内戦はすでに2年半も続き、膨大な数の犠牲者を出しています。死者は10万人を超え、400万人が住む家を失い、さらに200万人が近隣諸国に難民として避難し、特にヨルダンとレバノンにとっては大きな負担となっています。内戦はなおも続いており、市民の生活と経済は破綻し、その影響は日ごとに悪化するばかりです。
我々は中東から目を背けてはなりません。世銀グループは重要な役割を果たしてきました。ある時は舞台裏で外交官と話し合い、またある時は人道支援の実務者と共に前線に立って取り組みを進めています。我々は、常に各国政府や企業、そしてシビルソサエティ・グループと協力し、開発のための持続可能で強固な基盤の構築を図っています。それにより、中東で数百万の人々の暮らしを支え、さらに、より良い仕事、教育、質の高い医療へのアクセスを求める世界の数十億人の暮らしに貢献しています。
世銀の重要な業務のひとつは、紛争後の国々、紛争の影響下にある国々、あるいは慢性的に脆弱な国々への対応です。長い間、脆弱な状態にある国では紛争が起こりやすくなることは周知の事実です。世銀グループと国際社会は、こうした脆弱国における機構面・社会面の複雑な課題に立ち向かう必要があります。行動を起こさなければ、大きなつけを払うことになるでしょう。しかし、よく練られた計画に基づき対処すれば、大きな見返りを得ることができます。脆弱国で組織・制度やインフラを整備し、人的能力を育成する機会があるなら、あるいは、ぜひとも必要な民間投資の誘致のための取り決めをまとめられるなら、そのチャンスを捉えなければなりません。一方、各国に対し、貧困層をとりこぼさない開発を支援しなければ、あるいは、強固なガバナンスの構築を支援できなければ、我々の誰もが、今日のシリアのように国が戦火に包まれるような悲惨な事態の影響を受けることになります。
紛争へと駆り立てる要因
「アラブの春」の10年前、多くの中東諸国では、年間4-5%という高い成長率がみられました。しかし、水面下には深刻な問題が潜んでいました。高い教育を受けた中産階級の若者が、一握りしかない仕事が才能ではなくコネをもつ人だけに与えられることに不満を抱いたのです。民間セクターは国から特権を得、ある特定の者だけが恩恵を享受する縁故資本主義を台頭させ、輸出と雇用を弱体化させていました。
この不平等感、そしてそれに対する怒りは、幼い子供たちにまで浸透しました。2011年にカイロのタハリール広場に政府抗議デモのため100万人が集まった際、抗議デモに参加した人々の子供たちは、教室で抗議を行い授業内容の改善を求めました。こうした事態は、繁栄の果実が特権階級だけにしか行き渡らないことにより招かれます。取りこぼされた人々は皆、激しい不平等感を味わっているのです。
現在も続くこの危機は、多くの中東の国々に3つの課題を突きつけています。第一に、マクロ経済の安定の回復。第二に、抗議に加わった人々の高い欲求に応えられる経済改革の実施。そして第三に、新憲法への移行と複数政党による透明性のある選挙の実施です。こうした課題に一国だけで対応するのは困難ですが、域内各国が結集し地域がひとつとなれば可能です。このように、本来確保されるべき人間の基本的尊厳を求め命をかけて勇敢に立ち向かう人々を支援するため、国際社会が資源を動員することがより重要になっています。
また、ヨルダンとレバノンへの支援についても忘れてはなりません。世銀は、ヨルダンに対して数か月前に1億5000万ドルの緊急援助を行ったほか、レバノンでは、シリア内戦による同国の経済・社会への影響の総合的評価を最近行いました。その結果、シリア内戦によるレバノンの損害は数十億ドルに上ることがわかりました。
現在、レバノンには76万人以上のシリア難民が暮らしています。これを米国に置き換えると、計5600万人の難民のうち今年1月以降だけで4500万人が入国した計算になります。どれほどの混乱になるか想像してみてください。先週私は、国連総会で「レバノン国際支援国会議」に出席しました。各ドナーは一定の拠出を誓約しましたが、レバノンが破滅的状況になるのを防ぐには、まだまだ不十分です。
世界銀行の2つの目標
ちょうど半年前、世銀理事会は、世銀グループの2つの目標を承認しました。1つ目は2030年までに極度の貧困をなくすこと、2つ目は所得の下位40%の人々の実質所得を引き上げて、繁栄の共有を促進することです。
この2つの目標が、現在の中東情勢や、貧しい国々の状況とどう関係しているのでしょうか。極度の貧困をなくすという目標は、それ自体が世銀業務全体の道徳上の柱となっています。2013年の今、1日1.25ドル未満で暮らす人々が10億人を超えるという事実は、我々の良心の汚点です。我々は、環境や状況を問わず、偏見を持つことなく、ただちに貧しい人々が貧困から抜け出せるよう支援しなければなりません。
2つ目の目標である繁栄の共有の促進は、より複雑ですが、世界全体に当てはまります。「アラブの春」をはじめ、トルコやブラジル、南アフリカにおける最近の抗議デモは、中産階級の仲間入りを果たしたいという万人共通の願いがその根本にあるからです。
今日、世界の指導者は、所得の下位40%を占める人々に繁栄の果実を行き渡らせることこそが安定を確保するために不可欠だと認識し始めています。こうした不満の大半は以前は水面下でくすぶっていましたが、トーマス・フリードマンがその著作で取り上げたように、ソーシャル・メディアにより膨大な数の「バーチャル中産階級」が誕生しました。こうした人たちは、機会の扉を開くよう挑戦し続け、その扉を打ち破っていくでしょう。
ここでの教訓は、成長が、一部のエリート層だけでなく国民全体に浸透しているかどうかにより注意を払う必要があるということです。そのためには、全体的なGDP成長率だけを見るのではなく、所得の下位40%の人々の所得拡大を直接監視する必要があります。経済的進歩は、環境的にも財政的にも、何世代にもわたり持続可能でなければなりません。
では、どうすれば貧困層の収入を持続的に拡大できるのでしょうか。繁栄の共有を実現する道は数多くあります。ひとつは、高度経済成長を通じた機会の拡大を通じてです。また、貧困層や不利な立場にある人々の生活水準向上に重点をおく、安定した社会的盟約による道もあります。社会が、自由に移動でき、よりダイナミックで生産的であれば、どちらの道も機会の拡大に導いてくれるはずです。
2030年までに極度の貧困をなくすという1つめの目標は画期的なものです。しかし同時に、達成は極めて困難です。経済学者の推定によると、今日の貧困者数は、2010年より1億5000万人減り10億人をやや上回るとされています。
我々は、確かに前に進んではいますが、この闘いで確かなものは何もありません。また、目標に近づくにつれ、ますます困難を極めることでしょう。グローバルな成長が以前のペースより遅い可能性もあれば、気候変動に起因する災害の発生により長年の開発成果が帳消しになる可能性もあります。投資家がこれまで以上に及び腰になる可能性もあります。待ち望まれているインフラ整備向けの長期資金は今ですら乏しいのに、枯渇してしまう可能性もあるでしょう。
これらの2つの目標を達成するため、世銀グループには結果を出すことが求められています。マーチン・ルーサー・キング牧師のかつての言葉通り、我々の目標を机上の空論から確かな行動へと変貌させることが必要です。では、貧困撲滅のためのこの計画を「効果的な」行動につなげるために、我々は何をすれば良いのでしょうか。
世銀グループの戦略
そのひとつの答えとして、我々世銀グループは、民間セクターを支援する国際金融公社(IFC)、政治的リスク保証を提供する多数国間投資保証機関(MIGA)を含めた世銀グループ全体としての戦略を初めて作成しました。この戦略は数日前に発表されたばかりです。世銀グループとして各機関共通の目標と原則を掲げ、包括的なロードマップとなる戦略を策定するのは、これが初の試みとなります。
では、このような戦略がなぜ重要なのでしょう。官僚主義は時として人が互いに歩み寄るのを妨げます。人は自分の縄張りを作り、人からの影響をはねつける傾向があります。こうした縄張りはしっかりと守られた壕、またはサイロのようです。私はサイロがたくさんあるアイオワ州で育ちました。トウモロコシを貯蔵するサイロは、長くて寒い冬の間、孤立して建っている様子が特に印象的です。確かにサイロは、アイオワ州のトウモロコシ畑では重要な機能を果たすかもしれません。しかし世銀グループでは無用の長物です。
そうしたサイロの集合体のような状態で、一体どうやって貧困層の支援という崇高な志を達成できると言うのでしょう。これは我々だけでなく、大きな組織であればどこについても言えることです。世銀の有能な人材の考えを相互につなぎ、知識が自由に行き交うようにしなければなりません。
世銀グループの戦略は、崇高な目標の達成に向けて、組織全体が一枚岩となって協力するという前提に立っています。さらに、我々が成功のチャンスを求めるのなら、まず優先課題を選び、そこから落ちた取り組みは放棄するというように、選択的になる必要があることも承知しています。
では、何を止めるのでしょうか。まず、我々より他の機関の方が得意な分野の業務を続けることはしません。その年の業務目標を達成することだけが目的のプロジェクトや、世銀の名を知らしめるためだけのプロジェクトに取り組むことはしません。また公共の利益のためではなく、個人の利益のための行動も認められません。
では、我々の原則とは何でしょうか。
世銀のすべての活動が、前述の2つの目標を追求するものとなるようにします。
我々は他の組織から見て協働しやすいパートナーとなり、力を合わせてこれらの目標達成を図ります。
我々は大胆に行動します。
適切なものであればリスクも進んでとります。プロジェクトが、当該国または地域の開発を大きく変え得るものならば、結果的に失敗する可能性があっても、そのようなプロジェクトに敢えて投資します。
また、世銀のグローバルな知識を必要としている国や企業に確実に提供し、各地の状況に合った解決策の提供に優れた手腕を発揮します。
さらに世銀は、金融、教育、保健、インフラ、エネルギー、水などの分野で最先端のグローバルな取り組みを率いた豊富な経験を生かすことができます。
自らの国民に投資を惜しまない国に対しては、常に支援の機会を模索していきます。そうした国々が競争力を高める後押しをする必要がありますが、強力な方策のひとつは、教育、保健、職業訓練への投資を通じた支援です。
さらに、各国が切望する長期的資金の確保を可能とするような革新的な金融ツールの考案にも力を入れていきます。
戦略を現実のものとするために
この戦略は我々に、貧困層に結果をもたらすことを軸とする「ソリューション・バンク」となるよう求めています。戦略には強調すべき3つの要素があります。
第一に、民間セクターと協力して、その専門知識と資金を貧困との闘いに活用します。これは、貧しい人々に良い仕事を生み出すために特に重要です。
第二に、紛争の影響下にある脆弱国への取り組みを深めます。そのために、より大胆に、リスクに怯まず、多くの資金をコミットすることが求められます。
第三に、女性や女児への投資や気候変動との闘いといった地球規模の課題について可能な限り積極的に対応します。例えば気候変動への対策は、問題の規模の大きさを鑑みても、それに見合うだけの大胆な対応を行わなければなりません。
良い雇用を生み出すために
戦略の1つ目の要素における世銀グループの最優先課題は、雇用創出の支援です。地域や個々の国々が、民間セクター主導の成長に適した状態に自らを位置づけるには、どのように支援するのが最も有効でしょうか。とてつもない挑戦です。今後10年間に、世界で新たに6億人分の雇用を生み出さなければなりません。
貧しい人々が貧困から抜け出すために決定的に必要なのは、透明かつ開かれた形で、国内およびグローバルな市場とつながりを築くことです。これにより、数百万の人々に起業の可能性を開くことができます。
例えば、IFCのクライアントであるEcomは、30か国以上でココア、コーヒー、綿花の栽培農家をグローバル市場と結んでいます。同社は昨年、13万4000戸余りの農家を支援したほか、農業団体を通じてさらに数千戸の農家を支援しました。
世銀はまた、こうした先駆的な新ビジネスモデルを導入している機関も含め、パートナーの幅を拡げています。ちょうど2週間前、私は、中国企業アリババの創設者であるジャック・マー(馬雲)氏に会いました。昨年、中国国内で取り扱われた全ての小荷物88億個のうち、実に6割が同社の商品でした。彼は中国の小さな村の女性が作ったものだと言って、自分の黒いキャンバス製の靴を見せてくれました。アリババが流通コストを非常に低い水準まで引き下げることができたおかげで、この女性は、町の靴屋よりも安い価格で靴を中国各地に販売・配送することができるようになったのです。同社は創立以来わずか数年で、中国国内で600万社を超える中小企業の設立と成長を促進しました。
これはまさに画期的なビジネスモデルの例です。とはいえ、アリババを含む企業が距離をおく環境も多くあります。世銀グループは、民間セクターに信頼のおける助言を行っており、そのため、危険な環境にも敢えて一番に足を踏み入れることで、民間企業が安心して投資できるようにします。政府系ファンドや機関投資家の運用資産は数兆ドルに上ることが分かっています。その大半はリターンの低いファンドに眠っています。そこで世銀は、こうした民間資金を途上国のプロジェクトに誘致するための新たな方法を積極的に探っています。最近の例としては、中国で世銀が立ち上げた「協調融資運用ポートフォリオ・プログラム(MCPP)」があります。中国政府はIFCと平行して30億ドルの拠出を行うことに同意しました。他の国々も同プログラムへの参加に関心を寄せています。
脆弱国を優先的に
戦略の2つ目として我々は、世界で最も深刻な問題を抱えた、紛争の影響下にある脆弱ないくつかの国々においてリスクをとることを誓約しました。
今年、私は、潘基文国連事務総長と共に、11か国が調印したアフリカ大湖地域の「和平・治安・協力枠組み」を支援するため同地域を訪問しました。同地域は20年以上にわたり紛争状態にあります。コンゴ民主共和国東部では、我々の到着数日前に反政府勢力が新たな戦闘を始めましたが、我々がゴマに到着するわずか数時間前には停戦が宣言されました。緊迫した状況ではありましたが、国連の拠点から地元の病院まで、沿道には数多くの人々(その大半は女性)が立ち並んでいました。我々の車列に声援を送ってはいるものの、人々の表情には深いトラウマの色がありありと見てとれました。私は、「強姦をやめさせて」とだけ書いたプラカードを掲げた女性がいたことを決して忘れることはないでしょう。確かにその通りです。
長年の紛争から立ち上がろうとする国々に「平和の配当」を生み出すには、これまでよりはるかに迅速かつ早急な行動が求められています。平和なしには開発が不可能なことは明らかです。しかし開発が進まなければ平和も長続きしないことは忘れられています。大湖地域において世銀は迅速に動き、同地域への追加支援として10億ドルを調達しました。我々の訪問後ほどなく、世銀理事会は、数百万人に電力を供給するルスモ滝水力発電所の建設に3億4000万ドルの融資を承認しました。
私は今日、紛争の影響下にある脆弱国向け支援を大幅に拡大することをこの場でお約束します。今後3年間に、世銀の最貧国向け基金である国際開発協会(IDA)による脆弱国向け支援資金を約50%引き上げる意向です。また民間セクターを支援するIFCも、今後3年間に脆弱国向け支援を50%拡大することを誓約します。
気候変動への取組み
戦略の3つ目は、繁栄の共有という世銀の目標に直接関係しています。共有とは、所得の下位にある人々を成長プロセスに取り込むだけでなく、成長が将来の世代を犠牲にしないことも意味します。我々は、地球とその資源を子供や孫の代、そしてひ孫の代まで共有していかなければならず、そのためには気候変動と戦う野心的な計画を用意しなければなりません。
気候変動は、今日、開発に対して脅威となる可能性があります。気候変動によって、何百万もの人々の繁栄がかなわぬ夢となってしまいかねません。世界中すべての地域がその影響を受けますが、貧困層や脆弱層など適応力が最も弱い人々が一番深刻な被害を受けるのです。極度の貧困を撲滅しようとするなら、強靭なコミュニティを構築し、天候に由来する災害などのショックを緩和することで、貧しい人々が長期にわたり生活向上を図れるようにしなければなりません。
気候変動への取組みは、政府だけでできるものではありません。政府、民間セクター、シビルソサエティ、個人が一体となり、協力的かつ意欲的な計画に沿って対応する必要があります。いろいろな形での支援が可能ですが、おそらく最も効果的なのは、気候変動の対応コスト増大を重視し、気候変動の対策資金を官民両セクターから動員することでしょう。
極端な気候現象の経済的被害は甚大です。沿岸都市の洪水被害は現在、年間60億ドルですが、2050年までには年間1兆ドルに達しかねません。しかしもし、年間500億ドルを防災に投じれば、被害を回避できるだけでなく、差額の年間9500億ドルを学校や病院、社会的セーフティネットに投入できます。
私は本日、世銀グループが気候変動対策向け資金の割合を増やすことをこの場で約束し、さらに、この問題に全力で取り組むすべてのパートナーと協力していく所存です。
出発点となるのはクリーン・エネルギーです。世銀は、各国がクリーン・エネルギーの導入の際に直面する多額の費用や政策面の障害に対処できるよう、知識、ベストプラクティス、財政的支援を提供していきます。再生可能エネルギー資源のマッピングについては、今後3年間に10か国以上で完了すべく順調に作業が進んでいるところです。また今後、エネルギー補助金の改革は12か国以上で実施し、急速に進んでいるマイクログリッドの技術を活用した炊事や照明の新ビジネス・モデルの構築に向けてパートナーと協力していきます。さらに世銀の直接的な支援により3年後には世界全体の発電能力が最低1万メガワット増える見込みです。これはペルーの総発電量に相当します。
終わりに
貧困の撲滅、繁栄の共有促進、そして将来の世代との繁栄の共有という目標は、達成が可能です。ただし、これまでになかった緊張感を持って協力して取り組みを続けるのであれば、という条件付きです。先程も申し上げたように、我々は貧困撲滅に向けた社会的な運動を進めなければなりません。そのためには、今日ここにいらっしゃる皆さま全員の助けが必要です。ウェブキャストでこの講演をご覧いただいている方々、フェイスブックやツイッターでこの問題について知った方々の助けも必要です。
ちょうど6か月前、世銀グループ総務会は、これら2つの目標を支持し、2030年までに極度の貧困を終わらせることは可能だと宣言することで、この社会的運動の基礎を築きました。今では世界中で関心が高まっています。オバマ米大統領やデービッド・キャメロン英首相などの政界の指導者たちが貧困撲滅を呼びかけています。「ワールド・ビジョン」のような宗教の精神に基づいたNGOのリーダーも貧困撲滅を呼びかけています。ONEキャンペーン、オックスファム、セーブ・ザ・チルドレン、リザルツなど多くのシビルソサエティ組織も貧困撲滅を呼びかけています。そして、若者も貧困撲滅を呼びかけています。
先週末、ニューヨークのセントラル・パークの芝生広場で開かれた「地球市民フェスティバル」には、2030年までに貧困をゼロにするという目標の下に6万人の大観衆が集まりました。私は、今日ここにいらっしゃる皆さん全員にこの運動に加わることをお願いしたいと思います。この運動を推し進めていきましょう。出来ることはたくさんあります。スマートフォンを使って今すぐ出来ることもあります。「グローバル貧困プロジェクト」のウェブサイト(www.zeropoverty2030.org)に行き、一世代の間に貧困撲滅を実現するための嘆願書に署名してください。皆さんにとってこの課題がいかに重要であるかを、世界の指導者に訴えようではありませんか。
世銀グループの目標は明確です。それは2030年までに極度の貧困をなくすことであり、繁栄を促進して、所得の下位40%の人々と将来の世代に必ず繁栄の果実が行き渡るようにすることです。それはまた、歴史の弧の行先を変え、我々が他の世代には夢でしかなかった事に力を注ぐ歴史的な機会でもあります。セントラル・パークでのコンサートで、私は4歳になる息子のニコをステージに呼びました。この目標を目に見える形で示すためです。ニコが私の背丈まで成長し、皆さんのように大学4年生になる頃には、極度の貧困のない世界を、息子とクラスメートたちに引き渡すことができるかもしれません。
これは、この時代を特徴づける道徳上の問題です。生活水準を向上させるツールと資源があるというのに、10億人もの人々が極度の貧困状態に苦しむことを放置しておくわけにはいきません。途上国の所得の下位40%を占める人々が雇用、保健、教育を受ける機会をもてないという状況を容認するわけにはいきません。ニコをはじめとする世界中の4歳児のために、そして将来のすべての世代のために、我々には、それ以上のことができるはずですし、そうしなければなりません。気候変動のような問題は、時間が迫ってきており急がなければなりません。しかしここでも、マーチン・ルーサー・キング牧師の言葉を借りれば、正しく行動するための機は常に熟しているのです。今こそがその時であり、それを行うのは我々です。正しく行動しようではありませんか。
ご清聴ありがとうございました。