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プレスリリース2024年10月17日

ヨーロッパ・中央アジア地域:低成長ながら経済は安定

ワシントン、2024年10月17日ヨーロッパ・中央アジア地域の途上国の経済成長は、一連の危機の後、安定しつつあるが、2000年代初頭を大きく下回る水準にある、と世界銀行は本日発表した地域経済報告で指摘している。

同地域の成長率は、2023年の3.5%から今年は3.3%に鈍化し、2025年にはさらに2.6%へと減速するとみられる。これは、2000~09年の平均成長率である5.1%を大幅に下回る水準であり、域内の中所得国が一世代か二世代の間に高所得国の仲間入りを果たすという強い目標を達成するために必要な水準を満たしていない。インフレ率の低下により、一部の中央銀行では今年、政策金利引下げへの機運が高まっている。ただし、持続的な物価圧力が懸念される中、政策面で慎重な姿勢が広がっている。

報告書は、経済成長を再び活性化し、高所得国との収斂促進に必要な人材を確保するためには、地域全体での教育制度、特に高等教育の大幅な見直しが必要だとしている。

「ヨーロッパ・中央アジア地域の国々は、高インフレ、ロシアによるウクライナ侵略の影響、域内の主要輸出市場である欧州連合(EU)の低迷といった最近のショックを乗り越えてきた」と、アントネラ・バッサーニ世界銀行ヨーロッパ・中央アジア地域総局副総裁は述べた。「より大幅な生産性拡大を長期的に実現するには、域内各国が中等教育と高等教育の質を大きく向上させることが重要になる。これは、人的資本と創造性を強化するための鍵となる」

現在、域内途上国の経済成長は、賃金の上昇、政府から家計への移転、インフレ率低下を背景に、個人消費が支えている。また、移民による本国送金はコロナ前の水準を上回っており、引き続き西バルカン諸国、南コーカサス、中央アジアの経済成長を支えている。

観光業は、この地域の経済成長を支えるもう一つの好材料であり、海外からの観光客の数はコロナ前の水準を上回っている。トルコでは、今年上期の観光客数が2018年と2019年の上期よりも約30%増加した。ただし、商品輸出については、欧州連合(EU)の成長鈍化により、回復が弱い傾向にある。

ウクライナの成長率は、ロシアによる侵略と広範囲での停電による重大な損害により、昨年の5.3%から今年は3.2%、2025年には2%へと減速する可能性が高い。ロシアでは、金融引締め政策に加え、生産設備と労働力への制約の強化により、成長率が2023年の3.6%から今年は3.2%、2025年は1.6%に落ち込むとみられる。

ロシアに次ぐ域内第2位の経済大国であるトルコの成長率は、消費主導の景気拡大からの経済のリバランスが進行中であること、また金融・財政政策の正常化により、2023年の5.1%から今年は3.2%に減速するとみられる。また、公共投資の削減、借入コストの上昇、建設業界の一層の冷え込みにより、投資の伸びも大幅に鈍化した。

人的資本の強化と成長促進に向けた教育への投資

報告書は、人材が経済成長の原動力として担う重要な役割について詳細な分析を実施しており、域内の多くの国がすでに人口構成と人的資本の大きな課題に直面している重要な時期時に、教育の質の低下が進んでいると指摘する。多くの国で高齢化が急速に進み、域内諸国の一部では、女性を中心に労働参加率が引き続き低迷している。

「地域の長期的成長を促進する最大の機会は、高等教育を中心に教育の質を高めることにある」と、イヴァイロ・イズボルスキー世界銀行ヨーロッパ・中央アジア地域総局チーフ・エコノミストは述べた。「教育の質を優先し、生涯学習を支援することは、各国における人的資本の強化、人材の不適切な配置や浪費の削減、イノベーションの活性化、持続可能な経済成長と開発の推進に役立つであろう」

報告書は、域内全域において、就学率はすべての教育レベルで高いとしている。ただし、問題なのは教育の質であり、近年、悪化する傾向にある。15歳を対象とする国際的な学習到達度調査(PISA)のスコアが、過去10年間で大幅に低下している。基礎教育(初等・中等教育)の質の格差は、恵まれない環境にある生徒の間で特に大きい。

高等教育の状況は、基礎教育よりもさらに芳しくない。他の地域で基礎教育の質が同等であるか所得水準が同等である国には、よりレベルの高い大学がある。例えば、世界の大学の上位500校でみると、この地域からは9大学しかランクインしていない。

高等教育システムの弱点としては、時代遅れのカリキュラム、設備やインフラへの投資の欠如、不適切な管理、教育と労働市場ニーズのずれなどが挙げられる。こうした課題への対応には、特に科学、技術、工学、数学(STEM)の理系科目のカリキュラム見直しの加速、高等教育の質の向上、人的資本強化に向け十分な訓練を受けた教師のさらなる確保を目指す取組みが必要となる。

ヨーロッパ・中央アジア地域の経済見通し

市場価格による実質GDP成長率(単位:断りがない限り、%)

2021

2022

2023

2024e

2025f

2026f

アルバニア

8.9

4.9

3.4

3.3

3.4

3.4

アルメニア

5.8

12.6

8.3

5.5

5.0

4.6

アゼルバイジャン

5.6

4.6

1.1

3.2

2.7

2.4

ベラルーシ

2.4

-4.7

3.9

4.0

1.2

0.8

ボスニア・ヘルツェゴビナ

7.3

3.8

1.6

2.8

3.2

3.9

ブルガリア

7.7

3.9

1.8

2.2

2.8

2.7

クロアチア

13.0

7.0

3.1

3.5

3.0

2.8

ジョージア

10.6

11.0

7.5

7.5

5.2

5.0

カザフスタン

4.3

3.2

5.1

3.4

4.7

3.5

コソボ

10.7

4.3

3.3

3.8

3.9

4.0

キルギス共和国

5.5

9.0

6.2

5.8

4.5

4.5

モルドバ

13.9

-4.6

0.7

2.8

3.9

4.5

モンテネグロ

13.0

6.4

6.3

3.4

3.5

3.2

北マケドニア

4.5

2.2

1.0

1.8

2.5

3.0

ポーランド

6.9

5.6

0.2

3.2

3.7

3.4

ルーマニア

5.7

4.1

2.1

2.0

2.7

3.5

ロシア連邦

5.9

-1.2

3.6

3.2

1.6

1.1

セルビア

7.7

2.5

2.5

3.8

4.2

4.0

タジキスタン

9.4

8.0

8.3

7.2

5.5

5.0

トルコ

11.4

5.5

5.1

3.2

2.6

3.8

ウクライナ

3.4

-28.8

5.3

3.2

2.0

7.0

ウズベキスタン

8.0

6.0

6.3

6.0

5.8

5.9

出所:世界銀行
注:e = 推定値; f = 予測値; GDP = 国内総生産

お問い合わせ

ワシントン:
Indira Chand +1 (703) 376-7491 ichand@worldbank.org

ワシントン:
Nina Vucenik nvucenik@worldbankgroup.org

ブリュッセル:
Christine Lynch +32 474 864 772 clynch1@worldbankgroup.org

東京:
開裕香子 +81 (3) 3597 6650 yhiraki@worldbankgroup.org

 

プレスリリース番号: 2025/ECA/027

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