ワシントン、2023年10月5日—本日発表された世界銀行のヨーロッパ・中央アジア地域半期経済報告書によると、ヨーロッパ・中央アジア地域の新興国及び途上国(EMDEs)の2023年の経済成長率は2.4%に上方修正された。
今回の景気回復は、戦火に見舞われたウクライナの見通しと中央アジアの見通しが改善したことに加え、トルコの底堅い個人消費、ロシアの軍事費・社会的移転費への政府支出の急増による予想以上の成長を反映している。ロシアとウクライナを除いた地域の経済成長率は、2023年に3%になるとみられるが、パンデミック以前の長期平均には依然届かない。全体として、域内諸国の半数で、2023年の成長率は2022年よりも鈍化する、またはほぼ横ばいになると予測される。
同地域最大の貿易相手国である欧州連合(EU)の景気拡大の勢いが弱い中、高インフレ、金融引締め、ロシアによるウクライナ侵略の余波もあり、2024~25年の成長率は年率2.6%にとどまる見通しである。
「ロシアによるウクライナ侵略、物価高騰の危機、気候変動リスクなど複合的ショックが、ヨーロッパ・中央アジア地域にとてつもない課題をもたらしている。各国が生産性向上の回復、経済的・社会面での成果向上、強靱性の強化、脱炭素化への取り組み加速を図るには、新たなアプローチが必要となる」と、アントネラ・バッサーニ世界銀行ヨーロッパ・中央アジア地域総局副総裁は述べた。
ヨーロッパ・中央アジア地域のEMDEsの見通しには下振れリスクが影を落としている。世界の一次産品市場のボラティリティが高まり、エネルギー価格が高騰する中、高インフレが続く可能性がある。世界の金融市場は、資金調達条件の引締めにより、より不安定かつ制約的になる可能性がある。2020~24年の世界の成長率は、1990年より後のどの5年間よりも低く、さらに低下する恐れもある。
「コロナ危機と物価高騰危機のために過去数年間に大規模な支出増加があった後、当初は各国政府による財政再建計画があったにもかかわらず、今年も財政赤字は概ね横ばいである。高齢化による負担増、支払金利の上昇、気候変動の緩和・適応対策に必要な投資に加え、その他の重複する危機への対応のために、政府予算への圧力は引き続き高まっていく」と、イヴァイロ・イズボルスキー世界銀行ヨーロッパ・中央アジア地域総局チーフ・エコノミストは述べた。
ウクライナ経済は、ロシアによる侵略の始まった2022年にはマイナス29.1%の成長率となったが、今年は、電力供給の安定化、政府支出の増加、ドナーからの継続的な支援、収穫量の増加、西側国境経由への輸出ルート変更などを反映して3.5%となる可能性が高い。
トルコの今年の成長率は、政策の不確実性低下と強靭な消費者需要を反映して4.2%になると見込まれる。ただし、金利上昇と段階的な財政再建を受け内需が落ち込むのに伴い、2024年と2025年は平均3.5%に低下する可能性が高い。ロシアでは、急増する政府支出と底堅い消費により、2023年の成長率は1.6%になると予測されるが、需給逼迫と消費者需要の鈍化により、2024年には1.3%、2025年には0.9%に減速するとみられる。
中央アジアでは、今年の成長率は4.8%に上昇が見込まれ、インフレ率低下が予想される2024年と2025年は平均4.7%になるとみられる。
対照的に、西バルカン諸国では、今年の成長率は2.5%に鈍化するが、インフレ圧力の緩和、輸出の段階的な回復、ドナーの支援によるインフラ・プロジェクトへの公共支出増大を反映して、2024年と2025年には3.3%に回復が見込まれる。アルバニア、コソボ、モンテネグロでは、2023年の消費は観光業の回復に支えられて底堅さを維持したが、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア、セルビアの消費はEUからの輸出需要の低迷により落ち込んだ。
中央アジアと南コーカサス3国を中心に、一部の国では好調な貿易と資金・人の流入増大が引き続き経済活動を支えている。アルメニア、ジョージア、タジキスタンは、2年連続で域内トップの成長を続けている。