ワシントン、2023年4月20日 — 途上国のエネルギー移行のためには、エネルギー効率向上と再生可能エネルギーの拡充から石炭火力発電の段階的廃止に至るまで、電力部門インフラの前例のない変革が必要になる。世界銀行が提案するエネルギー移行のための新枠組み「拡充から段階的廃止まで」は、資金調達をめぐる課題を特定し、包括的な資金調達アプローチを策定するにあたっての行程表の役割を果たす。
途上国は、エネルギー移行と電力網インフラの資金確保の手段を持たないがために、電力料金が割高となることが多い。こうした国々は、エネルギー効率向上や再生可能エネルギー導入のプロジェクトに着手できず、割高かつコスト変動幅の大きな化石燃料プロジェクトから抜け出せないでいる。このように途上国は、エネルギー移行において三重の不利益をこうむっており、これが貧困の罠となっている。
世界銀行グループの試算によると、世界全体で廃止リスクのある約 1 兆ドルの石炭火力発電所の89% は中・低所得国にある。エネルギーの公正な移行をまかなうには、現在動員されているよりもはるかに多くの資本フローを確保し、低炭素型電力発電の拡充を図る必要がある。
「低炭素型エネルギー源への移行を加速する一方で、企業や個人に信頼できる電力アクセスを提供するには、排出削減に向けた検証可能な形での資金調達、民間部門との緊密な連携、そしてはるかに多くの資金、特に譲許的資金が必要になる」とマルパス世界銀行総裁は述べた。「世界銀行グループは、エネルギー部門とビジネス環境を強化する改革や、新規の発電能力とエネルギー効率向上への投資を支援するほか、再生可能エネルギー用の送電網整備、移行に伴う社会的課題に対応するための資金と技術支援を提供している」
新枠組み「拡充から段階的廃止まで」は、電力部門の移行を模索する中で途上国が直面する各種の課題を示し、そうした問題に対処する道筋を特定しようというものである。途上国によるエネルギー転換の加速を阻む主な障壁は3つある。 第1に、再生可能エネルギー・プロジェクトはとてつもなく高い初期資本コストが必要になるため、多くの国は非効率なエネルギー補助金に頼り、高コストで炭素排出量の多いエネルギーから脱却できないでいる。第2に、高い資本コストが、途上国を再生可能でないエネルギー源への投資に走らせている。そして第3に、エネルギー部門の基本要件、特に組織的機能の脆弱さが、移行の拡大を阻んでいる。
今回の新枠組みは、再生可能エネルギー導入への障壁克服の基礎となる6段階に分けてエネルギー移行を説明し、「好循環」に導こうとしている。好循環は、政府がリーダーシップを発揮して、支えとなる規制環境の構築、組織・制度の機能向上、リスク最小化の手段を生み出すところから始まる。その結果、透明性が高く競争力のあるプロジェクトが組まれ、エネルギー安全保障、低価格エネルギー、雇用創出を含め、差し迫ったニーズを満たす再生エネルギーの実現が可能になる。
「途上国における広範なエネルギー転換には、継続的で戦略的な取組みに加え、政府、投資家、パートナー間の現在よりはるかに緊密な連携が求められている。」とグアン・チェン世界銀行世界銀行インフラストラクチャー担当副総裁は述べた。「世界銀行は、移行準備、公益事業・電力網の強化、割安なクリーン・エネルギーのための投資に対する低コストで譲許的な気候変動対策融資により各国政府を支援するなど、好循環の一歩を踏み出すために重要な役割を果たすことができる。」
「拡充から段階的廃止まで」のアプローチは、石炭火力発電の段階的廃止という政治的および財政的に複雑な課題への解決策も提供している。より踏み込んだ計画を立てることにより、資産が放置されるリスクを軽減できる。石炭火力発電所の負債借換えにより、稼働停止日の繰上げが可能となる。石炭経済で生計を立てている労働者と地域社会に対しては、公正な移行を保証しなくてはならない。地球公共財としての石炭使用の段階的廃止に伴い世界が享受する利益を各国がより多く獲得できるようにするには、譲許的支援が必要とされている。