ワシントン、2014年10月6日—南アジア地域の経済成長は、域内最大の経済大国であり、世界で最も貧困層が集中するインドの経済活動の活発化により2016年にかけて加速する、と世界銀行が半期に一度発表する「南アジア経済報告」は指摘している。
同報告は、南アジア地域の経済が、2014年は実質5.4%、2015年には6%、2016年には6.4%と成長し、東アジア・太平洋地域に次いで世界第二の成長地域になる潜在力があるとしている。同地域のGDPの80%を占めるインド経済の成長率は、2014/15年度(2015年3月までの1年間)が5.6%、2015/16年度(2016年3月までの1年間)が6.4%となる見込みだ。同地域は、インドに加え、アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、モルディブ、ネパール、パキスタン、スリランカの各国で構成される。
「南アジアでは今後数年間に広範な経済の安定と成長回復が見込める一方で、財政改革と構造改革の分野に潜在的なリスクが集中すると見られる」と、マーティン・ラマ世界銀行南アジア地域総局担当チーフエコノミストは述べる。「今後の成長は、今以上に投資と輸出の実績によるだろう。」
同報告は、世界人口の4分の1が暮らす南アジアの直面するリスクを分析した結果、域内全ての途上国が、景気回復の進む米国での金融引き締め政策と、通貨安に伴うユーロ圏の景気低迷による影響を被りやすいとしている。ただし、南アジア地域の経済により大きな影響を与えるのは、むしろ各国の国内状況であると指摘する。政治の混乱や持続性を欠く財政政策は、安定性を損ない、投資家の信頼を揺るがしかねない。他方、健全なマクロ経済政策や経済改革は、成長をさらに促進する。
同報告は、南アジア地域の多くは近年輸出が堅調で、2桁台の伸びを示す国も複数あると指摘する。輸出額の伸びは、2013年のインド・ルピー切り下げといった追い風要因だけでなく、より構造的な背景に起因している。輸出品目の多様化が進み、同時に、新興国市場が輸出全体に占める割合も拡大した。こうした要因はいずれも、グローバル市場における南アジア地域の地位が高まっていることの現れである。
南アジア地域各国は、この強みを生かすべきだろう。そうすれば同地域は、人件費が上昇する東アジア地域に代わり、世界の製造業のハブとなれる可能性がある。ただし、その実現のためには競争力の強化が必要となる。
インドでは、新たに選出されたナレンドラ・モディ首相率いる政権への期待から経済活動が活発化するという「モディ効果」が見られる、と同報告は述べている。今後約1年の間に、米国の景気回復によりインド製品及びサービスの輸出市場が創出され、インド経済の成長を下支えするだろう。また、個人投資は、政府のビジネス重視の姿勢を受けて回復が見込まれ、石油価格の低下が民間セクターの競争力を高めるはずだ。だが、インドの潜在的成長力を長期的に開花させるためには、経済改革が不可欠となる、と同報告は指摘する。
南アジア第二の経済規模を誇るパキスタンにとっては、先の政治的混乱により失われた投資家の信頼が、如何に成長に翳りを落としたかが焦点となる。同報告は、一連の動きの影響を判断するのは時期尚早とした上で、暫定的には、国内総生産の2.1%に相当する短期的損失が予測されるとしている。また経済成長は、今年が4.1%、2015年度が4.4%となる見通しだ。
政治的安定を取り戻し、改めて成長に向け集中的に取り組むバングラデシュの成長率は、昨年度が6.1%、2014~2015年度は6.2%になると予測される。国外移住者からの送金が国内消費の拡大を賄うと期待される一方、インフラ投資が堅調な総需要を支えるだろう。スリランカは力強い成長を維持し、2014年は7.8%、2015年は8.2%と予測される。2013年に1.5%の小幅な成長率を記録したアフガニスタンは、治安と政治への懸念が大きいため、他の国々よりも先行きは不透明である。