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経済に最も影響を与えているのは、疾患そのものよりも感染の恐怖に駆られた人々の行動
ワシントン、2014年9月17日 ― 世界銀行グループが本日発表したエボラ出血熱に関する報告によると、最も深刻な影響を受けているギニア、リベリア、シエラレオネの3カ国でウィルスの集団感染がさらに続いた場合、各国経済に及ぼす影響は8倍に膨れ上がる可能性があり、以前から脆弱な状況にあったこうした国に壊滅的な追い討ちをかける恐れがあると指摘している。
ただし、当該国と国際社会が迅速に対処すれば、経済的損失を緩和することは可能である。それには、感染症の封じ込めと、経済に悪影響を与えている感染を恐れる人々の「恐怖心による行動」の抑制を成功させなければならない。
世銀グループのジム・ヨン・キム総裁は、「今回の悲劇的な集団感染で一番の犠牲となっているのは、人命であり人々の苦しみだ。これは既に耐えがたい状況にある。しかし今回の分析結果は、十分な封じ込め対策の実施と恐怖感や不安感の抑制にいち早く着手すれば、エボラ出血熱による経済的打撃を早急に緩和できることを明示している」と述べた。
「国際社会は、エボラ出血熱の封じ込めに向けて本格的な支援拡大に乗り出している。本日我々が発表した報告は、感染拡大を食い止める対策が直ちに講じられなければ、エボラ出血熱がもたらす潜在的代償は計り知れないと強調している」と、キム総裁は続けた。
同報告は、2015年末までに予想されるエボラ出血熱による中期的影響を2つのシナリオを用いて推定している。「感染率低位推計」シナリオは、感染の中心である3カ国で迅速に封じ込めが実施された場合を、また「感染率高位推計」シナリオは、封じ込めが遅れた場合の推定値を示している。
GDPに与える損失額:各国別および3カ国合計
エボラ出血熱の短期的影響(2014年)と中期的影響(2015年)の推定値
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短期的影響 2014年 |
中期的影響 (2015年:低位推計) |
中期的影響 (2015年:高位推計) |
ギニア |
1億3,000万ドル (2.1 %ポイント) |
-4,300万ドル (1.0 %ポイント) |
1億4,200万ドル (2.3 %ポイント) |
リベリア |
6,600万ドル (3.4 %ポイント) |
8,200万ドル (4.2 %ポイント) |
2億2,800万ドル (11.7 %ポイント) |
シエラレオネ |
1億6,300万ドル (3.3 %ポイント) |
5,900万ドル (1.2 %ポイント) |
4億3,900万ドル (8.9 %ポイント) |
3カ国合計 |
3億5,900万ドル |
9,700万ドル |
8億900万ドル |
ドル表示は現行米ドルに基づく。またカッコ内は各国のGDPに対する損失額をGDP比(%ポイント)で示したもの。
分析では、GDPに与える損失額の短期的影響は、ギニアでは対GDP比2.1%%ポイント(成長率は4.5%から2.4%に低下)、リベリアでは3.4%ポイント(成長率は5.9%から2.5%に低下)、シエラレオネでは3.3%ポイント(成長率は11.3%から8%に低下)となっている。こうしたGDPに対する損失額は、2014年の価格基準に換算すると総額3億5,900万ドルに相当する。一方、エボラ出血熱の封じ込めが遅れた場合の対GDP損失額は、3カ国合計で推計8億900万ドルに上る。最も大きな打撃を受けたリベリアでは、「感染率高位推計」のシナリオでは2015年、対GDP比11.7%ポイント(6.8%のプラス成長から4.9%のマイナス成長へと転落)に及ぶ。
財政に与える短期的影響も大きく、リベリアでは9,300万ドル(対GDP比4.7%)、シエラレオネでは7,900万ドル(対GDP比1.8%)、ギニアでは1億2,000万ドル(対GDP比1.8%)となっている。また、封じ込めが遅れた場合は、2015年の財政落ち込み幅もさらに拡大する、と分析は述べている。
インフレと食糧価格は当初は抑えられていたが、食糧不足、パニック買い、思惑買いなどにより現在上昇中である。また、食糧価格の高騰に対して既に脆弱になっていた家庭では、さらに打撃となっている。為替レートの変動は、先行き不透明感と一部の資本逃避が手伝って、特に6月以降、3カ国いずれも激しさを増している。
同分析はまた、今回の危機がもたらしている最大の経済的影響は、直接的代償(死亡率、罹患率、看護、さらにこれに関連して喪失した労働日数など)ではなく、むしろ感染を恐れる人々の「恐怖心による行動」に由来していると述べている。これは、他者との接触を恐れることにつながり、それが就労率を低下させ、職場の閉鎖、交通機関や輸送への影響、ひいては一部の政府関係者や民間企業による港湾・空港の閉鎖を誘発する連鎖反応を引き起こす。2002~2004年の重症急性呼吸器症候群(SARS)や2009年の豚インフルエンザ(H1N1)など最近流行した感染症の例を辿ると、こうした人々の行動に起因した影響は、感染症が及ぼす経済全体への影響の最大で80~90%を占めていると同分析は指摘する。
同分析には、国際社会が結束した対応の必要性が強調されている。感染の中心である3カ国には明らかに外部資金が必要である。また影響の推定値を見ると、感染症の封じ込め、及び人々の恐怖心による行動の抑制にかかる費用(最高で数十億ドル)は、最悪のシナリオを回避できるのであれば費用対効果は大きいといえよう。
さらに同分析は、対策には次の4つの関連対策を含めるべきだとしている。
- 人道的支援: 喫緊のニーズである医療服や防護用器材、医療従事者への危険手当、救急治療ユニット、標準化され万国に共通する看護規定など。
- 財政支援: 2014年だけでも財政不足は約2億9,000万ドルに達すると見積もられる。外部支援を増強することで、これら脆弱国の経済成長強化が可能に。
- 空港・港湾の検疫施設: 救済物資の流れを円滑にし、影響を受けた国への商業取引を奨励する政策が必要。
- アフリカの保健医療システムの調査・検知・治療能力の強化: アフリカの脆弱な保健セクターは、自国民のみならず、貿易相手や世界全体にとっても脅威となっている。現在猛威を振るっている集団感染の経済的代償は膨大な額に上るが、保健医療システムの強化に向けた投資を慎重かつ継続的に行うことで、それを回避することが可能。
これまでに世界銀行グループが行ったエボラ出血熱対策
世界銀行グループは、エボラ出血熱危機の打撃を大きく受けた3カ国に対して、2億3000万ドルの支援をコミットしている。この支援は、感染の拡大を食い止め、コミュニティが危機による経済的影響に対処でき、西アフリカ全体の公共保健医療システムの改善に役立つであろう。世界銀行グループはまた、世界保健機関(WHO)の「エボラ出血熱対策ロードマップ」に沿って各国の対策を支援し、国連をはじめ各国のパートナーや国際機関と援助についての連携を緊密にとっている。2014年9月中旬の時点で、2億3,000万ドルの誓約済み支援のうち、リベリア向け5,800万ドル、シエラレオネ向け3,400万ドル、ギニア向け2,500万ドルのIDA*支援を含む1億1,700万ドルは、緊急対応資金としてすでに実行済みである。こうした支援は、基本的物資や医薬品、医療服、防護用器材、感染防止の資材、医療従事者の訓練、エボラ出血熱に携わる医療従事者やボランティアへの危険手当および死亡給付金、感染経路の追跡、車両、データ管理機器、及び公共保健医療に関する教育のための戸別訪問などに充てられる。また追加支援は、各国の保健医療システムと基本的保健医療サービス体制の強化、さらに将来の発生を防ぐための疾病監視と試験施設網の強化に役立てられる。
*IDA(国際開発協会)は、世界の最貧国を対象に支援を提供する世界銀行の基金
世界銀行グループについて
世界銀行グループは、世界中の途上国にとって欠かせない資金源であり技術援助を提供する機関である。その目標は、極度の貧困を撲滅し、繁栄の共有を促進することにある。人々の健康を向上することは、この目標達成の重要な部分を占めている。世界銀行グループは、融資をはじめとする資金供与のほか、高水準の分析や政策助言を提供し、支払い可能で良質な保健医療サービスへのアクセス拡充、病気などが原因で貧困に陥ったり、さらに貧しい生活を強いられる人々の保護、そして健全な社会の基礎を成す全てのセクターに向けた投資促進の面で途上国を支援している。