ロンドン、2013年6月19日—サブサハラ・アフリカで恒常的な食糧不足。南アジアの降雨パターン変化による一部土地の水没や、発電、干がい、飲料用水の不足。東南アジア地域のサンゴ礁の劣化と消失による漁業資源の減少や、激化する暴風雨に対する沿岸コミュニティや都市のリスク増加。これらの事象はいずれも今後数十年間に世界の気温が2℃[1]上昇したと仮定した場合の影響のほんの一部であるが、さらに数百万人が貧困からの脱却を妨げる恐れがある。世界銀行グループが本日発表した科学的根拠に裏づけられた新報告書「温度を下げろ:極端な気候現象と地域別影響、強靭な社会構築の必要性」はこう指摘する。
世銀は昨年末に発表した報告書で、今すぐ協調した行動をとらなければ今世紀末までに世界の気温は産業革命以前のレベルより4℃[2](7.2°F)上昇するだろうと示唆した。その続編である今回の報告書はさらに踏み込んで、2℃上昇と4℃上昇の2パターンを想定し、サブサハラ・アフリカ、南アジア、東南アジアの各地域について、農業生産、水資源、沿岸の生態系や都市が被るであろう影響について論じている。
「本報告書は、直近の、そして数年後の影響について警鐘をならしています」とジム・ヨン・キム世界銀行グループ総裁は述べている。「科学者たちは、今後20年から30年で気温は2℃上昇する可能性があり、その場合には大規模な食糧不足、かつてないほどの熱波、これまで以上に激しいサイクロンが発生すると指摘しています。短期的には、既に進行している気候変動により、スラム街の状況がさらに悪化し、温暖化には責任のない人々の家族や暮らし、希望が大きく損なわれかねません」
「熱帯地域で予想されるこうした変化は、我々が温暖化の制御に失敗すれば、いずれは全ての地域がこうした厳しい状況に直面することを示唆しています」とキム総裁は述べている。「温室効果ガスの排出削減のためだけでなく、激烈な異常気象に対して各国が充分な準備を備えられるよう直ちに行動する必要があります」
同報告書は、世界銀行の依頼により気候変動ポツダム研究所が作成したもので、温暖化により最も脆弱な人々の健康や暮らしがますます脅かされ、現在各地域が直面している問題を深刻化させるという現実を明らかにしている。
気候変動が開発にもたらすリスクについて理解を深める目的で最新の気候科学を分析した本報告書は、以下のような調査結果を示している。
- サブサハラ・アフリカでは2030年代までに、干ばつと猛暑のために、現在のトウモロコシ栽培地帯の40%で栽培ができなくなり、温暖化によりサバンナの草原が大幅に失われて田園地帯の人々の暮らしが脅かされかねない。2050年代までには、地域によりばらつきは見られるものの、栄養不良の人口の割合が現在より25-90%増加するとみられる。
- 南アジアでは、モンスーンが地域にとって極めて重要な役割を果たしているが、その周期に変化が起これば深刻な危機がもたらされかねない。2000万人以上が被災した2010年のパキスタン大洪水のような事象が頻繁に発生する可能性がある。インドの多くの地域で極端な干ばつが増え、広範囲で食糧不足と困難を招きかねない。
- 東南アジア全域では、気温が4℃近く上昇すれば、海面上昇、熱帯低気圧の激化、海洋生態系サービスの膨大な消失により農村部の暮らしへの影響が深刻化する。
- 全ての地域で、気候変動の影響を受けたコミュニティの人々が都市部に移り住むと考えられ、その結果膨れ上がった非正規居住区の人口は、熱波や洪水、病気にさらされかねない。
同報告書は、調査対象となった全地域が壊滅的な影響を被る可能性があるとしている。さらに、2℃ではなく4℃の気温上昇となった場合、激烈な熱波、海面上昇、これまで以上に激しい暴風雨、干ばつ、洪水など複数の脅威が重なり、最も貧しく脆弱な人々に深刻な悪影響を与えるだろうとし、気温上昇を2℃以内に抑えることにより最悪の事態はまだ回避可能だとしている。
「貧しい人々が、本報告書で想定される未来から逃れられないとは思いません。実際、気候変動の深刻な影響を受けながらも、貧困削減は可能だと確信しています」とキム総裁は述べている。「各都市が環境に配慮し気候変動に強くなり、気候変動に迅速かつ適切に対応する農業慣行を開発し、エネルギー効率と再生可能エネルギーのパフォーマンスの両方を高めるための斬新な方法を見つけるよう支援することは可能です。各国と協力して、化石燃料への補助金を減らし、最終的に排出権価格の安定につながる政策を実行することができます」
「互いに協調して必ず解決策を見出す決意です」とキム総裁は述べている。「ですが、科学的見地からはっきりしていることがあります。各国による意欲的な緩和目標に勝る選択肢はなく、また排出削減の負担は少数の大国が負っているのです」
同報告書は、海面上昇が以前の予測よりも速いペースで進んでおり、既に排出された温室効果ガスにより、2050年代までの海面の50cm上昇はもはや回避不可能かもしれないとしている。さらに、もっと早い時期に影響が顕在化する場合もあるだろう。例えば、適応策を講じなければ、15cmの海面上昇と熱帯低気圧の激化により、2030年代までにバンコクの大半が浸水する恐れがある。
途上国の新興都市は、地球上で気候変動によるリスクが最も高い場所に挙げられている。同報告書は、都市部を「新たな脆弱クラスター」と呼び、都市生活者、特に都市貧困層が気候変動により深刻な影響を受けるとしている。
フィリピンのマニラ首都圏やインド最大のコルカタ市などの非正規居住区では人口が密集しており、電気、衛生、保健、インフラ、災害に強い住居などの基本サービスが整備されていないことが多い。そうした地域では、暴風雨や洪水など極端な気候現象により大きな影響を受ける。都市では激しい熱波も以前より頻繁になっている。
前回と今回の気候変動に関する報告書を受けて、世銀グループは緩和・適応および災害リスク管理の業務を強化し、今後すべての業務に「気候」の視点を取り入れていく。
世銀は現在、130か国の気候変動対策を支援しており、昨年は適応支援の融資を倍増した。世銀は、貧困層が貧しい暮らしから抜け出し、気候変動への強靭性を高め、排出削減を達成するための現場での取組みへの支援を強化している。
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