ベトナムは洪水、台風、干ばつ、土砂崩れなど、数々の自然災害に見舞われる深刻なリスクに直面しています。国土面積の約60%、人口の71%が台風と洪水のリスクにさらされています。洪水と台風による直接的な経済的損害額は年平均で 国内総生産の0.8% と推定され、これは東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国間で3番目に高い比率です。
ベトナム政府のこれらの課題への取り組み、および自然・気候災害に対する公共資産財政リスク管理強化を支援する世界銀行の活動の一部として、災害リスクファイナンス・保険プログラム(DRFIP)は、日本での知見共有と視察を行いました。2017年7月31日~8月4日の日程でベトナムの財務省、政府事務局、国会の幹部職員・実務者が訪日し、日本政府高官・実務者との間で知見と経験を議論しました。当視察は、スイス経済省経済事務局(SECO)支援による中所得国災害リスクファイナンス・保険プログラムと、途上国における防災の主流化を目的とする日本-世界銀行防災共同プログラムが資金支援を行いました。
ベトナムにおける災害リスクファイナンス・保険
ベトナム政府は同国が直面する高い災害リスクを以前から認識し、災害対応に対するその場限りの事後の取り組みから、先を見越して災害・気候リスクを管理する事前の取り組みへの移行を目指してきました。その努力の一環として、ベトナムは自然災害による政府の財政負担を軽減するための長期リスクファイナンスメカニズムの強化を計画しています。自然災害が公共資産に与える影響は、同国の財政が抱える脆弱性の主な原因のひとつです。ベトナムは2017年6月の公共資産管理に関する法律改正により、保険を含む様々な財源・ファイナンスを組み合わせ、自然災害の被害を受けやすい公共資産を財政リスク管理手段に統合することを義務づけました。この改正法を踏まえ、財務省公共資産管理局は現在、現行公共資産管理データベースの改善・更新を実施中です。
災害リスクファイナンス・保険に関するベトナムと日本の知見共有
ベトナムと日本の間で行われたこの知見共有は、ベトナムの改正法下での財政リスク管理に関する法令・規則・組織整備に活用することを目的にしました。参加した日本とベトナムの代表団には以下の機会をもたらしました。
- 災害リスクファイナンス・保険政策および自然災害に対する公共資産財政リスク管理の経験とグッドプラクティスを共有する
- 道路、河川、鉄道、官公庁建物などの公共資産のデータベース管理を含め、災害リスクファイナンスと管理に関する課題と解決策について議論する
- 被災地の公共資産の再建に関する経験から学ぶ
ベトナム代表団は、財務省および同省の関東財務局と東北財務局、国土交通省および同省の近畿地方整備局、石巻市、日本損害保険協会、東京メトロなど、日本のさまざまな政府・自治体、民間セクターとの間で意見交換を行いました。
日本の財務省は公共資産に関する災害リスクファイナンス・保険政策の概要を紹介し、事前の災害ファイナンスメカニズムに加え、自然災害に対して強靭な質の高いインフラの重要性を強調しました。さらに、国有財産管理のための法律と制度の枠組み、および国有財産管理システムについて説明しました。加えて、2017年5月5日に横浜で開催された第20回ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議の共同声明で歓迎された東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF)をはじめ、地域内のリスク・プーリング構想も紹介しました。日本の財務省はベトナム財務省に対し、ベトナムの既存の災害リスクファイナンス手段を補い、財政の強靭性を強化するための選択肢として、SEADRIF加盟の可能性を検討するよう提案しました。
国土交通省はデータベース管理を含む重要なインフラ資産管理を取り上げました。代表団は、日本の財務省財務局および国土交通省地方整備局との会合で、公共資産管理において地方支分部局が果たす役割を学びました。日本損害保険協会はインフラ資産への保険における経験を紹介し、ベトナムでの公共資産保険メカニズムの構築方法について代表団に助言をしました。東京メトロからは、東京やハノイのような都市部における効率的で強靭な交通システムの役割を説明しました。