世界銀行では、主要一次産品46品目の価格データ、市場分析、見通しを作成しており、報告書「一次産品市場の見通し」(Commodity Markets Outlook: CMO)を毎年2回(4月と10月)、「一次産品価格データ(ピンクシート)」(World Bank Commodities Price Data: The Pink Sheet)を毎月第2営業日に発行しています。最新の「一次産品市場の見通し2024年10月版」報告書は、2023年10月29日に発表しました。
同報告書によると、原油の大幅な供給過剰が続き、中東でのさらに大きな紛争による原油価格への影響さえ抑制するであろう中、世界の一次産品価格は2025年、5年ぶりの低水準に下落する見通しです。それでも、一次産品価格全体としては、コロナ前の5年間を30%上回る水準を維持するとみられています。
世界の原油供給は2025年、需要を日量平均120万バレル上回るとみられていますが、これを超える供給過剰は、2020年のコロナによる経済閉鎖時と1998年の原油価格暴落時の2度にとどまります。今回の供給過剰の一つの要因として、中国の大きな変化が挙げられます。工業生産の伸びの鈍化と電気自動車や液化天然ガス(LNG)を燃料とするトラックの販売増加の中で2023年以来、石油需要が実質的に横ばいです。さらに、石油輸出国機構(OPEC)や、やはり需給調整を行う枠組みであるOPECプラスに加盟していない複数の国が、原油増産の準備を進めています。OPECプラス自体も、2019年のパンデミック直前のほぼ2倍である日量700万バレルもの大きな余剰生産能力を維持しています。
世界の一次産品価格は、2024年から2026年にかけ10%近く急落するとみられています。世界の食料価格は今年9%下落し、2025年にはさらに4%下落した後に横ばいになるとみられていますが、それでも2015年から2019年までの平均よりも25%近く高いです。エネルギー価格は2025年に6%、2026年にさらに2%下落が予想されます。食料とエネルギーの価格が下落すれば、中央銀行のインフレ抑制が容易になるはずだが、武力紛争が激化した場合は、エネルギー供給が混乱し、食料とエネルギーの価格が上昇するため、抑制のかじ取りが複雑になる可能性があります。
今回のモーニングセミナー(第201回)では、同報告をとりまとめたチームのパウロ・アグノルッチ世界銀行 見通しグループ 上級エネルギーエコノミスト、ダウィット・メコネン同上級エコノミスト、フリップ・ケンワーシー同上級エコノミストが、同報告書の主なポイントを日本の皆様に向けてオンラインでご紹介しました。
スピーカー
パウロ・アグノルッチ
世界銀行 見通しグループ 上級エネルギーエコノミスト
報告書「一次産品市場の見通し」共同執筆者。エネルギー市場、気候変動、エネルギー補助金、ネットゼロへのトランジッションに関する調査研究に従事。世界銀行入行前は、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン教授。査読付き学術誌に50本以上の論文を発表してきた。ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンで経済学博士号、環境経済学修士号、シエナ大学で経済学学士号を取得。
ダウィット・メコネン
世界銀行 見通しグループ 上級エコノミスト
報告書「一次産品市場の見通し」共同執筆者。農業、食糧安全保障、エネルギーに関する調査研究に従事。世界銀行入行前は、国際食糧政策研究所(IFPRI)リサーチフェロー。エチオピアのアディスアベバ大学で経済学学士号および修士号、米国ジョージア大学で農業・応用経済学博士号を取得。
フリップ・ケンワーシー
世界銀行 見通しグループ 上級エコノミスト
報告書「世界経済見通し」共同執筆者。グローバルサーベイランス業務に従事。2021年、世界銀行入行。それ以前は、英国政府で経済・政策に関する業務に従事。ロンドンスクールオブエコノミクスおよびサセックス大学で学位を取得。CFA協会認定証券アナリスト。
発表資料
Commodity Markets Outlook, October 2024 Edition(英語、PDF)
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