世界銀行東京防災ハブは日本の関係機関と協力し、日本の知見を世界で共有するためのプログラム「知見共有プログラム」を実施しています。その中で、建築規制を活用した災害に強い都市づくりに関する日本の経験と途上国への教訓を取りまとめており、今回のセミナーは本プログラムの一環として開催されました。
セミナーでは、世界銀行が2016年4月に発表予定の報告書「建築規制を活用した防災:災害に強い都市づくり」の公開に先駆け、日本語概要版を発表しました。今回のセミナーに先立ち、フランシス・ゲスキエール 世界銀行防災プラクティスマネージャーが、3月12日 (土) の朝日新聞朝刊「私の視点」で、本テーマの重要性と日本のリーダーシップへの期待を述べています。
世界銀行の取り組みと課題
塚越保祐 世界銀行グループ 駐日特別代表は、開会挨拶の中で、建築規制や土地利用規制は災害リスクの軽減に極めて重要であるにも関わらず、途上国においては最近まで十分に注目されていなかったことを指摘し、急速な都市化が進む中、災害に強い都市づくりを支援することは急務であると述べました。また、2015年3月の第3回国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組2015-2030」にふれ、建築規制や土地利用規制の施行能力が、災害に脆弱な途上国のリスクを軽減し、繁栄を共有するための重要な取り組みとして位置づけられていると述べました。
トーマス・ムーリエ 世界銀行グループ 防災グローバル・ファシリティ (GFDRR) 上級基準開発専門官は、主筆を務めた前述の報告書で指摘した、途上国が抱える5つの課題を解説しました。
災害に強い都市を形成する上で途上国が抱える5つの課題
- 非効率的な土地利用システム;
- 建築行政および実施能力の低さ;
- 脆弱な法的基盤;
- 貧困層が負担しきれない規制遵守のための費用;
- 広く行われている建築習慣に対する不十分な認識
ムーリエ専門官はまた、開発段階の国の規制能力強化を目的とした取り組みにおける開発優先事項にふれ、それに基づき世界銀行が提案する建築規制能力強化への投資促進のためのプログラムアプローチについて紹介しました。
世界銀行による今後の取り組み
- 取り締まりではなく規制遵守を支援するための改革方針の策定;
- 国・地方自治体の制度施行能力の強化;
- 貧困層・脆弱層にも遵守できる建築基準の整備;
- 効果的な建築規制に向けた改革的取り組みの促進
出典:「建築規制を活用した防災:災害に強い都市づくり」日本語概要版
日本の経験から学ぶ
亀村幸泰 国土交通省 住宅局 建築指導課 建築国際関係分析官は、約100年かけて取り組んできた災害に強い都市づくりを実現するための建築規制およびそれを遵守するメカニズムの事例を紹介し、規制は作るだけでなく、遵守のためのメカニズムづくりが重要であることを指摘しました。また、日本の経験を国際協力機構 (JICA) の事業を通じてインドネシアに展開した事例を挙げ、災害後の復興事業に留まらず、平常時の都市開発において建築規制を徹底することで、災害に強い都市づくりが促進されることを強調しました。
小林正宏 住宅金融支援機構 調査部 海外調査担当部長は、日本で高度成長期に住宅需要が高まった際に、住宅融資スキームをうまく活用して、住宅の品質の底上げをしてきた日本の事例を紹介しました。日本のように融資と技術指針を組み合わせた品質管理アプローチは珍しく、最近では、アジア各国からの要請により日本の経験を共有していると述べました。
北山恒 横浜国立大学 教授は、高齢化など21世紀の日本の都市が抱える課題に着目し、東京にある木造密集地が抱える脆弱性と対策の重要性を指摘しました。この中で北山教授は、最先端の科学的知識を活用した木造密集地の延焼パターン・シュミレーション結果を示すとともに、建築家アレハンドロ・アラヴェナ氏が手がけるチリのスラム地区改善事業の事例を紹介し、生活の質や地域社会の繋がりを大切にした21世紀型の木造密集地の改善策を提示しました。
金田恵子 世界銀行グループ 防災クローバル・ファシリティ (GFDRR) 東京防災ハブ 防災専門官は、日本の事例を踏まえ、日本の資金支援と技術支援を融合したアプローチと途上国における災害後の住宅復興事業の類似性を指摘し、平常時に災害に強い都市づくりへ結びつけることの重要性を強調しました。また、世界銀行が行った災害後の住宅再建事業の一例を挙げ、技術指針を定め、その指針が遵守されている場合に限り住宅再建の資金を供給するという方法を用いたことを紹介しました。加えて、こうしたアプローチを資金が確保しやすい災害復興事業のみでなく、国の制度として平常時にも組み込むことにより、災害に強い都市づくりを進めることが重要であると指摘しました。
土谷晃浩 財務省 国際局 開発機関課 課長は、セミナーの閉会にあたり、防災が日本政府にとって重要なテーマであること、途上国の防災対策を進める上で世界銀行との協力の重要性を強調し、今後も東京防災ハブを通じて途上国の防災支援に取り組む旨を述べました。また本分野における日本の経験に関連して、日本政府が取り組む「質の高いインフラパートナーシップ」の観点からも重要であると述べました。
当日は、政府、民間セクター、学術機関等から約100名の方々にご参加いただき、貴重なご意見をいただくとともに、パネリストとの質疑応答が活発に行われました。
東京防災ハブでは、今後、セミナーで紹介されたような日本の事例をもとに以下の取り組みを進めます。
- 日本の歴史的な建築規制制度実施についての取り組みとその成果、ならびに途上国への教訓を取りまとめたナレッジノートの作成;
- 作成されたナレッジノートのオンラインプラットフォームや国際会議での発表;
- 建築規制制度の評価ツール作成に際した日本人専門家の派遣;
- 建築規制制度の評価ツールテスト (東京防災ハブの国・地域別プログラムとの連携);
- 日本の経験に基づく「建築規制を活用した防災」の実施を促進するための活動支援