課題
エチオピアは急速に成長していますが、依然として世界の最貧国の一つです。基準となる開発水準が低いため、ミレニアム開発目標(MDGs)のほとんどを達成し、持続可能な開発目標(SDGs)でも着実に成果を上げていますが、開発目標を達成するためには多額の投資と思い切った政策転換が必要です。エチオピアでは毎年、200万人の若者が労働市場に参入しており、急増する労働力に生産的で意義ある雇用を提供するためには、さらなる経済成長と改革が欠かせません。
エチオピアにとっての最大の課題は、経済成長の維持と貧困削減の加速です。
貧困削減は進みましたが、全ての人が平等に恩恵を享受したわけではありません。貧困削減は農村部よりも都市部で大きく進み、平均所得は伸びているものの、最も貧しい10%の人々の実質所得は2005年以降増えていません。
アプローチ
2017年6月に承認された、2018~22年度のエチオピアの国別パートナーシップ枠組み(CPF)は、極度の貧困撲滅及び繁栄の共有促進という世界銀行グループの2大目標と持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指す一方で、政府の「第2次成長と構造改革計画(GTP) 」を支援するものとなっています。
現在の支援活動の重点分野は以下のとおりです。
- (i)開発資金の最大化、(ii)投資環境の改善と金融セクターの成長、(iii)透明性と説明責任の向上を実現するため、政府の野心的な改革政策を予算面で強力に支援
- セーフティネット(都市と農村部)、農業、持続可能な土地管理、基本的サービスの提供(保健、教育、農業、水と衛生、農村WASHプログラムを含む大規模プロジェクト)に関する国家プログラム
- 送電、道路開発、都市交通、水と衛生、雇用創出、中小企業、貿易物流開発、人間開発、都市開発・管理等に関するプログラム
成果
IDAの融資とグラントをもとに、エチオピア政府は多くの分野で重要な成果を収めました。
- 成長・競争力強化プログラム:2018年の開始以来、開発資金の最大化、投資環境の改善と金融セクターの発展、透明性と説明責任の促進を3つの柱として、エチオピアの改革活動を資金面と技術面で支援。本プログラムの支援をもとに、エチオピアは以下を実施。
- 官民パートナーシップ(PPP)に関する布告と指令を承認し、民間資金を利用したプロジェクトを実施する際の財政リスクを管理し、透明性・公平性・長期的な持続可能性を強化するための規制枠組みと制度を整備。
- 貧困層を保護しつつ原価を確実に回収するため、電気料金を複数年にわたって引き上げる枠組みとその詳細な実施スケジュールを承認。
- 貨物輸送、運送サービス等の重要な物流サービスに対する外国投資の制限を撤廃し、競争を促進。
- 通信セクターを管轄する独立規制機関の設立と定款を承認。
- ライセンスのカテゴリー数を2018年の1,300から2019年は半数近い519に削減し、貿易許可カテゴリーの少なくとも70%について年次の能力証明要件を撤廃。規制負担の減少と事業参入手続の簡素化により、100万超の事業が恩恵を享受。
- 市民社会組織(CSO)に関する布告を承認し、開発プロセスへのCSOと市民の参加を促進。
- 女性起業家育成プロジェクト:女性起業家が能力を発揮できるよう支援するプロジェクト。2012~18年の間に1万5,525人の女性起業家が技術研修、職業訓練、起業家育成研修を受講し、事業の成長に必要な融資を獲得。これにより、参加者の事業の平均年間収益が28%上昇。
- 初等教育の就学率が大幅に上昇。生徒数は2000年の710万人から2016年は2,600万人に増加。初等教育の純就学率(NER)は99%。質の高い教育の提供を目指す「公平公正な教育品質向上プログラム(GEQIP-E) 」を通じて、以下の成果を達成。
- 2014~18年の間に、1億1,700万冊の教科書と指導要領を作成・印刷し、初等・中等学校に配布。
- 2018年は32万1,596人の初等・中等学校教員が免許試験を受験(2014年は3万256人)。
- 2018年は1万8,347人の教員が普通教員免許の上位にあたる専修教員免許を取得(2014年は652人)。
- 2018年は2,590万人の生徒が改善された学習法の恩恵を享受(2014年より500万人増加)。
- 競争力・雇用創出プロジェクト:2018年は2,554人がソフトスキル研修を受講し、その70%超がボレ・レミI工業団地内の工場で仕事を獲得。
- 水供給:2014~18年に農村部の350万人、都市部の33万8,490人に改善された水源へのアクセスを提供。
- 持続可能な土地管理(SLM)プロジェクト:地勢管理により、2018年は85万5,377ヘクタール(2013年は30万4,589ヘクタール)の劣化した共有地を持続可能な形で回復。復元または再植林・新規植林された土地は9万5,247ヘクタール(2013年は3万6,195ヘクタール)。この期間に、復元された土地では累計で二酸化炭素換算390万トン相当を回収。
- 牧畜コミュニティ開発プロジェクト:2018年は510万人の牧畜民(2014年は190万人)にコミュニティ需要主導型の社会・経済サービスに対するアクセスを提供。
- 欧州委員会、ドイツ、日本、北欧諸国、英国等のドナーと連携して道路網の規模と質の向上を支援。その結果、総距離は1991年の2万km未満から2016年は11万kmに。
世界銀行グループの支援
IDAは、エチオピアにとって最大の公的開発援助の供与機関であり、1991年以降、70を超えるプロジェクトに合計200億ドル以上を支援してきました。世界銀行グループはエチオピアの経済成長を促進するとともに、幅広いセクターで構造的な貧困課題の解消に取り組んでいます。現在、エチオピアでは多くの投資プロジェクトが進行しており、コミットメントの純額は約130億ドルです。この内、115億ドル近くはIDAに関するもの、13億ドルは信託基金です。
パートナー
国別プラットフォーム:エチオピア政府は開発を力強く主導しており、全ての開発パートナーが同国の5カ年開発計画である「成長と構造改革計画(GTP)」に沿って活動しています。
世界銀行グループは国連開発計画(UNDP)及び二国間ドナーと交代で、開発援助グループ(DAG)の共同議長を務めています。DAGは、エチオピアにおけるドナー間協調の中心的存在であり、DAGを通じて協調的な経済・セクター活動(世界銀行の主要分析報告書の大半はすでにパートナーと共同で作成済み)や共同ミッションなど、パリ宣言とアクラ宣言のコミットメントを遂行するための様々な活動が展開されています。こうした共同作業の多くは、大規模なマルチドナー・プログラムを通じたドナー支援の協調や重要な政策分野に重点を置いています。
世界銀行は、一連のマルチドナー・プログラムの開発を主導して取引コストを削減し、同国の地方分権モデルとドナーの支援を整合させ、援助の予測可能性を強化しました。これらの手段は国際開発協会(IDA)の支援を大規模に活用する助けとなっています。このアプローチは「公平なサービスを通じた繁栄の共有強化」、 第4次プロダクティブ・セーフティネット・プログラム、上下水・衛生へのユニバーサル・アクセス・プログラム、第2次持続可能な土地管理プロジェクト、第2次農業成長プログラム(AGP)で使用されています。
今後の展望
IDAは、国別パートナーシップ枠組み(CPF)の主要分野に対する支援を強化しつつ、新たな協力の機会を模索し、関連する知識成果物を支援していく予定です。また、引き続きエチオピアの持続可能な開発を幅広い側面から支え、政府が安定したマクロ経済環境の中で開発目標を達成できるよう支援します。雇用の創出、農業生産性とマーケティングの改善、金融サービスの利用促進、質の高いインフラ(電力、道路)へのアクセス向上、地域統合の強化は、今後も関与が求められる重要な分野です。IDAはエチオピアが開発資金の最大化、投資環境の改善、透明性と説明責任の強化を推進できるよう今後も支援していきます。
IDAは政府がジェンダーの不平等に対応し、少女や女性が能力を発揮するためのエンパワーメントの機会を創出できるよう引き続き支援します。また、政府が人的資本を構築するために、幼児に関する課題に投資し、教育、保健、水といった基本的サービスの普及を推進できるよう支援します。社会的サービスの提供拡大や、社会的保護とリスク管理に対する包括的なアプローチの開発も、IDAが支援を提供する分野の一つです。また、エチオピアが災害に対する強靭性を強化し、持続可能な開発を促進し、脆弱性を最小化することで気候変動により良く適応できるよう支援します。食糧不安の影響を受けやすい世帯の強靭性を強化し、防災(DRM)システムの採用を促進することはその一つです。
受益者
「このプロジェクトのおかげで、4人の子供たちを学校に通わせ、新しい波板で自宅の屋根をふくことができました。」と言うのは、農業成長プログラムの受益者の1人、アスカレ・セボカです。
エチオピアのオロミア州アルシ県で農業を営むアスカレは、夫の死後、経済的に逼迫した生活を送っていました。所有する0.5ヘクタールの土地で勤勉に働いていましたが、25~30キンタル(2,500~3,000kg)のジャガイモを収穫するのがやっとでした。しかし転機は4年前に訪れました。農業成長プロジェクト(AGP)の下で村の灌漑施設が改良されたのです。水を安定的に利用できるようになったほか、ジャガイモの品種を増やし、肥料を取り入れ、開発機関から栽培方法に関する助言や農業研修を受けられるようになりました。その結果、収量が大幅に増え、今年は同じ0.5ヘクタールの土地から120キンタル(1万2,000kg)ものジャガイモを収穫できました。この内、20キンタル(2,000kg)を家族のために残し、あとの100キンタル(1万kg)を売ることができました。