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Results Briefs 2018年11月22日

バングラデシュ:がん診断のプロトタイプ機開発に貢献する高等教育研究への投資

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基本的なプロトタイプ機の組み立ての様子。試験段階では、約10人の健常者と30人のがん患者がこの診断装置を利用しました。写真提供:シャージャラル科学技術大学物理学部


高等教育質向上プロジェクト(HEQEP)は、革新的なアイデアを支援することにより、大学の授業と研究の質向上を目指しています。アカデミック・イノベーション基金(AIF)は、HEQEPの下で競争的グラントを導入しました。本グラントを獲得したバングラデシュのシャージャラル科学技術大学(SUST)は、Invent Technologies社とパートナーシップを結び、従来の方法よりも優れた、新しいがんの早期発見法の開発に取り組みました。従来のがん診断は、1人当たり120ドルの費用がかかり、結果が出るまでに1週間を要しましたが、このプロトタイプ機を使えば、わずか数分で診断結果が得られる上に、かかる費用は約6ドルです。

課題

バングラデシュには150万人近いがん患者がおり、毎年200万人が新たにがんと診断されています。がんによる死亡者数は年間9万人を超えます。男性の患者数が最も多いのは肺がんと咽頭がん、女性の場合は乳がんと子宮頸がんです。専門病院に行けばがんの治療施設はありますが、十分とは言えず、治療費も非常に高額です。特に、不利な立場にある人々にとっては経済的負担が重くなります。がんを早期に、かつ安価に発見できる時間効率のよい診断法があれば、がん治療は劇的に改善される可能性があります。ごく初期の開発段階にあるテクノロジーの場合、政府や非政府機関の保健サービス部局や、新しい診断装置を製造する業界から支援を得ることができます。他方で、技術の普及やマーケティングに関する課題もあります。新しいテクノロジーは、数十億ドルの市場規模を持つがん治療産業に大きな混乱をもたらす可能性が高いからです。

アプローチ

HEQEPは産学共同研究のエコシステムの構築を支援しました。大学が研究能力を強化できるよう多額の資金を提供し、科学者が最先端の研究を実施するために必要な環境を整えたのです。シャージャラル科学技術大学には、最先端の機器を備えた研究所が設立されました。新しい研究所で優秀な研究者たちが技術を実生活に応用する可能性を探り、有機、無機、生体サンプルの分析に取り組みました。これが、がん細胞サンプル中の光バイオマーカーを識別する手法の利用につながりました。大学の研究者たちは実験に必要な血液サンプルやその他の試料を処理するため、Invent Technologies社とパートナーシップを結びました。


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30分間

新しいがん診断装置のプロトタイプ機が診断結果を出すまでに要する時間。装置のコストは約6ドル。従来のがん診断検査は120ドルの費用がかかる上に、診断結果が出るまでに最長1週間を要しています。


成果

シャージャラル科学技術大学は、2015年にHEQEPの実施機関であるバングラデシュ大学グラント委員会から73万ドルの支援を獲得し、以下の成果を上げました。

  • 2016年より、25人の研究者が最新の装置を備えた研究所でプロジェクトに従事し、最大100万ドルをかけてがん発見装置のプロトタイプ機を開発。
  • 世界で初めて、サンプルに染料や試薬を加えることなく、非線形光学を利用してがんを診断することに成功。
  • 2018年9月、研究チームが高精度かつコスト効率の高いがん診断装置のプロトタイプ機を発表。

新しいプロトタイプ機は、装置自体は300ドル、使用コストは6ドル、血液サンプルの検査結果が出るまでの時間は30分以内であるのに対し、従来のがん診断検査は120ドルの費用がかかる上に、結果が出るまでに最長1週間を要しました。

世界銀行グループの支援

IDAはこれまでも初等教育や中等教育のプロジェクトに資金を提供してきましたが、バングラデシュ政府が高等教育セクターのプロジェクト資金を確保するために、今回初めて外部ドナーとパートナーシップを結びました。当初、HEQEPに対するIDAの融資額は8,100万ドル(2009年)でしたが、2013年に1億2,500万ドルを追加融資し、総額は2億600万ドルとなりました。

パートナー

バングラデシュ政府も3,200万ドルを拠出し、バングラデシュ大学グラント委員会が実施機関を務めました。プロジェクトの実施段階では、大学の研究者たちはインベント・テクノロジー社と組んで検査に必要な血液サンプルやその他の試料を処理しました。最大の資金提供機関となったのは、HEQEPの下でバングラデシュ初の競争的グラント制度を導入したアカデミック・イノベーション基金(AIF)です1億ドル)。産学共同研究はAIFの融資枠の一つであり、配分額は810万ドルでした。今回のシャージャラル大学のサブプロジェクトの費用は73万ドルでした。

今後の展望

本プロジェクトは開発したテクノロジーを保護するため、米国とバングラデシュで特許を出願中です。プロトタイプ機の生産は1年以内に始まる見込みです。すでにバングラデシュ企業と外国企業の2社が今後の研究活動への投資に関心を示しています。

受益者

特許取得後は、このテクノロジーは大人から子供まで、世界中のがん患者、特に経済的に恵まれず、生計を立てるために、発がん性化学物質や毒素、汚染物質にさらされる仕事に従事している人々に恩恵をもたらすでしょう。多くの患者はがんがステージIIIかステージIVまで進んでからがんの診断を受けるため、治療が非常に難しく、結果として死亡率が高くなっています。安価ながん検査は、この革新的なテクノロジーの最大の受益者である不利な立場にある人々を助けることになります。

 


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