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スピーチ&筆記録2022年9月13日

デイビッド・マルパス世界銀行グループ総裁によるスピーチ-東京でのIDA20開始記念行事にて

皆様、こんにちは。IDA第20次増資の開始にあたり、本日の記念行事を開催いただいた鈴木財務大臣そして日本政府に厚く御礼申し上げます。日本は今回の増資でリーダーシップを発揮してくださいました。増資プロセスを左右する重要な役割を果たして頂いたことに感謝申し上げます。また、世界各国から本日東京にお集まりく頂いた各国パートナーの皆様にも、有意義な増資の実現を支えて頂いたことに御礼申し上げると共に、IDA20の開始にあたりお祝い申し上げたいと存じます。

我々が東京に集っている今この時も、重大な複数の危機によりグローバル経済が揺らぎ続けています。コロナ危機の影響とインフレに加え、ウクライナでの戦争がエネルギー・サプライに及ぼす悪影響は深刻です。特に懸念されるのが、天然ガスの不足と、肥料と農産物の大幅な価格上昇で、いずれも食料不安と極度の貧困を悪化させつつあります。

世界全体の成長率は2021年の5.7%から2022年は2.9%に落ち込むとみられ、多くの国が景気後退に陥り、さらに低迷する可能性が高まっています。危機以前から、途上国は、コロナにより所得拡大と貧困削減に壊滅的な悪影響を受けてきました。ウクライナでの戦争が起きたことで、途上国の成長見通しにさらなる打撃となり、2022年の途上国の成長率は3.4%にとどまるとみられます。これは、2011年から2019年の平均をはるかに下回る水準です。近年、危機が深刻さを増すたびに、貧困国はさらに取り残され、格差が助長されています。私が特に懸念しているのは、こうした傾向が長期にわたって続くことです。

開発をより強力に推進するには、国際社会による力強く総合的な対応が必要です。そして世界銀行グループは、危機に対し迅速に対応を進めています。世界銀行グループは今年4月、グローバルな危機対応パッケージを立ち上げました。これは、食料不安、気候変動、失われつつある債務の持続可能性等、重複する複数の危機を各国が切り抜けられるよう支援するためのもので、重点項目は次の通りです。

  • 食料不安への対応:食料生産の支援、貿易振興、脆弱層支援、持続可能な食料システムへの投資
  • 人々の保護と雇用の維持:危機による中・長期的な影響の緩和
  • 長期的な強靭性の構築と危機への備えの強化
  • 長期的な開発成果の向上に向けた政策と組織・制度の強化及び投資の拡大

世界銀行グループは、この危機対応パッケージを支えるために、2022年4月からの15カ月間に新規及び既存のプロジェクトに約1,700億ドルの資金を提供する用意があります。さらに、分析・助言サービスを提供することで、エビデンスに基づいた開発政策と開発プログラムの強化を図っていきます。

こうした状況の中、IDA第20次増資は時機を得たタイミングで開始されることになります。930億ドルのIDA20増資パッケージは、これまで以上に意欲的であり、目的に沿う政策パッケージに裏打ちされています。IDAは、コロナ、食料不安、気候変動、債務拡大をはじめ、開発を後退させる危機の影響に対応できるよう世界の最貧国を支援しており、その活動に信頼を寄せてくださるパートナーの皆様すべてに厚く御礼申し上げます。

過去最高額となったIDA20資金の内訳は、52の高・中所得国からの総額235億ドルの拠出金、資本市場で調達した資金、借入国からの返済金、そして世界銀行の純利益からの多額の自己資金です。

今回の増資においても、パートナーの皆様からは多額の拠出をいただいておりますが、それはIDAが皆様の期待に応えられる価値を提供してきたことをあらためて明確に示すものです。ドナーからの拠出1ドルは、4ドル近くのの最貧国支援につながります。このようにIDAは、より効率的に開発成果をもたらす強力な総合的プラットフォームとして機能しています。

IDA20は、各国がコロナをはじめとする複数の危機により効果的に対応し、後退した開発成果を取り戻し、再び成長軌道に乗れるよう支援することを目的に設計されています。過去数十年にわたる取組みを生かし、今日の課題にふさわしいいくつかの分野に一層意欲的に取り組んでまいります。具体的な課題について、またIDAがその対応に貢献できる例をご紹介します。

  • 現在進行中の食料不安危機を受け、IDA20は食料システムの強化、健全化、強靭化に投資します。具体的には、農業や社会的保護の各セクターへの支援、食料価格高騰の影響の緩和、水、灌漑プロジェクトの支援が挙げられます。
  • 気候変動と自然災害も重点分野です。IDA20は、緊急支援と危機対応支援を提供すると共に、しっかりとした分析に基づいて、適切な形で、危機への備えの強化を支援します。また、気候変動に関しては、強靱化と適応において大きなインパクトをもたらすプロジェクトを、世界の先頭に立って支援します。
  • また、IDAは、ワクチンの支援等を通じ、パンデミック予防強化に向け、今後も様々なパートナーと協力していきます。これは、保健システムとパンデミック予防の強化と、ワクチンの現地生産促進というIDAによるより広範な取組みの一環として進められます。

それにも増して重要なのは、重複する危機への対応を支援するだけでなく、長期的な優先課題についての支援も続けていくことです。IDA20は人的資本をこれまで以上に重視しており、学習危機の削減と基礎的スキルの習得を支援する固い決意であると共に、若者の雇用可能性強化にも引き続き力を注いでいきます。

IDAの持続可能な開発金融政策(SDFP)は、その国の債務状況に合わせた具体的な政策措置(PPA) を通じて債務の透明性と持続可能性を高めるよう奨励しています。PPAはIDAを通じた開発における重要な柱であり、その強化のために、皆様と協力して取り組んでいきたいと考えています。

世界銀行は、ジェンダーの平等や雇用創出における長期的な開発目標の達成に向けて、各国との緊密な協力を続けつつ、経済的変革と社会的包摂の促進を図るため、ガバナンスと組織・制度や、デジタル格差の解消にも引き続き力を注いでいきます。さらに、脆弱性・紛争・暴力の影響下にある人を含めた最脆弱層を引き続き重点的に支援していきます。

また、IDAは、今後とも、国際金融公社(IFC)や多数国間投資保証機関(MIGA)と共に、民間セクター・ウィンドウ(PSW)を通じ、最も貧しく最も脆弱な国々における民間セクター投資の促進と雇用創出を図っていきます。IDAのPSWは、自己資金1ドルに対して、IFC・MIGAからの支援を含め5ドル以上の投資を動員した実績があります。PSWは、IDA20の下で、民間セクター投資を、食料不安、保健医療、気候変動、起業といった最優先分野に呼び込む予定です。  

最後になりましたが、コロナ危機に伴う難しい状況の中、本日のイベントを主催してくださった日本政府にあらためて御礼申し上げます。皆様と直接お会いして話ができることを大変うれしく思います。今後も、世界の最貧国の開発目標達成に向けて協力を惜しまない所存です。ご清聴ありがとうございました。

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