スピーチ&筆記録

サイドイベント「アフリカにおけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」におけるジム・ヨン・キム世界銀行グループ総裁スピーチ

2016年8月26日


ジム・ヨン・キム世界銀行グループ総裁 第6回アフリカ開発会議 ナイロビ, ケニア

スピーチ原稿

仮訳

ケニヤッタ大統領、安倍総理大臣、ならびにご列席の皆様と共に、本日ここにアフリカにおけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジに向けた前進をいかに加速させていくかを議論するイベントに参加することができ、光栄に存じます。このイベントを開催されたケニア政府、日本政府、世界保健機関、世界エイズ・結核・マラリア対策基金に心よりお礼を申し上げます。

今、世界は新たな時代を迎えようとしています。これから起こるデジタル革命により、新たな産業が活気づき、新たな技術の価値が高まるでしょう。今後何が待ち受けているかはまだわかりませんが、専門家によれば、将来は競争がさらに激しくなり、保健医療や教育といったいわゆるソフトインフラが、道路橋梁プロジェクトやエネルギープロジェクトといったハードインフラと同様に、経済にとって極めて重要になると言われています。次の世代が潜在性を発揮し、将来の経済への本格的な参画ができるよう、われわれはできる限りのことを行わなければなりません。

この意味でも本日の議論は非常に重要です。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジは、アフリカが新たな時代、そして世界の舞台へと大きく足を踏み出すための助けとなります。健康、豊かさ、安全をもたらすには誰もが平等に受けられる保健医療システムこそが最良の処方箋であることを物語る証拠があります。

ここにご列席の皆様は、UHCがもたらす恩恵を目の当たりにされてきた方々です。日本はユニバーサル・ヘルス・カバレッジの模範となっており、日本がUHCをこれほど熱心に提唱している理由はこれまでの日本の経験を見れば明らかです。第二次世界大戦後の日本では、国民の半分が貧困ラインに近い生活をしていました。1961年、日本政府は経済成長率を2倍にするという目標を掲げると共に、国民皆保険制度を達成しました。家計所得は1960年から1967年までのわずか7年間で2倍になり、健康転帰も向上しました。良質な基本医療への公平なアクセスが日本の経済的成功で大きな役割を担ったとする説が有力です。過去70年間で日本の平均寿命は30年以上延び、健康転帰の増進も世界有数です。

安倍総理は、誰も取り残さず、なおかつ医療費のために人々が苦難を強いられることや貧困に陥ることのない保健医療システムを世界に提唱していらっしゃいます。公衆衛生危機にも対応できる強固で強靱な保健医療システムは、貧富にかかわらずあらゆる人を守ることができ、さらには2030年までに極度の貧困を撲滅するという目標の達成にも貢献します。

本イベント、そして強靱な保健システムの促進に関する明日のテーマ別会合は、アフリカのあらゆる国でユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成を可能にする方法とその重要性の理由を探るこれまでにない機会です。

世界銀行は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジへの投資は将来への投資であると考えています。アフリカにおけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジのために今後5年間で最大150億ドルのコミットメントを本日発表するのもそのためです。

世界銀行がユニバーサル・ヘルス・カバレッジを強く支持している3つの理由をご説明いたします。

第一に、UHCは病気の蔓延や高額な医療費の自己負担から人々を守ることによって貧困に真正面から取り組むものです。この会合のために作成された「アフリカにおけるUHC実現に向けた政策枠組み」は、2014年にアフリカで3,500万人近くが医療費のために貧困に陥ったことを示しています。

シエラレオネにおける植林のときに出会った5児の母、ビンデ(Bindeh)さんの例をご紹介いたしましょう。ビンデさんは小学校4年生までの教育しか受けていません。エボラ出血熱で夫を亡くしたとき、家族がどうやって生きていけばよいのか途方に暮れたといいます。世界銀行が支援した現金給付により、ビンデさんや近隣の人々は食糧や子供の学費を賄うことができ、また、この現金給付は、新たな商いを始めるためにも役立てられました。ビンデさんは給付金を使って石鹸づくりの仕事を始め、その利益によって一家は電気のある雨漏りしない家に引っ越しました。さらにビンデさんは冷蔵庫を購入し、その冷蔵庫で冷やしたソーダを販売しています。現在、ビンデさんの子供は全員が再び学校に通っています。子供たちは母親を誇りに思い、母親は自分の子供たちの明るい将来を感じています。

第二に、UHCは包摂的成長を促進します。ランセット誌「健康への投資に関する委員会」の推定によれば、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジによってもたらされた生存率の向上は、2000年から2011年の間の経済成長の約3分の1を占め、1ドルの投資につき最高10ドルの投資利益が期待できるとしています。

そして第三に、UHCは保健セクターを活性化させて雇用を創出します。アフリカの保健セクターの過去10年間の年平均成長率は、経済全体の成長率5%に対し、6%となっています。「アフリカにおけるUHC実現に向けた政策枠組み」では、保健サービスへのアクセス拡大により2030年までに400万人以上の雇用が創出されると見積もっています。

以上は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジが効果的な投資である理由の一部にすぎません。各国はUHC実現に向けてそれぞれの進め方をとり、世界銀行はそれを様々な形で支援することが可能です。たとえば、「女性、子供及び青少年の健康のための世界戦略(Every Woman Every Child)」を支援するグローバル・ファイナンシング・ファシリティは、予防可能な原因が招く乳幼児および妊産婦の死亡を2030年までになくすために必要とされる総額5,000億ドル近い資金ギャップを埋めるための支援を目指しています。また、パートナーと協力し、栄養状態と幼児発育ケアの改善、小児の成長阻害撲滅、これらの支援策拡大を図る最善策を見出す取組も行っています。

期限を定めた目標設定をすることで、前進を促し、予防可能な妊産婦の死亡や成長阻害をなくすといった目標の達成が可能になります。また、進捗状況のモニタリング能力の大幅な向上が必要であることも認識しています。

こうした目的を達成する上で、世界銀行は、特にアフリカに重点を置いたユニバーサル・ヘルス・カバレッジに関する世界銀行と世界保健機関による世界的な年次モニタリングレポートの作成を支援するという日本政府の決定を歓迎いたします。また、日本政府のご支援を受け、世界銀行グループとWHOはユニバーサル・ヘルス・カバレッジに向けた進捗のモニタリングに関する初のハイレベル年次会合を来年東京で開催いたします。UHCへの日本政府からの継続的なご支援に対し、心より感謝いたします。

多くのアフリカ諸国は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを実現するためにどのようなステップが必要であるかを認識しており、また、メジナ虫症やオンコセルカ症など熱帯病の根絶、HIV治療用の抗レトロウイルス薬の拡大、コミュニティ・ヘルス・ワーカー配置の革新的な方法、最近の例では遠隔地にある保健施設に救命医療用品を届けるドローンの活用など、非常に短期間で大きな前進ができることをすでに示しています。今後、アフリカ諸国はそうした創意工夫を基礎として共通の課題を克服していかなければなりません。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジへの投資の拡大は急務であり、健康な生活、健康な経済へとつながります。全ての人々が基礎的な保健医療サービスを、必要な時に、負担可能な費用で受けられるようにするために皆様と共に取り組んでいく所存です。ご静聴ありがとうございました。

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