スピーチ&筆記録

世界銀行グループ年次総務会スピーチ

2012年10月12日


世界銀行グループ総裁ジム・ヨン・キム 年次総会 東京, 日本

スピーチ原稿

「仮訳」

議長、総務の皆様、大臣の皆様、ご来賓の皆様、そして世界中の市民の皆様、

世界銀行グループの総裁として初めてこの演壇に立ちますことを光栄に思います。

日本政府の暖かな歓迎と手厚いおもてなしに対し、心から感謝の意を表します。昨年の大震災と津波からの復興において、日本が示した逆境に負けない力と決意に、我々は皆心を揺さ振られました。また我々は、世界の開発のために寛大なご支援を数十年続けてこられた日本国民の皆様に御礼を申し上げます。

また、リアド・サラメ、マレック・ベルカにも御礼を申し上げます。そして総裁着任後の3か月間に貴重なご支援を賜ったクリスティーヌにも感謝の意を表します。

前回東京で年次総会が開かれたのは50年近く前のことです。当時の日本は、目覚しい経済的変貌を遂げつつある時期でした。何世紀も戦争が続いたヨーロッパ諸国は、経済統合の推進を通じて平和を築きつつありました。アフリカには独立の波が押し寄せ、民族自決の新たな機会が切り開かれつつありました。そして米国では、制度化された人種差別に対して公民権運動が起こっていました。

マーチン・ルーサー・キング・ジュニア牧師は、人類の進歩と尊厳を追求するこの普遍的運動を、「道徳の世界の弧は長いが、それは正義に向かっている」と表現しました。キング牧師のこの言葉は、人類に対して牧師が確信的な希望を持っていたことを示していますが、この確信的希望は常に私の人生の原動力となり、私はこれを携えて世銀グループにやってきました。

しかし、我々の進歩は運命のように自動的に起こるわけではありません。人々の力が必要です。50年前に起きた世界の変貌は、人々が互いに力を合わせれば、より多くの機会がより多くの地でより多くの人々に開かれるよう、歴史の弧の行先を変えることが可能であることを示しています。

弧の行先を変えるという課題

東京で2度目の年次総会が開かれる今、我々は又しても、とてつもない課題に直面しています。世界金融危機の発生から4年経った今も、我々は依然として、経済の安定性の再構築、信認の回復を模索しています。ヨーロッパで続く経済・金融不安は、引き続き途上国の成長と雇用を脅かし続けています。一方、食糧価格の高騰により、最貧国の予算に大きな負担がかかっています。さらに、多くの中東諸国では、数十年ぶりの極めて重要な移行が起こりつつあります。

途上国が現在の不安定な状況から身を守り、長期的な開発目標の達成を図ろうとする中、世銀グループはIDAも含めた大規模な増資のおかげで万全な支援体制を整えています。途上国の成長促進に向けたインフラ投資のために、我々は速やかなディスバースを行っています。また、中小企業への貸出も行っています。弱者保護のための社会的セーフティネットの強化でも途上国を支援しています。さらに世銀の持続可能な農業貸出を通じて、リスクに強い小規模農家を育てています。

世界中の人々が、より明るい将来という共通の希望を掲げています。ホンジュラスに住む26才の女性、オネイダのような人々は、犯罪のない安全な社会を実現するには「警官の数を増やすことも確かに必要ですが、それ以上に大切なのは仕事を増やすこと」と言っています。また、一児の母であるインド人のダンガールは、子供たちの健康を保つには清潔な生活環境ときれいな空気が必要と言っています。彼らは単に貧困から逃れようとしているのではありません。収入増加、健康、質の高い教育など、繁栄に含まれるすべての側面を達成することを望んでいます。そして正義もです。と言うのも、貧困と格差には往々にして不正がつきまとうからです。

私は、人々が貧しさ故に、心も体も暴力で傷つけられるのを、この目で見てきました。このような状況は人間性を失わせるものです。こんなことに耐えられるでしょうか。

また、社会から疎外された人々が極めて強い決意で自らの尊厳を守ろうとしているかを目にしてきました。なぜ、貧困のない世界という我々の決意は、彼らの決意ほど強くないのでしょうか。

そこで今朝、私は、皆様にある問いかけをしたいと思います。貧困をなくすのに必要なことは何でしょうか?世界中のオネイダやダンガールたちのような人々が自らの目標を達成できるようにするために、世界中の政府、民間セクター、市民社会、国際機関には何が求められているのでしょうか。そして世銀グループは、貧困を終わらせ繁栄を分かち合うために、どんな支援ができるのでしょうか。

現在の困難な状況においては、開発に対する支援は他の優先課題の前に影が薄くなりがちなことは私もよく承知しております。ここにいらっしゃる皆様の多くは、現在の経済情勢で、国際開発への支援を新たに約束したり、以前の約束を守ったりする余裕などないという主張を耳にされたことがおありでしょう。 

私は本日この場をお借りして、こうした主張に対する反論を述べさせていただきます。今日、多くの市民が格差の是正を求めつつ、中には希望を失っている人もいるかもしれません。しかしこれは繁栄を共有する新たな時代を築くための好機であり、また我々はそうする責任があると私は確信しています。10億人以上が最貧困の状態にあり、失業者が2億人に上る今、各国がそれぞれに狭い視野で自国の利益のみを追求すべき時ではありません。 

なぜなら、今できることは多く、また、失うものも更に多いからです。

過去10年間、合計40億人以上の人口を持つ約50の途上国で年間平均5%以上のGDP成長が達成されました。この成長のおかげで、これまでにないペースで貧困削減が進み、2015年までに貧困率を1990年当時から半減するという一つ目のミレニアム開発目標(MDG)は目標より5年も早く達成されました。私は先月コートジボワールと南アフリカを訪れ、アフリカにおける新たな機会の兆しをこの目で確かめることができました。世銀の支援を受けたコートジボワールの職業訓練センターでは、復員軍人が武器の代わりにペンチとねじ回しを手に、電気技術者になる研修を受けていました。このような希望は伝播しやすく、今やアフリカ全体に広がりつつあります。

内陸の小国に持続的成長は望めないと考えられた時代もありました。しかし、過去10年間に年間8%近い経済成長を遂げてきたルワンダがこの考えを払拭しました。また、紛争の影響下で保健システムの確立は不可能だと考えられていましたが、アフガニスタンでは過去10年間に基礎的保健サービスが大幅に拡充しており、この考えを退けました。構造的な格差が根深い国が不平等を改善することは不可能だと考えられていましたが、ブラジルは、ジニ係数を5%ポイント引き下げることに成功し、この考えを覆しました。

ここでの教訓は、何事も予め決まっているわけではなく、どの国も潜在力を持っており、問題はその力をいかにして解放するかということです。私は子供の頃に韓国から米国に移住しました。当時の韓国はよく「故障」だと言われていました。しかし、韓国経済の成功は、いかなる国に対しても二度とそのような失礼な、または悲観的なレッテルを貼ってはならないことを証明しています。 

過去10年間の成功事例や、現在世界経済が直面している脅威の大きさを踏まえると、2012年も終盤に近づいた今、将来の見通しについてどう言えるでしょうか。中期的には3つのシナリオが考えられます。

第一のシナリオは、大半の国が現在の成長軌道を維持するというものです。このシナリオでは、世界の貧困率は、最近の傾向のまま、年間約1%ポイント低下を続ける可能性が高いでしょう。途上国は全体として、過去20年間で貧困率を半減させました。このペースを保っていけば、今後10年間に貧困率をさらに半減できるでしょう。中産階級に加わる人口はかなり増えるはずです。これは喜ばしい進歩ではあります。しかし、十分ではありません。我々にはもっと多くできるはずです。

第二のシナリオは、もっと暗く、世界経済危機が悪化し、途上国が近年の成長軌道から転落するというものです。大きな所得格差が一段と広がり、人々の経済的機会が失われ、長期的な成長見通しを引き下げます。このシナリオでは、世界の貧困率の削減スピードは減速し、場合によっては逆行しかねません。このような展開は避けなければなりません。

第三のシナリオは、私にとって元気が出るもので、毎朝起きて出勤することが楽しみになるものです。このシナリオこそ、歴史の弧の行先を変え、進歩を加速させることができます。多くの人々が開発に参加しその恩恵を受けられます。また、多くの人々が経済的安定を享受できるよう、ショックに強い社会をつくります。さらに、努力しようと思えば、最貧困の人々を事実上ゼロにすることが可能です。この目標は手の届かないものではありません。力を合わせれば実現できます。 

貧困をなくすのに必要なことは

では、その実現のために何が必要でしょうか。

今日、世界経済は重要な岐路に立たされています。多様な加盟国をひとつに結び付けているのは、より豊かで、より持続可能、弱者に一層配慮した将来を目指して、誰もが新たなソリューションを模索しているという点です。

ご承知の通り、高所得国は、雇用創出、成長促進、そして財政の持続可能性の回復を目指して新たなソリューションを求めています。この取組みの成否は我々全員にとって重要です。と言うのも、これまでに見られた通り、先進国で発生した経済危機は、世界各地に一気に拡散する可能性があるからです。そして、我々の共通の開発課題に取り組んでいくには、先進国による対外援助へのコミットメントが依然として決定的な役割を果たすからであります。 

世銀グループは長年にわたって、より効果的な社会保護プログラムの企画、投資環境の改善、成長に役立つ公共投資の特定に関する経験を積んできました。また、グローバルな銀行として、経済改革を実施中の高所得国に対しても、要請があれば知識や技術協力を提供する用意があります。

中所得国は、これまでと異なる問題に直面して新たなソリューションを求めています。彼らの多くは、近年、急成長を遂げてきました。しかし、我々皆が認識しているように、かつて成功した戦略は将来の課題の解決に適当とは限りません。例えば、成長プロセスに貧困層がもっと関与できる方法、インフラやエネルギー不足をどう解消するか、次世代の政策改革をどう実施するか、そしてグローバル・システムにおける責任ある寛大なステークホルダーとしての役割をどう自分のものとするか等の課題です。

世銀グループは、中所得国からの要請に適切に応えられるよう既に自己改革を進めていますが、更なる改善の余地はあると思います。我々は、迅速性、革新性、柔軟性を高めていくべきです。また、地方政府向け貸出、資産運用・ヘッジングといった金融サービスなど、中所得国のニーズに見合った新しく多様な支援手段を開発しなければなりません。新興国が世界経済で次第に大きな役割を果たす中、彼らが世銀の中で強いボイスを確保するよう、私が自ら見守っていく所存です。

一方、低所得国は、成長を加速し、競争力を高め、自国民を貧困から脱却させるための新たなソリューションを模索しています。低所得国は、これまで以上に説明責任を備えた組織・制度の構築と活力ある民間セクターの育成により、次世代の新興市場となるチャンスがあります。例えば、アフリカのいくつかの国では、新たな天然資源が見つかりました。これらの資源は、適切に管理されれば、状況を一変させる可能性があります。

世銀グループは、低所得国がこの見通しを達成できるよう支援を強化していきます。例えば、日本が主要な拠出国の一つであるIFCのアセット・マネージメント社を通じて、我々はフロン ティア市場における民間セクターを対象に新たな投資資金を動員しています。また、IDA第17次増資で大きな成果を上げることが私の最優先課題の一つです。

脆弱国は、私自身もハイチでの経験から承知しているのですが、脆弱性からの脱却に対しソ リューションを求めています。内戦に陥った国々が立ち直るには通常、10年以上の歳月を要します。紛争を乗り越えたモザンビーク、ルワンダ、ウガンダなどの事例から、安全保障、正義、及び仕事という3点を確保することが不可欠と分かっています。

世銀グループは、これまで以上の緊迫感を持って脆弱国支援を進めていく必要があります。リスクが具体化した際には迅速かつ断固として対応できるよう、世銀の業務システムと政策の抜本的見直しを進めているのはそのためです。また我々のクライアントやパートナーが、役に立つ重要な知識に直接アクセスできるようにしています。さらに、有能で経験豊かな職員を、彼らを特に必要とする最も困難な地に配置していく所存です。

重大な転機にある中東・北アフリカの国々は、弱者に一層配慮した政治・経済モデルを構築する方法を模索しています。こうした国々における移行プロセスを見ると、開発のプロセスは弱者への配慮、透明性、及び特に若い女性を含む若年層の機会の創出が不可欠であると再確認させられます。

世銀グループは、この教訓を心に刻み込んでいます。私の優先課題の一つは、同地域との関わりを強化し、必要に応じてアプローチを見直していくことです。 

世界の様々な国々がそれぞれの課題に対応する際、共有する天然資源の枯渇を招かない、持続可能な形をとらなければなりません。理系の教育を受けた実務家として、私は、気候変動に関する科学的証拠を無視することはできず、環境保護を喫緊の課題とする必要があると理解しています。そうしなければ、開発が阻害されるどころか、貧困に逆戻りするような自然環境を作り出してしまう危険があります。

そこで、世銀グループは、地球公共財及び持続可能な開発のための投資をこれまで以上に促進します。我々は各国が自国の自然資産をより良く理解し管理できるよう、「自然資本の経済価値を国民経済計算に組み込む」という概念を国際社会に訴えています。環境にやさしいグ リーン成長に向けた戦略の策定でも各国を支援しています。さらに、開発の前提として良いガバナンスを優先させ、不正や腐敗と徹底的に戦い続ける所存です。 

絶えず進化を遂げる今の世界において、力強い世銀グループが必要とされていることは明らかです。融資、知識、人々を結集する力を駆使して、現在と将来の両方で開発課題に総合的なソリューションを提供する、そんな世銀グループが求められています。

「ソリューション・バンク」となるためには

では、この進化を続ける世界において、世銀グループの将来とはどのようなものでしょうか。この3か月間、私の最優先課題の一つは、できるだけ多くの世銀職員と会うことでした。職員は世銀の最も重要な資産です。私が職員に繰り返し尋ねてきた質問のひとつは、世銀グループが最高の状態にあったのはいつか、です。

その過程で、我々が他のドナーと協力して、深刻な干ばつに見舞われた「アフリカの角」の国々を支援するため13億ドルを緊急動員したことを耳にしました。

また、我々がインド政府と共同で画期的な作物保険プログラムを立ち上げたことも聞きました。このプログラムは、数百万軒の農家に対し天候不順に起因するリスクの軽減を支援します。

さらに、政治リスクに対する保証を提供する多数国間投資保証機関(MIGA)についても、アフリカで初の民間資金による地熱発電プロジェクトを支援し、この有望な未開拓市場に投資を誘致したと聞きました。

こうした成功からは、敏捷で革新的な組織の存在が伺えます。最も困難な環境に足を踏み入れ、状況を一変させるような行動のとれる組織です。また、謙虚でありながら専門知識を駆使して大規模な成果を達成する組織です。

ここで当然ある質問が生じるでしょう。世銀グループが、どんなプロジェクトにおいても、どんなクライアントのためにも、日々最高の状態を維持するために必要なことは何かという質問です。

その答えは、我々が自らの新たな戦略的アイデンティティを確立することだと確信します。我々は、ノレッジ・バンクからソリューション・バンクへと生まれ変わらなければなりません。クライアントの開発課題に対し、教条的でなく実証例に基づくソリューションを適用できるよう支援する存在です。

ただし、ここではっきりさせておきたいことがあります。世銀がソリューション・バンクになると いっても、どんな開発課題についてもソリューションを事前に持っているわけではありません。そのようなものは持っていません。それは我々の目標でもありません。

そうではなく、世銀はパートナーやクライアント、地域コミュニティと協力して、ソリューション・バンクとして、学習し、ソリューションの発見プロセスを助長していきます。私は、数十年に及ぶ開発業務を通じ、経済・社会問題をめぐる最善のソリューションは、日々の暮らしの中で課題に対応している人々やコミュニティの中にあることが多いと学びました。こうしたソリューションを持っている人々こそ私の最も偉大な先生です。我々は彼らの言葉に耳を傾け、彼らの洞察力を活用して行動しなければなりません。

有効なソリューション・バンクとなるには、組織の枠を超えて答えを追及するよう求められます。知識は今や世界中に拡散し、インドのデリーの起業家から、メキシコの農民、ナイジェリアのラゴスの市民社会団体、ユーゴスラビアのサラエボの政策担当者へと流れます。世界中に業務を展開する世銀グループは、世界各地の多数のステークホルダーを結びつけ人々を結集させる上で理想的な立場にあり、組織の枠を超えた知識の交換を促しています。

そのために我々は、パートナーシップの強化と拡大を図っていきます。すなわち、IMF、国連、地域開発金融機関などとの協調を深めていくことです。また、共有する目標を達成するため、有力な市民社会団体、財団、研究機関、民間セクターと新たな連携を作っていきます。

ソリューション・バンクは、これまで以上に成果の「デリバリー」を重視することになります。資源が限られ、膨大な課題を抱えている時代に、デリバリーはドナーとクライアントの両方から求められています。多くのクライアントにとって、利用可能な資金は増えています。しかし、どの国も、企画、実施、結果の提示など、デリバリーの面で課題を抱えています。 

と言うのも、ほとんどの失敗はデリバリーにおいて起こるからです。政府が腐敗対策の強力な法案を可決しても、実際にはほとんど何も変わりません。これはデリバリーの失敗です。国が初等教育に多額の投資をしても、すべての児童を就学させたり、実際に学習させたりできる訳ではありません。これもデリバリーの失敗です。 

これは、世銀グループが取り組むべき次のフロンティアです。それは、「デリバリーの科学」を前進させるための支援です。しかし、デリバリーは簡単ではありません。「これはうまくいく、これはうまくいかない」と簡単に判断できるものでもありません。効果的なデリバリーは状況に 沿った知識が必要です。常に調整を重ね、合理的なリスクなら進んでとり、実施の細部に焦点を当てなければなりません。世銀グループの重要な比較優位の一つは、世銀があらゆるセク  ターでほぼすべての途上国においてコミュニティや政策担当者とパートナーシップを結んでいることです。ソリューション・バンクとなるためには、こうした経験からの教訓を体系的に活用し応用する必要があります。

ソリューション・バンクは、成功と失敗の両方について正直であることが求められます。我々は、その両方から学ぶことが可能であり、学ばなければなりません。

ソリューション・バンクへの転換は時間をかけて実現するものです。我々は、このシフトを業務の中に組み込む機会を求めています。ですが本日は、このプロセスを加速するため先行すべき4つの行動を取り上げたいと思います。

第一に、基本となる測定可能な目標を明示します。そうすることで、我々自身が世銀の業務をじっくりと見つめ、出来る限り効果的に業務を進めるよう求められます。世銀グループの使命は、貧困を終わらせ、繁栄を皆で享受することです。私がこの組織に、この2つの使命を実現するための意欲的なターゲットという形で目標を設定するよう求めた理由です。

二つ目に、実施面と結果に力を入れます。そのため我々は、現場でクライアントに成果をもたらす実施者や「解決を導く仲介者」に報いるため、インセンティブの仕組みを変更します。プロジェクトが構想の段階から実施まで2年もかかるようではいけません。説明責任はプロセスではなく結果に対して負いたいと思います。私が世銀理事会と共に、手続の合理化、プロセスの簡素化、そしてプロジェクトの準備期間の短縮を図ろうとしている理由です。

第三に、最高の成果を達成できる総合的なソリューションをクライアントに提供できるよう世銀の能力を短期間で向上させます。我々は、官民両セクターに対して確かな支援ができ、優れた知識を提供し、投資を促進するためのリスク保証を提供できる唯一の国際開発機関です。このシナジーを高めれば、我々はその比較優位を更に高めることができるでしょう。私が世銀グループの幹部に対し組織のシナジーを高めるための計画を立案し、コスト削減と開発効果向上を図るよう求めた理由です。 

第四に、「オープン・データ・イニシアティブ」の成功を踏まえ、データや分析ツールへの投資を続ける必要があります。データは、優先順位の設定、健全な政策の立案、成果のモニターに不可欠です。しかし、多くの国は統計処理能力が不十分で、信頼できる最新の経済データや貧困データがありません。我々がパートナーと共に、事実上すべての途上国がタイムリーで正確なデータを備えられるようにしている理由です。さらに、貧困との闘いと繁栄の享受についての進捗状況を毎年報告していく所存です。

来年の春季会合では、この取組みについての進捗状況をご報告し、成果と課題についてお伝えします。ご列席の皆様と各国の理事の方々には、我々が意欲的な目標を設定し、その実現に向けて資源を動員しているかどうか、常に世銀の説明責任を監視していただければ幸いです。

終わりに

最後に、創設合意から68年、世界が変化する中で、世銀グループも進化し続けてきたことを指摘したいと思います。世銀は当初、第二次大戦後のヨーロッパ再建を目指す「復興銀行」として設立されました。その後、ロバート・マクナマラ総裁の下で「途上国に対する貸出を行う銀行」に変身し、貧困削減のために資金を提供しました。さらにジム・ウォルフェンソン総裁の下で、「ノレッジ・バンク」へとさらなる変身を遂げ、開発プロセスと弱者に配慮した開発促進における役割について世銀自らの理解を深めました。そして、前任のロバート・ゼーリック総裁の下では、情報公開や透明性が改善されました。歴代の総裁、が変化する世界について正しく理解し、その上で世銀グループを前進させてくださったことに感謝します。

そして今、世銀の進化は「次の章」に踏み出すべきときだと私は確信しております。それは、「ソリューション」を提供する銀行となることです。我々は、耳を傾け、学習し、各国や受益者と協力し、ボトムアップ型のソリューションを構築しなければなりません。我々はこうして、現在と将来の世界経済の中で、世銀の妥当性と価値を高めていきます。

世銀グループで我々はよく、貧困のない世界の夢について話します。これは世銀本部の玄関に刻まれたモットーです。しかし、そろそろ貧困のない世界を夢として語るのではなく、実現しようではありませんか。今こそ、歴史の「弧」の行先を変えるときです。結果の達成に向けた不屈の努力に支えられた世界的な連帯をもってすれば、実現は可能であり、そうすべきです。そして我々は貧困のない世界と繁栄の共有をなし遂げます。ご清聴ありがとうございました。

 

 

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