銀行システム全体に波及する危機と景気後退が成長と開発の長期的圧力に
ワシントンDC、2023年3月27日—世界経済の「制限速度」、すなわちインフレを引き起こすことなく長期持続可能な最大成長率が2030年までにこの30年間の最低水準まで低下する見通しとなった。そのため、生産性向上と労働力の供給拡大、投資と貿易の増加、サービス部門の潜在成長力押上げを促す野心的な政策が必要になる-世界銀行は最新報告書「悪化する長期成長見通し:傾向、予想、政策」の中でこう指摘する。
報告書は、コロナ危機とロシアによるウクライナ侵攻後、初となる長期潜在成長率の包括的な分析結果をまとめたもので、この成長率は、世界経済成長の「制限速度」と捉えることができる。
報告書は、ある懸念すべき傾向を示唆している。この30年間の進捗と繁栄を導いたすべての経済的原動力が勢いを失いつつあるというのである。結果として、2022~2030年の潜在GDP成長率の平均は、今世紀最初の10年間と比べ約3分の1低下して年率2.2%となるとみられる。途上国でも成長率の低下は同様に大幅であり、2000~2010年の年率6%から、今後2030年までは同4%になる見通しである。しかも、世界的な金融危機や景気後退が発生するようなことがあれば、さらに大幅に低下するだろう。
「世界経済にとって失われた10年になるかもしれない。」とインダーミット・ギル世界銀行チーフエコノミスト兼上級副総裁(開発経済担当)は述べた。「潜在成長率の低下が進んでいることは、根深い貧困、所得格差の拡大、気候変動など、増え続ける現代特有の課題を世界が克服できるか否かを大きく左右する。とは言え、潜在成長率低下というこの状況は反転が可能である。世界経済成長の制限速度は、労働者の意欲向上、生産性拡大、投資加速を図る政策を通じて引き上げることが可能だからである。」
今回の分析の結果、各国が持続可能な成長重視政策を実施すれば、潜在成長率を最大で0.7%ポイント増の年率平均2.9%まで引き上げ可能であるとされており、予測される潜在成長率の減速を加速へと転換させることになる。
「我々には、将来世代のために、力強く持続可能かつ包摂的な成長が実現可能な政策を策定する義務がある。」と報告書の主任執筆者であるアイハン・コーゼ世界銀行グループ開発見通し局長は述べた。「成長回復には、各国が今こそ協調して政策を大胆に推進することが必要だ。国レベルでは、各途上国が、この10年間に最も効果的だった各種の政策を改めて実施する必要があるだろう。国際レベルでは、政策対応において国際協調を強化し、民間資本動員を一層促進することが必要になる。」
報告書は、いくつかの分野における新機軸を含め、実行可能な政策オプションとして幅広いメニューを提示している。また、1981~2021年を対象に173カ国について、潜在成長力の拡大に向けた複数の施策を網羅した世界初の包括的な公共データベースを提供している。さらに、景気後退や銀行システム全体に波及する危機など、各種の短期的な経済混乱が、中期的に潜在成長力をどの程度阻むかの初の分析となっている。
「景気後退は潜在成長率を下げる傾向にある。」と報告書の主任執筆者であるフランチスカ・オーネゾルゲ世界銀行開発見通し局マネージャーは述べた。「銀行システム全体に波及する危機がもたらす当面の悪影響は間違いなく、景気後退より深刻だが、時間の経過と共に緩和する傾向にある。」
報告書は、長期的な成長見通しを大きく促進する国レベルでの政策措置として具体的に以下を挙げている。
- 通貨、財政、金融の枠組みの一本化:断固たるマクロ経済政策と金融政策の枠組みは、周期的景気変動の緩和を可能にする。政策担当者は、インフレ抑制、金融セクターの安定確保、債務削減、財政の健全性回復を優先すべきである。各国はこうした政策により、投資家に国の機関・制度や政策決定への信頼を植付けることで、投資を呼び込むことができる。
- 投資の拡大:運輸とエネルギー、気候変動に配慮した農業と製造、土地制度・水道システムといった分野では、気候変動対策の主要な目標に沿った適切な投資により、潜在成長率を年間最大0.3%ポイント高め、将来の自然災害に対する強靱性を強化することができる。
- 貿易コストの削減:現在、主に輸送、ロジスティクス、規制関連で生じる貿易コストは、国際貿易商品のコストを2倍に引き上げている。輸送コストと物流コストが特に高い国は、貿易円滑化をはじめ、両コストが最も低い国々の慣行を採用することで、貿易コストを半減できる可能性がある。さらに貿易コストは、気候変動への影響を抑える方法でも削減が可能である。多くの国の関税率表には現在、温室効果ガス排出量の多い商品に対する偏見がみられるが、それを解消し、環境に優しい商品やサービスへのアクセス制限を撤廃するのがその方法である。
- サービス部門の活用:サービス部門は、経済成長の新しい原動力になり得る。情報通信技術関連でデジタルに提供される専門サービスの輸出が全サービス輸出に占める割合は、2019年の40%から2021年は50%以上に伸びた。デジタルへの移行により、サービスの提供が改善されれば、生産性の大幅な向上が期待できる。
- 労働参加率の向上:2030年までに予想される潜在成長率の鈍化の内、約半分は、高齢化に伴う生産年齢人口の減少や労働参加率の低下など、人口動態の変化に起因する。10年間の労働参加率の伸びで過去最高のペースにより全体的な労働参加率を押し上げた場合、世界の潜在成長率は2030年までに年間0.2%ポイント上昇する可能性がある。南アジアや中東・北アフリカなどの地域では、女性の労働参加率をすべての新興市場国と途上国の平均まで引き上げることで、2022~2030年までの潜在成長率を年間1.2%ポイント引き上げることが可能になる。
報告書はまた、国際協力強化の必要性を強調している。国際的な経済統合は、1990年から20年以上にわたり世界の繁栄促進に貢献してきたが、その後は低迷している。改めて統合を進めることが、貿易の促進、気候変動対策の加速、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に必要な投資の動員に不可欠である。
報告書本体のダウンロードはこちらから - https://openknowledge.worldbank.org/bitstreams/fe0880d1-ffbf-430f-bab4-d3dbdda7470e/download
ウエブサイト: https://www.worldbank.org/en/research/publication/long-term-growth-prospects
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