2022年末までのGDP成長率は5.2%ながら、コロナ危機により先行きは一段と不透明
ワシントン、2022年4月14日 — 中東・北アフリカ地域(MENA)の2022年の経済成長率は、原油価格高騰で域内の石油輸出国が予定外に潤い、2016年以降で最大の5.2%になるとみられる。ただし、ウクライナでの戦争と、新型コロナウイルス変異株によりなおも続く脅威のため、この予測値には大きな不確実性が伴う。
世界銀行は中東・北アフリカ地域経済報告の最新版「追跡調査:不確実性の時代にある中東・北アフリカ地域」を発表し、地域の平均値からは広範なばらつきが見えてこないが、回復は一様には進まないと予測する。産油国は原油価格高騰とワクチン接種率上昇の恩恵を受けるが、脆弱国は後れを取るだろう。ただし、世界的な金融引締め政策、先行きが不透明なパンデミック、進行中のサプライチェーンの混乱と食料価格高騰により、地域全体でインフレ・リスクが高まる。
「誰もまだ危機を脱したわけではないというのが、厳しいが現実だ。新型コロナウイルス変異株の脅威は続いているし、ウクライナでの戦争はいくつものリスクを拡大させている。特に貧困層は、食料・燃料価格上昇の影響をまともに受ける。こうした不確実性の時代にあっては、地域の成長を予測する際、現実をしっかりと見据えることが不可欠である。」と、世界銀行のフェリード・ベルハジ中東・北アフリカ地域担当副総裁は述べた。「この不確実性のうねりを管理することは政策担当者にとって大きな難題であり、いくつもの危機が重なり合う中で世界銀行は広く域内各国の政府と協力していく。」
インフレ圧力が高まっているが、域内の一部の国では既に通貨下落が始まっている。財務・債務の脆弱性を抱える国は、既存の債務を繰り越す、または世界各国の中央銀行によるインフレ期待封じ込めのための金融引締めの中で新たな債券を発行することにより、おそらくさらなる課題に直面するだろう。
コロナ危機が招いたインフレ期待は、ウクライナでの戦争により一段と高まっている。域内諸国は、ロシアとウクライナからの小麦を含め食料を輸入に大きく依存している。食料価格上昇と食料不足のリスク拡大が最も打撃となるのは貧困世帯である。貧困世帯は裕福な世帯と比べ、家計の中で食料とエネルギーが占める割合が大きい傾向にあるからだ。戦争がどれほどの影響をもたらすのか、その全体像はまだわからないが、初期の兆候からは、石油を輸入する中所得国を中心に、域内諸国で経済的困難が既に広がっていることが伺える。
成長予測は5.2%とは言え、人々の生活水準の指標である国民一人あたりGDPは、2020~21年の全体的な低迷が尾を引き、コロナ前の水準を辛うじて上回るにとどまるだろう、と報告書は指摘する。湾岸協力理事会加盟国では、原油価格高騰を追い風に、2022年の国民一人あたりGDPは4.5%と見込まれるが、2023年まではコロナ前の水準に戻ることはないだろう。一方、中所得の石油輸出国では、2022年の国民一人あたりGDPが3.0%、域内の石油輸入国では2.4%と、いずれもコロナ前の生活水準をわずかに上回るにすぎないだろう。全体としては、こうした予測の通りになれば、MENA17カ国のうち11カ国が2022年末までにはコロナ前の水準に回復しない可能性がある。
コロナ関連の不確実性に加え、域内の中所得国のうち、他の地域の中所得国よりワクチン接種率が高い国は3分の1にとどまる。2022年4月4日の時点で、接種率が57.8%のオマーンを除く湾岸諸国の平均接種率は75.7%と、所得水準が同じほかの国々を大きく上回る。ただし、アルジェリアやイラクのような国々の接種率は人口の約13~17%で、イエメンとシリアに至っては一桁台であるため、近い将来、コロナによる経済・保健面の悪影響が一段と広がる恐れがある。
MENA地域経済報告は毎回、特集分野を選んでおり、最新版では、世界銀行、国際通貨基金、民間セクターなどによる過去10年間の成長予測についての追跡調査を行っている。経済予測は、各国政府が将来に向けた備えをする際、特に不確実な時代においては、貴重なツールとなる。最新版執筆者は、過去10年間におけるMENA地域の成長予測は、他の地域の予測と比較すると、不正確で過度に楽観的であることが多かったと結論付けた。過度に楽観的な予測は、ゆくゆくは経済収縮につながる可能性がある。予測の精度を左右する大きな要因は、時宜を得た質の高い情報が揃いかつアクセス可能であるか否かだが、この点でMENAは他の途上地域に後れを取っている。
「世界的・地域的に不確実な現在の状況では、可能な限り最も正確な予測を入手することが、これまで以上に重要になる。データの不足や公開の制限はリスクを伴う戦略である。より正確かつより透明なデータがあってこそ予測の精度は高まり、ひいては計画策定や政策立案も向上する。」と、ロベルタ・ガッティ世界銀行中東・北アフリカ地域総局チーフ・エコノミストは述べる。
リビアやイエメンなど紛争国のGDPデータは、それぞれ2014年と2017年と古いものしかない。世界銀行が支援するMENA19カ国のうち、 工業生産に関する月次や四半期ごとの情報を揃えているのは10カ国にすぎず、残り9カ国の情報は公表されていない。また、失業率の月次データを発表している国はない。報告書は、国のデータ・システムの改善方法について指針を示している。