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プレスリリース 2021年10月7日

新型ウイルス感染症による危機下で試される保健システムの対応度: 中東・北アフリカ地域の2021年の回復は脆弱で不均衡

2021年末までのGDP成長率は2.8%

ワシントン、2021年10月7日 — 中東・北アフリカ地域(MENA)は、長期的な社会・経済情勢と公衆衛生システムの資金不足により、新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対応できる準備が整っていなかったため、危機後の回復は脆弱で不均衡となっている。

世界銀行は同地域の半期経済報告「過信:経済・保健の不備による中東・北アフリカ地域の新型コロナウイルス感染症への対応に遅れ」を発表し、公共部門の賃金上昇が保健等の社会サービスへの投資を遠ざけた同地域の「近視眼的財政」により、今回の危機以前から保健システムの対応力がいかに不十分であったかを詳述している。

域内の感染症対策の推定累積コストによる国内総生産(GDP)の損失額は、今年末までに総額2,000億ドル近くに上るだろう。これは、今回の危機が発生していなかった場合に予測される同地域のGDPとの比較である。報告書によると、同地域のGDPは2020年にマイナス3.8%を記録し、2021年は2.8%の成長が見込まれている。

「感染症流行が域内の経済活動に与えた甚大な影響は、経済の発展と公衆衛生が密接に結びついていることを痛みと共に改めて思い出させた。残念なことに、比較的進んでいるとみられていた中東・北アフリカ地域の保健システムが今回の危機により随所で破綻した現実を突きつけている。」と、世界銀行のフェリード・ベルハジ中東・北アフリカ地域担当副総裁は述べた。「今後は、中核となる公衆衛生機能の構築と、保健データ充実や予防的な保健システム強化に一層注力することで地域の回復を加速させ、将来の感染症流行や気候関連の災害、社会的紛争により発生する可能性がある将来的な公衆衛生上の緊急事態に備える必要がある。」

生活水準の尺度である一人当たりGDPについて、同報告は2021年の域内での回復は脆弱で不均衡になるとしている。域内の一人当たりGDPは、2020年にマイナス5.4%だったが、2021年もわずか1.1%の成長しか見込めず、2021年末の時点で2019年の水準を4.3%下回ったままだろう。域内16カ国の内13カ国で、2021年の生活水準が危機以前に戻ることはないとみられる。各国別に見た2021年の国民一人当たりGDPの成長率は、深刻な景気後退に直面するレバノンのマイナス9.8%から、モロッコの4.0%まで、開きがある。また、特にウイルスの変異株が確認されている中で、ワクチンの迅速で公平な配布も回復の前提となるだろう。さらに、政情不安が成長へのリスクとなる国や、観光業の迅速な回復が成長を左右する国もある。

「過去2年間に、感染症拡大の抑制が人的被害の緩和だけでなく、経済回復の加速にとっても不可欠であることを認識させられたが、中東・北アフリカ地域の経済の回復は現在、脆弱で不均衡だ。域内の多くの低・中所得国で保健システムに負荷がかかり、ワクチンの配布が遅れていることが、ダウンサイド・リスクの予兆となっている。」と、ロベルタ・ガッティ世界銀行中東・北アフリカ地域総局チーフ・エコノミストは述べた。

世界銀行が定義する途上国地域の内、危機以前の10年間に財政支出の対GDP比が増えたのは、2009年の16%から2019年の18%だった中東・北アフリカ地域など、一部の地域だけだった。公共セクターの規模が大きく公的債務の水準が高いという以前からの状況が公衆衛生への投資を妨げ、その結果、一部の保健コストを個人に肩代わりさせたことは、不釣り合いに高い医療費自己負担により裏付けられている。公衆衛生システムに過度の負担がかかっていることを示すもう一つの例は、予防医療の割合が低いことであり、すべてが重なって他の地域よりも感染症・非伝染性疾患の割合を高めている。さらに、域内の若年層が統計上は健康に見えるため、公衆衛生上の緊急事態を予防するための投資にさほどの緊急性を感じなかったとも考えられる。

報告書は、同地域の公衆衛生システムが感染症の世界的流行のショックを吸収するだけの態勢を整えていなかっただけでなく、当局がこれまで保健システムの準備状況について過度に楽観的な自己評価をしていた、つまり「過信」だったと指摘している。

この過信の背景には、不十分なデータの収集と活用が大きな原因となった可能性がある。報告書は、公衆衛生データの透明性向上は、各国が長期的な保健医療ニーズに対応するだけでなく、将来の公衆衛生上の緊急事態に備えるためにも役立つ可能性があると分析している。したがって、公衆衛生システムへの現在の過少投資には緊急に対応する必要があり、そのために、公的セクターの予算内で中核的な公衆衛生機能への投資を優先することが求められる、と同報告書は結論付けている。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策

世界銀行グループは、新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まって以降、過去に例を見ない迅速かつ大規模な危機対応として、1,570億ドル以上を提供し、感染症による保健、経済、社会面への影響と闘ってきた。こうした資金は、100カ国以上において、感染症予防の強化、貧困層の保護と雇用の維持、気候変動に配慮した回復の活性化に充てられている。世界銀行はまた、50以上の低・中所得国(半数以上がアフリカ諸国)による新型コロナウイルス感染症ワクチンの調達・配布を支援しており、そのために2022年末までに200億ドルを提供する用意がある。


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