マルパス総裁が、成長加速、ジェンダーの平等と人間開発の後退阻止、広がる格差と気候変動への対応について要点を説明
ハルツーム、2021年9月30日—デイビッド・マルパス世界銀行グループ総裁は本日、深刻な格差とグローバルな開発の進捗後退に直面する我々は今「激動の時代」にあるとし、経済成長の加速、危機の早い収束、開発の再開に向けて、また新型コロナウイルス感染症のような世界規模の災厄に備え、より繁栄する将来への強固な基盤を構築するにはどういったステップを踏むべきかについて要点を説明した。
「開発の後退は人々の生命、仕事、生計、生活を脅かします。世界の多くの場所で貧困が悪化し、生活水準と識字率が低下し、ジェンダーの平等と栄養、保健におけるこれまでの成果が失われつつあります。一部の国では、以前から債務負担が持続不可能な水準にありましたが、今回の危機により状況は一段と悪化しています。貧困層は、前に進むどころか、世界中で格差が大きく広がる中で取り残されようとしています。このように経済・社会面での進捗が極端にとどこおっているために、経済、政治、地政学的関係が激動する時代となっているのです。」
今回、世界銀行グループ総裁として40年近くで初めてスーダンを訪問したマルパス総裁は、ハルツームで講演し、スーダンが近年に達成した進捗を挙げた。「スーダンは過去数年間、極めて厳しい状況にあったにもかかわらず、将来に向けた道筋を国民に示すため全力を尽くしてこられました。2年前にスーダン暫定政権が発足した際、数十年に及ぶ紛争と孤立により経済と社会は深刻なまでに疲弊していました。人々は過去と決別する決意でしたが、スーダンはとてつもない逆風に直面していました。新型コロナウイルス感染症の世界的流行、サバクトビバッタの異常発生、過去に例のない大規模な洪水、そして紛争を避けようと国境を越えて流入する大量の移民による逆風です。」
「それでも、スーダンは意欲的な改革を推進し、国際社会の仲間入りを果たし、米国のつなぎ融資の助けを得て世界銀行への延滞債務を解消し、6月には重債務貧困国(HIPC)イニシアティブの決定時点に到達しました。この先にはまだ取り組むべき課題が数多く残っていますが、スーダンの文民当局がより良い未来のために力を合わせて取り組まれ、成果を上げてこられたことに敬意を表します。平和と安定なくして開発が進むことはないので、政治が機能不全に陥ることは是が非でも避けなければなりません。また、スーダン国民の並外れた強靭性も忘れてはなりません。数々の難題を乗り越えてより良いスーダンを築こうという人々の意欲にはまさに心を揺り動かされます。」
マルパス総裁は、今回の感染症危機について、世界の貧困にとてつもなく大きな悪影響を与えたと述べた。「新型コロナウイルス感染症危機の結果、数十年にわたり着実に減少してきた貧困率が増加に転じました。新たに1億人近くが極度の貧困状態に陥ったほか、中所得国を中心に数億人が貧困層に加わりました。」
今後、状況が好転する可能性はあるものの、リスクは依然として残る、と同総裁は述べ、過去の感染症の後の状況を振り返った。1918~20年に流行し多くの犠牲者を出したスペイン風邪の後には経済が一気に急成長したものの、同時に格差が広がり、危険なまでに金融脆弱性が高まり、それが長期にわたる大恐慌の発生につながった。
マルパス総裁はまた、国際社会に対して質問を投げかけ、その答えを示した。包摂的で広範かつ持続可能な成長を加速させ、開発にとって失われた10年とならないようにするには、何をすべきか、という質問だ。「第一に、主要な優先課題に集中的に取り組む必要があります。その際、どういったアプローチをとり、進捗をいかにして測定するかを明確にしておかなければなりません。そして第二に、インパクトを達成するにははるかに大規模に取り組む必要があります。」
同総裁は、断固たる措置を通じて成果を上げるべき4つの分野として、経済的安定性の達成、デジタル改革の活用、より環境に配慮したより持続可能な開発、人への投資を挙げた。
経済的安定性の達成
同総裁は、多くの途上国が今回の危機を通じ、国民を支え経済活動を継続するために並々ならぬ努力を惜しまなかったと述べた。「多くの国が財政状況から見た本来の範囲を超えて取り組みました。特に、感染症危機が始まった際、途上国における債務は過去最高の水準に達していたにもかかわらずです。」
債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)が今年末をもって期限を迎え債務の返済が再開されると、低所得国ではワクチン調達やその他の優先課題への支出のための財政的余地が小さくなるだろう、と同総裁は述べた。「段階的で国民本位の財政再建を進め、持続不可能なレベルの債務は再編しなければなりません。そのために、G20の共通枠組みの実施を拡大・加速することが不可欠です。」
マルパス総裁は、世界の最貧国の債務救済と、成長拡大につながる投資のための資金確保に向けて、民間セクターの参加を含めた、より広範な世界規模の協力を呼びかけた。「例えばスーダンは、米国、フランス、英国を含めたグローバルな協力により500億ドル以上というHIPCイニシアティブとして最大の債務救済が可能になり、世界銀行、国際通貨基金(IMF)などの国際金融機関への延滞債務を解消することができました。」
各国は、債務管理の向上だけでなく、無駄な公共支出をなくし、サービス提供の効率化を図り、公的資源を最も生産的な使途に再配分する必要がある、とマルパス総裁は述べた。「世界的に金利が低い間に債務のリプロファイルをするため先を読んだ債務管理をすべきでもあります。債務契約の透明性を高め、説明責任を向上し、間違いなく総合的な情報に基づいた決定を下せるよう具体的な措置を講じなければなりません。低所得国は譲許的融資を優先し、次第に問題化している高金利での資金調達を避ける必要があります。国別にこのアジェンダに集中し、進捗状況を測定することが極めて重要です。」
デジタル革命の活用
デジタル・ソリューションを早期に導入すれば、金融アクセスを劇的に拡大し、新たな経済機会を創出することができる。マルパス総裁は、デジタル・ソリューションは製品市場での競争を促すほか、人々を国内・海外の市場に結び付けてオンラインでのサービス販売を可能にするとして次のように述べた。「この変革を支援するには、デジタル・インフラへの投資、電気通信セクターの独占解消、国民識別番号の発行、効果的な規制環境の構築など、大規模かつ数多くの行動が必要となります。」
「デジタル革命はまた、公共セクターを変えることができます。例えば、セーフティネット・システムの根本的な見直しを可能にします。これまでの現物支給や現金払いから、銀行口座への直接のデジタル決済や携帯電話での確認へと、世界中で移行が進んでいます。同様に、フォーマルとインフォーマルの両セクターにおいて、電話やQRコードなどのテクノロジーを用いた新たな決済システムが日々の買い物に利用されています。ケニアなど多くのアフリカ諸国はこの分野で既に豊富な経験を蓄積しています。」とマルパス総裁は述べた。
より環境に配慮したより持続可能な開発
国際社会は、大気中の炭素増加のペースを下げ、気候変動が最脆弱層に与える影響を緩和するため全力で取り組んでいる、とマルパス総裁は述べた。「鍵となるのは、石炭火力発電所の新設を停止し、既存施設を廃止し、よりクリーンなエネルギー源による発電に置き換えることです。各国が、影響を受ける労働者に適切に配慮するなどの『公正な移行』を支援すべきです。」
「また、これまで何度も行き詰ってきた電力セクターの改革を再び活性化するときでもあります。エネルギー補助金は多額に上る上、歪みがあり、廃止するには根底にある非効率性を解消しアクセスを拡大する形でなければなりません。クリーンで割安なエネルギーを目指すのであれば、発電と送電において競争が必要であり、本当の意味で独立した立場の行政機関が求められます。運輸もやはり温室効果ガス排出の大きな原因です。途上国ではさらなる都市化が予想される中、都市のインフラと設計次第でとてつもなく大きな違いを生むことが可能です。政府は、都市部を無秩序に広げ、何時間もかかる通勤を強いるのではなく、効率的でクリーンな公共交通システムを備えたよりコンパクトな都市を目指すことができるはずです。
気候変動対策では、緩和と適応、それにより広範な開発努力を含め、投入される金額につき最大のインパクトをもたらす取り組みの優先と集中が必要であり、効果を短期間に測定できるソリューションが求められます。
人への投資
マルパス総裁は、人々の長期的な健康と教育への投資、すなわち人的資本アジェンダの重要性を強調した。「教育システムと保健システムの強化は、効率的で重点分野を絞った形で資金を提供するだけでは実現しません。」例えば、官民を問わず教師や保健従事者へのインセンティブを、サービスを受ける側の人々のニーズに沿ったものとすることが重要です。さらに、保健医療の拡充と教育の質向上のために、遠隔学習など、測定可能なソリューションを見出すこともまた不可欠です。」
「人的資本の蓄積がどこよりも重要なのは、紛争の影響下にある国々であり、現在、貧困層の大半がそうした国に暮らしています。難民と受入れコミュニティーへの援助が特に重要課題です。治安は不可欠ですが、兵士を投入しても開発の戦いに勝つことはできません。変化はむしろ、長期間かけて数百万世帯が手にする小さな勝利から生まれることが多いのです。」
マルパス総裁は、世界銀行が担うことのできる役割についても言及した。「世界銀行グループは、ここまで述べてきた4つの優先課題に各国が取り組むのを、他に類をみない立場から支援することができます。すなわち、各国政府への資金とノウハウの提供と、民間セクターの動員を通じてです。我々には、各国と共に取組みを進め、すべての主要セクターに専門家を投入してきた比類ない経験があります。
開発の後退との戦い
「今回の未曽有の危機により、激動の時代の幕が切って落とされました。これから数年間に行われる数多くの選択によって、途上国が失われた10年に直面することになるのか、それとも高度成長と経済的変革を実現できるかが決まるでしょう。」とマルパス総裁は述べた。
「成功を収めるには、各国において官民両セクター、市民社会、財団の活発な参加、そしてまさに、国際社会全体による協力が必要になります。そのためには、指導者が人々の繁栄を意欲的に追求しなければなりません。そして、我々の開発の取組みを集中的かつ大規模に進めていくことが必要です。」