野心的な温室効果削減目標の達成に向けたクリーン・エネルギーへの移行には大量の鉱物が必要
2020年5月11日、ワシントン —世界銀行グループは、新しく発表した報告書「気候変動対策と鉱物:クリーン・エネルギーへの移行に鉱物が果たす役割」の中で、クリーン・エネルギー技術への需要拡大を受け、グラファイト、リチウム、コバルト等の鉱物の生産が2050年までに500%近く増加する可能性があると指摘している。地球の気温上昇を摂氏2度未満に抑えるために風力・太陽光・地熱発電の実現やエネルギー貯蔵が求められており、そのために30億トン以上の鉱物・金属が必要になるとみられるからだ。
同報告書はまた、クリーン・エネルギー技術のために鉱物需要が拡大するとは言え、採掘から最終消費まで鉱物生産の過程で生じる二酸化炭素排出量は化石燃料技術により生じる温室効果ガスのわずか6%に過ぎないとしている。同報告書は、高まる鉱物需要を満たすためには、鉱物のリサイクルや再利用が重要な役割を果たすと強調している。ただし、銅やアルミといった鉱物のリサイクル率を100%拡大したとしても、リサイクルや再利用だけで再生可能エネルギー技術とエネルギー貯蔵の需要を満たすことはできないと指摘している。
現在の世界の状況をみると、新型コロナウイルス感染症によって世界中の採掘産業に深刻な混乱が生じている。その上、鉱物に依存する途上国は極めて重要な歳入を失っており、経済活動の再開に当たっては、気候変動対応型の鉱業を徹底し、悪影響が生じた場合に緩和できるようにしていく必要がある。
「新型コロナウイルス感染症は、持続可能な鉱業にとってさらなるリスクをもたらしかねないため、政府や企業が気候変動対応型鉱業を追及することの重要性がかつてなく高まっている」と、リカルド・ブリーティ世界銀行エネルギー・採掘産業担当グローバル・ダイレクター兼アフリカ地域インフラ担当ダイレクターは述べる。「この新報告書は、世界銀行が長年にわたり手がけてきたクリーン・エネルギーへの移行における専門知識に基づいており、データに基づいたツールの提供を通じ、移行が将来の鉱物需要にいかに影響するかについて理解を助けるものだ。」
同報告書は、銅やモリブデン等、各種の技術に用いられる鉱物がある一方で、グラファイトやリチウム等、エネルギー貯蔵のためのバッテリーという単一技術にのみ必要なものもあると指摘している。そのため、クリーン・エネルギー技術の展開に何らかの変更があった場合、特定の鉱物への需要に大きな影響が及ぶ可能性がある。
同報告書は、クリーン・エネルギーへの移行が将来の鉱物需要にいかに影響するかについて、資源の豊富な途上国を中心とする各国政府、民間セクター、市民社会組織(CSOs)による理解を深めることを目的としている。世界銀行と国際金融公社(IFC)が合同で進める気候変動対応型の採掘イニシアティブの一環であり、世界銀行が2017年に発表した報告書「低炭素型の実現で高まる鉱物と金属の役割」に基づいている。
世界銀行グループの新型コロナウイルス対策
世界銀行グループは、途上国に開発のための資金や知識を提供する世界有数の組織で、途上国が今回の世界的流行への対応を強化できるよう、広範かつ迅速な措置を講じている。具体的には、疾病監視の強化、公衆衛生の拡充に加え、民間セクターが事業を継続し雇用を維持できるよう支援している。途上国が貧困・脆弱層を保護し、事業を支え、経済の回復を推進できるよう、今後15カ月間で、グラント(無償資金)および譲許的融資で構成される国際開発協会(IDA)からの新規資金500憶ドルを含む最大1,600億ドルの財政支援を投入する。