ワシントン、2020年1月14日 — 女性の経済参加のための規制環境は過去2年間に改善されており、世界人口の半数を占める女性が潜在能力を発揮し、経済の成長と発展に貢献できるようにするため、40カ国が62件の法改正を実施した-世界銀行は最新の報告書「女性・ビジネス・法律2020」でこのように発表した。とは言え、こうした成果にはばらつきがあり、女性に認められた法的権利は、男性と比べごく限られているために経済や社会の発展の足かせとなっている国は多い。
同報告書は、190カ国を対象として、ビジネスが盛んな主要都市を中心に、仕事上の様々な局面において法律がいかに女性に影響を及ぼすかを検証している。対象となったのは、女性の経済的エンパワーメントに関連する8分野で2017年6月から2019年9月に実施された法改正である。
「女性が法的権利を持つことは、あるべき姿であるというだけでなく、経済の視点からも有益である。女性が家庭の外で仕事をして、資産管理をする自由度が高ければ高いほど、仕事に就いてその国の経済力を高める可能性が高くなる。世界銀行は、全ての女性が生涯を通じ、法律上の障害に直面することなく成功を目指せるようになるまで支援する用意がある。」とデイビッド・マルパス世界銀行グループ総裁は述べた。
職場と結婚の2分野では、女性を暴力から守る法律の制定を中心に、数多くの法改正が見られた。過去2年間に、家庭内暴力に関する法律を初めて制定した国は8カ国に上る。また、7カ国において、職場でのセクシャル・ハラスメント禁止の新たな法律が制定された。
賃金の分野では、女性が働くことのできる産業、職種、時間帯についての制約を解除するなど、12カ国が法律を改正した。世界全体では、育児に関連する分野における法改正が最も多く、16カ国が前向きな変更を行った。具体的には、育児休暇期間中に女性に支払われる賃金の引上げ、男性対象の有給育児休暇の導入、妊娠中の従業員の解雇禁止等などがある。
法律面でジェンダーの平等を達成するには、強い政治的意思に加え、政府、市民社会、国際機関を中心とする協調した取組みが必要となる。ただし、女性の暮らしだけでなく家族やコミュニティの改善促進に重要な役割を果たし得るのは、法改正や規制改革である。
「今回の調査は、どういった法律が女性の経済参加を促進または阻止するかを理解する上で有用で、各国がジェンダー格差を解消し得る改正を実施しようというインセンティブとなっている。平等の達成には時間がかかるが、いずれの地域においても進歩が見られたことは心強い。この研究が今後も、政策立案者に有益な情報を提供し女性にも男性同様に活躍の場を開くための重要な役割を果たすことを期待している。」とペネロピ・クジアヌー・ゴールドバーグ世界銀行グループ・チーフ・エコノミストは述べた。
同報告書は、公式な法律や、労働や事業経営に関する女性の権利をめぐる規制のみを検証したもので、各国の実際の社会規範や慣行は対象としていない。世界全体の平均スコアは、2年前の73.9からわずかに改善し75.2となった。多くの国において、女性は、認められた法的権利が男性と比べごく限られているため雇用や起業の機会を逸している。こうした現状を踏まえ、さらに多くの取組みが必要であることは言うまでもない。
同報告書の指標で対象となったのは、可動性、職場、賃金、結婚、育児、起業、資産、年金の8つの分野で、いずれも女性がキャリア上で法律の制約を受ける分野となっている。
「育児」の分野は平均スコアがわずか53.9と低く、法改正が急務である。有給の育児休暇を導入している国の半分近くにおいて、負担は雇用主がまかなうことになるため、女性の採用は男性よりもコストが高くなる。それでも、有給の育児休暇を導入すれば、女性従業員の離職を防ぎ、離職コストの削減や生産性向上に役立つ可能性がある。同報告書によると、こうした長期的恩恵は、雇用主にとっての短期的コストを上回ることが多い。
最も大きく改善した上位10カ国の内、6カ国が中東・北アフリカ地域、3カ国がサブサハラ・アフリカ地域、1カ国が南アジア地域の国であった。中東・北アフリカ地域は大きな前進が見られたものの、改善の余地が依然として最も大きい。ベルギー、デンマーク、フランス、アイスランド、ラトビア、ルクセンブルグ、スウェーデンに、新たにカナダが加わった計8カ国が、最近実施した育児休暇をめぐる改革により今回100点満点のスコアを獲得した。
地域別概要
先進国:各種の指標で引き続き前進が見られる。スコアが90を上回る40カ国の内、27カ国がOECD加盟の高所得国である。チェコ共和国と米国は、父親を対象に含めた育児休暇に関連する法改正を行い、育児に関する責任分担の機会を拡大した。イタリアとスロベニアは年金給付の男女差を撤廃した。
東アジア・太平洋地域:4カ国が3つの分野で4件の法改正を実施した。タイは賃金の分野で、東ティモールは年金受取りの分野で、それぞれ法改正を行った。フィジーは、女性のための有給育児休暇の期間を延長し、父親にも初めて有給育児休暇を導入した。
ヨーロッパ・中央アジア地域:4カ国が5つの分野で5件の法改正を実施し、2カ国が機会削減につながる法律を変更した。アルメニアは、女性を家庭内暴力から守る法律を制定し、キプロスは 男性のための有給育児休暇を導入した。ジョージアは、セクシャル・ハラスメントの犠牲者が不当に解雇された場合に民事上の救済措置を講じる法律を成立させた。モルドバは、雇用上、女性に妊娠、授乳を禁じる制約や産後の女性に対する制約を一部撤廃した。
ラテンアメリカ・カリブ海地域:4カ国が4つの分野において4件の法改正を行った。 バルバドスは職場でのセクシャル・ハラスメントを禁じる法律を制定し、ペルーとパラグアイは、90点台の高いスコアを記録した。域内各国は、1980年代と1990年代に女性に課された制約の撤廃を大きく進めたが、改革のスピードは過去10年間で落ち込んでいる。
中東・北アフリカ地域:7カ国が7つの分野で20件の法改正を行った一方で、1カ国がマイナスに働く1件の法改正を行った。サウジアラビアが、本報告書の対象である8分野の内6分野(女性の可動性、セクシャル・ハラスメント、退職年齢、経済活動など)における法改正を実施し、世界最大の改善を記録した。アラブ首長国連邦も5つの分野で法改正を行い、この他にジブチ、バーレーン、ヨルダン、モロッコ、チュニジアが9件の法改正を行った。
南アジア地域:4カ国が4つの分野で7件の法改正を行った。ネパールが、雇用における差別を禁止する新たな労働法、男性の育児休暇、新たな年金規則を導入した。この他に3カ国が法改正を行った。内訳は、パキスタンとスリランカが育児Iの分野で前進し、インドではマハーラーシュトラ州が女性の雇用に関する制約を撤廃した。
サブサハラ・アフリカ地域: 11カ国が7つの分野で16件の法改正を実施した。コンゴ民主共和国が社会保険として出産給付を導入した他、退職年齢を統一した。コートジボワールでは、不動産の所有・管理に対する権利が夫婦間で平等とされた。マリは、雇用における差別禁止のための法改正を実施した。サントメ・プリンシペは、労働市場の需要を満たし、国際基準を順守するために新たな労働法案を可決した。南スーダンは独立後初の労働法案を可決した。
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