「ビジネス環境の現状2020」: 最も改善が見られた上位10カ国の内、4カ国は中東・北アフリカ諸国
ワシントンD.C.、2019年10月24日—世界銀行グループは、本日発表した報告書「ビジネス環境の現状2020(Doing Business 2020)」の中で、世界115カ国・地域の政府が、民間セクターのビジネス環境を改善し、雇用の創出や商業活動の拡大、所得向上への道筋をつけるため、この1年間に294件の改革を実施したとしている。
今回発表された「ビジネス環境の現状」最新版は、190カ国・地域を対象に、2019年5月1日までの12カ月間に、10のビジネス活動分野で実施された改革を記録している。良好なビジネス環境を持つ国・地域は貧困レベルが相対的に低い傾向があり、規制効率の改善は起業家精神を刺激し、事業設立やイノベーション、金融アクセス、投資を促進する可能性がある。「ビジネス環境の現状」は、世界銀行グループが中小企業のビジネス活動を拡大または制約している規制を評価するために毎年発表しているもので、今回が17回目となる。
「政府は事業の立ち上げ、雇用、拡大を支援するルールを策定することで、市場志向の開発と広範な成長を促進できる」と、デイビッド・マルパス世界銀行グループ総裁は述べた。 「起業家が直面している障壁を取り除けば、質の高い雇用が生まれ、税収も人々の所得も増える。これらは全て貧困の削減と生活水準の改善に必要なものだ」
「ビジネス環境の現状」は投資ガイドではなく、企業の設立・経営の容易度に関する指標を測定するものである点に留意する必要がある。
報告書によると、最もビジネス環境の改善が見られた上位10カ国・地域は、サウジアラビア、ヨルダン、トーゴ、バーレーン、タジキスタン、パキスタン、クウェート、中国、インド、ナイジェリアである。中国とトーゴは2年連続、インドは3年連続で上位10カ国・地域にランクインしているが、これはビジネス規制改革は複数年にわたるプロセスであることを示している。改革の実施件数では、最多はバーレーンで、測定対象となった10分野の内、9分野で改善が見られた。次点は中国とサウジアラビアで、それぞれ8件の改革を実施した。
企業の設立・経営を容易にするビジネス環境のランキングの上位10カ国・地域には、ニュージーランド、シンガポール、香港特別行政区、デンマーク、韓国、米国、ジョージア、英国、ノルウェー、スウェーデンが入った。多くの上位国・地域は、オンラインでの法人設立、電子納税申告プラットフォーム、資産譲渡のオンライン手続き等の仕組みを整備していた。
一方、26カ国・地域はビジネス活動に新たな障害をもたらす措置を講じた。こうした措置の多くはビジネス活動のコストを増加させた。
ビジネス環境の上位国・地域と下位国・地域とでは、起業家が直面する事情は実に異なる。例えば、下位50カ国・地域で事業の設立に要する時間は、上位20カ国・地域でかかる時間と比べると平均で6倍近く長い。資産譲渡に要する時間も、上位20カ国・地域では2週間未満であるのに対し、下位50カ国・地域では3カ月に及ぶ。下位50カ国・地域で電力接続に要する時間は、平均で上位20カ国・地域の2倍を超える。電力接続の料金も、1人当たり所得に対する割合で換算すると44倍高い。
報告書は、各国・地域のビジネス環境を10の分野(事業設立、建設許可、電力事情、不動産登記、金融アクセス、少数投資家保護、納税、貿易、契約執行、破綻処理)で評価している。この他、労働者雇用も対象となっているが、ランキングには含まれない。
この1年間に、最も多くの改革が実施された分野は事業設立、建設許可、電力事情、納税である。近年は建設許可と電力事情に関する改革が顕著に増加している。建設許可を簡素化した37カ国・地域の多くは、事前承認や視察に関する当局とのやり取りを合理化した。16カ国・地域は企業が効率的に送電網と接続できるように、電力設備の現代化に多額の投資を行った。その結果、停電時間の世界平均が2017年から2018年の間に8%以上短縮された。
「ビジネス環境の現状」の発表がスタートした2003年以降、モニタリング対象である190カ国・地域の内、186カ国・地域で3,500件を超えるビジネス改革が実施されている。
地域別概要
東アジア・太平洋地域:同地域では、ビジネス環境を改善するための改革が過去1年間に33件実施された。域内の多くの国・地域が取り組んだ中小企業の設立・経営の容易化は、世界基準に照らせば概ね良好に進んだが、改革のペースは全体として鈍化した。過去12カ月間に実施された改革の件数は、その前の12カ月間と比べて10件減少し、改革を実施した国・地域の数も半数以下となった(25カ国・地域の内、12カ国・地域)。しかし総合ランキングの上位25カ国・地域には、シンガポール(2位)、香港特別行政区(3位)、マレーシア(12位)、台湾(15位)、タイ(21位)の5カ国・地域がランクインした。中国は2年連続で最も改善が見られた上位10カ国・地域にランクインした。
ヨーロッパ・中央アジア地域:同地域はビジネス環境の改善に精力的に取り組んできたが、この1年間はその勢いをさらに加速させ、55件の改革を実施し、納税と契約執行の分野で世界をリードした。この地域からはジョージア(7位)と北マケドニア(17位)の2カ国が、総合ランキング上位20カ国にランクインした。 さらに、世界で最も改善が見られた上位10カ国・地域にはタジキスタンが、同上位20カ国・地域にはアゼルバイジャン、キルギス、コソボ、ウズベキスタンが入った。
ラテンアメリカ・カリブ海地域:カリブ海地域では、国内企業の設立・経営を容易にする改革が、この1年間に過去最高の19件実施されたが、世界基準に達するためにはまだ多くの改革がなされなければならない。この地域では、プエルトリコとジャマイカが最上位国であり、総合ランキングではそれぞれ65位、71位につけた。ラテンアメリカは依然として世界の他の地域に後れを取っているが、明るい材料もある。コロンビアは2005年以降、合計37件の改革を実施し、この地域の改革活動を先導している。メキシコは域内最高位を維持し、総合ランキングでは60位にランクインしているが、ビジネス環境の改善という点では2年連続で大きな改革は実施していない。
中東・北アフリカ地域:経済の多様化を急務とする湾岸諸国では、改革の実施件数が着実に増えている。同地域では、国内企業の設立・経営を容易にするため、前回の43件を上回る過去最多の57件のビジネス規制改革が実施された。最も改善が見られた国・地域の総合ランキングには、同地域からサウジアラビア、ヨルダン、バーレーン、クウェートの4カ国がランクインした。この4カ国で、この地域の改革のほぼ半数を占める。サウジアラビアは、事業登記を一カ所で済ませられる仕組みの構築、担保付き取引に関する法律及び破産法の制定、少数投資家保護の改善、女性の経済的エンパワーメント等の改革を実施した。この地域では引き続き、アラブ首長国連邦が最も高い改革成果を上げており、企業の設立・経営を容易にするビジネス環境のランキングでは16位にランクインした。
南アジア地域:多くの南アジア諸国はビジネス規制改革を着実に推進している。最も改善が見られた上位10カ国・地域にはインドとパキスタンがランクインし、企業の設立・経営を容易にするビジネス環境の総合ランキングにおける順位を上げた。この地域では、国内企業のビジネス環境を改善するために17件の改革が実施された。インドは引き続き、この地域の最上位国となっており、4件の改革を実施した結果、企業の設立・経営を容易にするビジネス環境の総合ランキングでは63位につけた。パキスタンでは電力接続に要する時間が49日間短縮された。
サブサハラ・アフリカ地域:同地域ではビジネス環境の改善が進んでいるがペースは鈍化しており、改革の効果と実施の面では世界の他の地域に後れを取っている。同地域では73件の改革が実施されたが、過去最多となった前回の108件には届かず、少なくとも1件の改革を実施した国の数も40から31に減少した。多くの国・地域が改革に継続的に取り組んでいるが、ビジネス環境を改善し、確実に成果を上げるためには、さらなる取組みが求められる。企業の設立・経営を容易にするビジネス環境のランキング上位50カ国・地域にランクインしたサブサハラ・アフリカ地域の国はわずか2カ国であったが、下位20カ国・地域のほとんどはサブサハラ・アフリカ諸国が占めている。
報告書全文のダウンロードはこちら:https://www.doingbusiness.org/
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