2018年10月4日、マニラ - 世界銀行は、「東アジア・太平洋地域 半期経済報告書」最新版の中で、取り巻く環境が良好とは言えない中でも、東アジア・太平洋地域(EAP)の途上国の成長見通しは依然として明るいとしている。ただし、域内途上国の成長率は、中国の成長率が経済のリバランス継続に伴い減速を続けるため、2018年は2017年を下回る6.3%になると見られる。
本日発表された同報告書の2018年10月版「不確実性を乗り切るために」は、この数カ月間、貿易摩擦、米国の利上げ、ドル高、多くの新興国に見られる金融市場の変動などが重なり、同地域の成長見通しをめぐる不確実性が増したと指摘している。さらに、ミャンマー、フィリピン、ベトナムを中心に域内のインフレ率が上昇し始めている。
「力強い成長は、引き続き域内の貧困を削減し脆弱性を抑える鍵であり続けるだろう。保護主義や金融市場の混乱により中期的な成長見通しが覆れば、最も貧しく脆弱な人々が一番の影響を被ることになる。今こそ域内各国の政策担当者が緊張感をもって、自国の備えと強靭性を積極的に拡大することが求められる。」と、世界銀行のビクトリア・クワクワ副総裁(東アジア・太平洋地域総局)は述べた。
中国は2017年に予想を上回る成長を記録したが、2018年はやや減速して6.5%となると見られる。中国を除く域内途上国の成長率は、国内需要に支えられ、2018~20年は5.3%の安定したペースが続くだろう。タイとベトナムの成長は、2018年は堅調だが、2019~20年は、強い国内需要も純輸出減を完全には相殺しきれない事から停滞する見通しである。インドネシアは、投資と個人消費の見通しの改善が後押しし、安定成長が見込まれる。フィリピンは、2018年は成長が停滞する見通しだが、公共投資の拡大が見込まれており中期的には成長率を高めるだろう。マレーシアは、輸出の伸び悩みと並んで、大規模なインフラ・プロジェクト2件の中止による公共投資の減少により、成長は鈍化すると見られる。
域内の小規模経済国の成長見通しは引き続き堅調で、2018~20年には、カンボジア、ラオス人民民主共和国、モンゴル、ミャンマーでは年平均6%以上になると予測される。東ティモールは、政治の行き詰まり解消に伴い経済成長の回復が見込まれる。今年に入り大地震に見舞われたパプアニューギニアも、2019年には回復すると見られる。太平洋島嶼国は、自然災害から大きな影響を受けやすいとは言え、比較的安定した成長が続く見込みである。
「東アジア・太平洋地域の多くの国にとって、域内及び世界との統合は、外的ショックの影響をこれまで以上に被りやすくなることを意味する。力強い成長の継続を脅かす主なリスクとしては、保護主義の台頭、金融市場の一層の混乱、そして国内の財政・金融面の脆弱性とこれらの要因との相互の影響が挙げられる。高まるリスクの中、域内途上国は、外的ショックを緩和し、潜在成長率を高めるため、利用可能なマクロ経済政策、プルーデンス政策、構造政策を総動員する必要がある。」と、世界銀行のスディール・シェッティ東アジア・太平洋地域総局チーフ・エコノミストは述べた。
本報告書は、東アジアの途上国がこうした新たなリスクに対処するために、以下の4つのアプローチを提案している。
- 短期的な脆弱性の軽減と、政策バッファーの構築。マクロ・プルーデンス政策を積極的に追求することで、金融セクターの脆弱性への対処、資本市場の変動性の軽減、為替レート変動に対するリスク管理が促進される。為替レートの柔軟性が高まれば、外的ショックの吸収・適応が可能となる。一層の財政緊縮政策を進めれば、債務の持続可能性を脅かすことなく、今後の景気低迷に対処するためのバッファーの維持・再構築が可能となる。
- 更なる地域経済統合などを通じた、オープンでルールに基づいた国際貿易・投資システムに対するコミットメントの強化。既存の特恵貿易協定の強化と、非関税障壁の引き下げは、地域経済に貢献する。二国間交渉の活用や世界貿易機関(WHO)への提訴により、貿易摩擦のさらなる加速を回避できる。
- 主要セクターの自由化、ビジネス環境の改善、競争力の強化などの構造改革の促進。中小企業と大企業、また外国企業と国内企業に公平な競争の場を整備すれば、資源の不適切な配分を防ぎ雇用の創出が見込める。
- 経済の安全保障強化と、経済の流動性促進。具体的には、的を絞った現金給付、財政的に持続可能な社会保障制度、胎児の発育環境改善や早期幼児開発のためのサービスへのアクセス向上、さらに教育の機会と質の格差縮小を目的とした辺鄙な地域の学校への資源配分などを実施。
同報告書は、太平洋島嶼国について、自然災害に対する強靭性構築を継続しつつ、財政および債務持続可能性の維持に注力する必要性を強調している。債務政策・債務管理の強化、より効果的な天然資源管理、支出の質向上に向けた各種の取り組みが、債務持続可能性の回復に不可欠となる。今後、自然災害の影響を最小限に抑えるためには、財政バッファーの構築、危機に対する備え、リスクの管理・緩和策の改善、そして的を絞った社会的保護システムの拡大が求められる。
詳細はウェブサイトをご覧ください:
www.worldbank.org/eap
本報告書は、2018年10月12~14日にバリにて開催される2018年国際通貨基金・世界銀行グループ年次総会に伴う各種対外発表の一つである。