東京、2017年12月13日—世界銀行と世界保健機関(WHO)が新たに発表した報告書によると、基礎的保健サービスを受けられずにいる人の数は世界人口の半数にのぼる。また、毎年多くの世帯が、医療費の自己負担が原因で貧困に陥っている。
現在、自らや病気の子供、家族のための医療費が家計の少なくとも10%を占める人口は、8億人に上る。また、そうした支出のために、1億人近くが1日わずか1.90ドル未満での生活を余儀なくされるという極度の貧困状態に追いやられている。こうしたデータは、本日発表された「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に焦点を当てる:グローバル・モニタリング報告書」によるもので、同時に医学誌のランセット・グローバル・ヘルスでも発表されている。
「世界の人口の半数が未だに基礎的な保健医療サービスさえ受けられないという事実は到底容認しがたい。こうした事態は避けられる。解決策は既に存在する。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)だ。UHCを実現すれば、全ての人が必要な時に必要な場所で、必要とする基礎的な保健サービスを経済的な困難に苦しめられる事なく確保できるようになる。」と、WHO事務局長であるテドロス・アダノム・ゲブレイエスス博士は述べた。
「同報告書は、健康状態の改善だけでなく貧困撲滅にも真剣に取り組むのであれば、UHC達成のための努力を直ちに加速しなければならないと訴えている。」とジム・ヨン・キム世界銀行グループ総裁は述べた。「保健医療への投資、そしてより広範な人々への投資は、人的資本構築に不可欠であり、持続可能で包摂的な経済成長を可能にする。ところが現在、そのシステムが崩壊している。保健医療及び人的資本のための財源を、特に国レベルで動員する方法への抜本的転換が求められている。そこで、各国による人への投資の効果拡大と、UHC実現に向けた進捗の加速のため、幅広い分野で取組を進めている。」
希望の持てるデータもある。同報告書は、21世紀に入り、予防接種や家族計画などの主要な保健サービスを受けられる人の数や、HIVの抗レトロウィルス治療、マラリア対策としての殺虫剤処理済みの蚊帳を利用できる人の数が増えたとしている。さらに、21世紀初頭と比べ、極度の貧困に陥る人の数も減少している。
とは言え、進捗状況には大きなばらつきが見られる。
サブサハラ・アフリカと南アジアでは、サービスの提供状況に大きな格差が存在する。その他の地域では、家族計画や乳幼児の予防接種など基礎的な保健医療サービスが受けやすくなってきているが、経済的な補助が受けられない事により、そうしたサービスにかかる費用を自己負担しなければならない家庭にとっては負担が膨らむことになる。この点は、東アジア、ラテンアメリカ、ヨーロッパなどの、より所得レベルの高い地域でも顕著な問題となっており、医療費の自己負担額が家計の10%以上を占める人口が増えている。保健サービスの状況は、国による差異だけでなく、同じ国の中でも違いがある。その国の平均を見るだけでは、保健サービスが不利な立場にある人々にまで届いているかどうかは分かりにくい。例えば、低所得国や低位中所得国の所得の下位20%では、基礎的な母子保健サービス7種の内6種以上を受けた母子の割合はわずか17%にとどまっているが、この割合は所得の上位20%では74%に上る。
同報告書は、東京で開催されている国際会議「UHCフォーラム2017」において議論の重要なポイントとなっている。日本国内、さらにはグローバルなUHC実現を率先して支援してきた日本政府が呼びかけて開かれた同フォーラムは、世界銀行、WHO、国連児童基金(UNICEF)、国際協力機構(JICA)、ならびにUHCをグローバルに推奨するUHC2030が共催している。日本の安倍晋三内閣総理大臣、国連のアントニオ・グテーレス事務総長、世界銀行グループのキム総裁、WHOのテドロス事務局長、UNICEFのアンソニー・レーク事務局長の他、30カ国以上の国家元首や閣僚が参加する。
「誰もが医療により家計が破綻することがないような医療財政をデザインすること、また、どこに住んでいても必要な保健サービスが受けられるように施設等の整備とともに医師等の人材を養成することが、Health for Allを目指す上で極めて重要であることはこれまでの世界の教訓と言える。」と、日本の加藤勝信厚生労働大臣は述べた。「政府をあげる形で一定の投資を早期に行いUHCを達成したことが、その後の経済成長につながったと確信している。」
UHCフォーラム2017は、UHC推進に係る国際的な機運の高まりを象徴する12月12日の「UHCデー」に始まった、100カ国以上が参加するイベントの集大成である。グローバル及び国レベルでUHCに対するハイレベルな強い政治的コミットメントを表明し、UHCの先駆者となってきた国々の経験にスポットライトを当て、いかにして保健システムを強化し効果的にUHCを推進するかについての知識を深める場となる。UHCフォーラムに先駆け国連総会は、12月12日を、誰一人取り残さない強靭な保健システムへの意識を高めるための日として正式にユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)デーと定めた。
明日14日には、ハイレベル・セッションの他、世界各国から保健システム強化の原動力となるイノベーションを集めた「イノベーション・ショーケース」が開催される。さらに夕刻には、華やかな催しとなるパブリック・イベントが予定されている。そして閉会式では、「UHC東京宣言」と題した行動計画が発表される。
「子供たちが自分の可能性を十分発揮して成長するために、保健医療はなくてはならないものだ。また、健康で生産的な国民無しに、社会が希望を実現する事などできるだろうか。」と、UNICEFのアンソニー・レーク事務局長は述べている。「UHCを実現すれば、子供たちが平等な機会の中で成長するための一助となり、ひいては、将来彼らが貧困と不健康の世代間連鎖を断ち切るために役立つはずだ。」
UHCの必要性を強調した2016年のG7伊勢志摩サミット、第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)を踏まえ、今回東京で開催されるUHCフォーラムは、2030年までにUHCを達成するという、持続可能な開発目標(SDGs)の要でもある目標に向け進捗を加速する一つの節目と位置付けられており、この機運は2019年に開催される国連総会UHCハイレベル会合に受け継がれる。