2016年9月29日、ワシントン— サブサハラ・アフリカの経済成長率は、2015年に3%まで減速したが、2016年は更に落ち込み、20数年ぶりの低水準となる1.6%となる見通しである。域内全体の大幅な成長減速の背景には、域内の経済大国や一次産品輸出国の厳しい経済状況がある。こうした国々の多くは依然として、一次産品価格の低迷、財政の逼迫、国内の政情不安といった逆風に直面している。ただ、経済活動は石油輸出国全般にわたり著しく低調ではあるものの、域内諸国の約4分の1が経済成長率回復に向け確かな兆候を見せつつある。
半期に一度アフリカ経済の動向と分析を行う世界銀行の報告「アフリカの鼓動」は、こうした最新データを紹介している。国によってそれぞれに成長率が異なるため成長の様相は均一ではない。多くの国で経済成長率が大幅に鈍化している一方で、エチオピア、ルワンダ、タンザニアなど年率平均6%以上の成長を記録し続ける国もある。中でも、コートジボワールやセネガルなどが活況である。
「厳しい状況下でも成長を続ける国々の特徴は、強靭なマクロ経済政策の枠組み、健全なビジネス規制環境、多角的な輸出構造、効率的な組織・制度を備えている事だと我々は見ている。」と、アルバート・ズーファック世界銀行アフリカ地域総局チーフ・エコノミストは指摘する。
一次産品価格は最近になって好転してきたとは言え、グローバル経済の回復の遅れから、最高水準だった2011~14年を大きく下回る状態が続くと見られる。資金ニーズの高まりを受け、一次産品輸出国は調整に乗り出し始めているが、対策にはばらつきがあり十分とは言えない。こうした中、サブサハラ・アフリカの実質GDP成長率はやや上向き、2017年に2.9%、2018年にはさらに上昇して3.6%になる見込みである。
「アフリカの鼓動」は、2017年も引き続き、域内の経済状況には国によるばらつきが見られると分析している。域内の経済大国や一次産品輸出国のGDP成長率は、一次産品価格の落ち着きが続く中、小幅な伸びを示すと見られ、またそれ以外の国々の経済活動も、インフラ投資にも支えられ大幅な拡大を続ける見込みである。
厳しい外的環境が続く中、いくつかの国では、財政・経常赤字を抑制し政策バッファーを取り戻すためには、より踏み込んだ調整が必要となるだろう。加えて同報告は、各国が、マクロ経済政策の調整と平行して、中期的な成長の可能性を高めるため構造改革を加速させる必要があると指摘している。
貧困削減のための農業生産性拡大
原油など一次産品価格の下落は資源国に打撃を与えており、農業を含め域内経済の多様化の差し迫った必要性が浮き彫りになっている。アフリカでは、農業生産性の拡大が他の地域に後れを取ってきた。他の地域は、種子や肥料などの有効活用と、生産技術の向上により生産高拡大を実現したが、アフリカ地域での生産高拡大は主に耕作地拡大によるものである。
アフリカでは、農業に対する公共支出もまた、他の途上地域の水準に追い付いていない。その一方で農業は地域全体のGDPの3分の1を占めており、労働者の3人に2人は農業セクターに従事している。特に農業への依存度が高いのは最貧国である。農村経済の成長促進、貧困削減の加速、包摂的成長の推進には、投資と賢明な政策の選択が必要となる。農業の生産性拡大は、所得拡大を実現し、より多くの人の農業以外のセクターへの転換を可能にする事から、構造転換の推進と都市への流出の鍵を握っている。
「自作農の生産性向上は、サブサハラ・アフリカにおける農村部の所得引き上げと貧困削減に不可欠だ。ただし、生産性向上の実現には、農村インフラ、農業研究、高度なテクノロジーの導入など農村部の公共財への投資と共に、正確なデータとエビデンスへの投資が必要となる。」と、同報告書を執筆したプナム・チュハン・ポール世界銀行アフリカ地域総局リード・エコノミストは述べた。
アフリカ地域の市場は急速に拡大し、2030年までには1兆ドル規模に達すると見られる。農業生産高と生産性の拡大に秘められた潜在性は極めて大きい。同報告は、サブサハラ・アフリカ諸国では高いリターンの見込める投資が農業分野で十分に行われていない事から、現行の公共支出の効率性を高めつつリバランスを行うことで大きな恩恵を享受できる可能性があると結論付けている。
今後に向けて
サブサハラ・アフリカ諸国は今後、低迷する一次産品価格への対応、経済の脆弱性の解消、持続可能かつ包摂的な成長源の新規開拓のために、直ちに対策をとる必要があると同報告は提言している。農業の生産性を拡大すれば、各国は農家の所得を高めるだけでなく、食費を引き下げ、農産業の発展を促進する事ができるだろう。