プレスリリース

欧州・中央アジア経済報告書「一次産品価格の下落と通貨安」

2015年10月26日


 

域内西部に緩やかな回復が見られるも東部は急失速

世界銀行半期経済報告書

アスタナ、2015年10月26日―世界経済の情勢が不確実な中、ヨーロッパ・中央アジア地域(ECA)のGDP成長率は、2015年は1.4%、2016年は1.8%に伸びると予測されている。ただし、国別の予想には大きなばらつきがあり、域内西部の国々では2016年も引き続き、危ういながらも景気回復が見込まれるのに対し、東部諸国は国内所得の低下がさらに進むであろう。

同地域の経済見通し「一次産品価格の下落と通貨安」が本日カザフスタンのアスタナで発表されるに当たり、シリル・ミュラー世界銀行ヨーロッパ・中央アジア地域総局副総裁は、「同地域は、未だ世界的金融危機の後遺症から完全には回復しておらず、一部の国は現在も強い向かい風を受けている。」と述べた。

「域内東部が原油をはじめとする一次産品価格の下落によって大きな打撃を受けている上、地政学的リスクと新興市場における金融市場のボラティリティ増大が、域内全ての国の成長の可能性に水を差している。域内東部諸国が経済の強靭性を高め、力強い成長の基盤を作るためには、柔軟な為替レートと活発なビジネス環境を通じて、原油安という『新しい常態(ニューノーマル)』に適応することが極めて重要になる。」と、同副総裁は続けた。

年次GDP成長率(%)

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欧州連合と西バルカン諸国の脆弱な景気回復

欧州連合(EU)と西バルカン諸国の成長は緩やかに加速しつつあり、2014年の1.5%から2015年は1.9%に上昇している。南ヨーロッパは依然として穏やかな成長ではあるものの、昨年の0.4%から今年は1.3%へと大きく上昇すると見られる。

しかし、最も大幅な成長率を示しているのは中央ヨーロッパで、2015年は3.3%となる見込みである。ベースライン予測によれば、今年の成長が2016年にかけて加速していくと見られるが、今後のこの地域の見通しは極めて不確実である。

「欧州連合の景気回復は依然として脆弱である。持続的回復には投資の回復が不可欠だが、投資は依然2007年の水準を12%下回っている。回復を遅らせているのは、欧州における銀行部門への大きな依存と過剰債務問題の解決の遅れである。世界的な金融市場のボラティリティ増大や長引く地政学的リスクが、必要とされる投資の回復を一段と不確実にしている。」と、ハンス・ティマー世界銀行ヨーロッパ・中央アジア地域総局チーフ・エコノミストは報告書の発表に際し述べた。

「銀行融資の代替資金源となるべき資本市場の規模が比較的小さいこともまた、回復にブレーキをかけている。実施までの道のりは依然長いものの、「資本市場同盟」構築に向けた動きが、域内全体で共通ルールを導入することにより民間の資金源を掘り起こし、投資家が民間投資を進める際にリスクをより正確に評価するのに役立つだろう。」と、同チーフ・エコノミストは加えた。

欧州連合への投資、なおも危機以前のレベルに回復せず

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石油依存度の高い国々の国内所得が急落

域内東部諸国は、過去12カ月間に大幅な市場縮小を経験し、2015年にはGDP成長率が0.9%低下すると予測されるが、その後、各国が徐々に原油安に適応していくにつれ、2016年には1.5%と緩やかな回復が見込まれている。落ち込みが最も著しいのはロシアで、現在の原油市場低迷により、2015年はマイナス3.8%、2016年はマイナス0.6%になると予測される。

南コーカサス、その他の東ヨーロッパ諸国(ベラルーシ、モルドバ、ウクライナ)および中央アジアは、ロシアの景気低迷と原油安により、国外からの送金の減少や貿易の低迷を通じて、直接的、間接的に大きな打撃を受けている。南コーカサスと中央アジアの2015年の成長率は、2014年の半分程度になると見られ、その他の東ヨーロッパ諸国はさらなる景気後退に陥ると予測される。

トルコの成長率は、2014年の2.9%から2015年には3.2%へと緩やかに上昇すると予測される。ECA域内の市場が一次産品価格の下落に適応し、EUや米国を中心とする先進国経済が拡大し続けていることを受けて、東ヨーロッパ、中央アジア、トルコはいずれも、緩やかとはいえ、2016年にはこれまで以上に高い成長が見込まれるのに対し、ロシア経済は引き続き縮小が予測される。ただし、縮小のペースは緩やかになるだろう。

直接的、間接的に原油安から悪影響を受けている東ヨーロッパおよび中央アジアの国々に関しては、GDPが国民の購買力の大幅低下の実態を必ずしも十分に反映しているとは言えない。例えばある国の実質国内所得には、実質GDP、海外からの送金のほか、貿易価格変動による利益と損失が含まれる。従って原油安とルーブル安は、GDPに映し出されている以上の深刻な影響を購買力に与えていると言える。

GDPには映し出されない交易条件による損失の規模

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域内東部諸国の多くの世帯で購買力が低下しているため、貧困率はいくつかの国で上昇すると見られる。これは、域内全体でこれまで見られた貧困率低下の傾向に逆行するものである。

石油輸出国、及び国外からの送金に依存する国の貧困世帯は、通貨安による輸入価格上昇、建設部門など非貿易財部門における雇用消失、厳しい財政状況から、打撃を受けている。ここから浮かび上がるのは、経済の新たな現実に早急に適応する必要性である。各国が貿易部門で新たな機会をつかみさえすれば、貧困率の悪化を食い止めることが可能となるだろう。

為替相場の調整は、国内のインフレ抑制のための慎重な金融政策と共に、域内東部の国々がグローバル市場で競争力を取り戻すのに役立つだろう。さらに、長期的改革のペースが減速しており、東ヨーロッパ、中央アジア、南コーカサスは、競争政策、小規模民営化、貿易体制と外国為替体制、価格自由化などに、依然大きく後れを取っている。

改革を再活性化することが、経済の強靭性を高め、ECA地域を再び堅固な成長軌道に乗せるために必要なステップとなる。世界銀行は、貧困を撲滅し繁栄の共有を促進するため、政策対話、研究活動、プロジェクト資金提供、有料の4助言サービスを通じて、域内の援助受入国がこれらをはじめ各種の課題に取り組めるよう支援している。



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参考資料


プレスリリース番号:
2016/132/ECA

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