世界銀行の新報告書が高齢化の課題と機会の両面を検証
ウィーン、2015年6月17日 – ヨーロッパ・中央アジア地域では広く社会の高齢化が進んでいるが、個人のレベルで見ると、寿命が伸びているというよりも、出生率の低下が、この人口動態上の傾向の大きな要因となっている、と世界銀行グループの新報告書「ヨーロッパ・中央アジアの高齢化:健康で活発かつ裕福な黄金の老齢期」は指摘している。
本日オーストリア財務省にて発表された同報告書は、高齢化が社会・経済に与える影響は複雑で多岐にわたるが、必ずしもマイナスの影響ばかりではないとしている。多種多様な政策分野における膨大な機会 を挙げ、そうした機会を100%生かせれば、より活発で健康かつ生産性の高い高齢社会の実現に役立つからだ。
人口動態上、ヨーロッパ・中央アジア地域は世界で最も高齢化が進んでいる。中欧と東欧の平均年齢は、世界の他の地域と比べ10歳も上であり、平均年齢が比較的若いトルコや中央アジア諸国でも急速な高齢化が進みつつある。
域内の多くの国で、人々はこの人口動態上の変化に適応しつつあるが、懸念や今後への不安も生じている。一般的には、年金と保健医療制度が財政的に逼迫するとされているが、これは、こうした社会保障制度の保険料を負担する労働者が減る一方で、社会保障に依存する高齢者の数が増えるためである。だが、同報告書は、政府の政策で、より多くの人がより長期間にわたって労働市場に参加できるようになれば、実際に依存率の急上昇を防ぎ得るとしている。
「高齢化は経済の衰退を招く傾向がある、と長く信じられてきた。だが、若者の数が減れば、質の高い教育やより多くの資本を確保できる機会が生まれ、最終的には繁栄を促進する事になる。」と、ハンス・ティマー世界銀行ヨーロッパ・中央アジア地域総局チーフ・エコノミストは述べた。
また、スキルは年齢と共に変化するが、生産性は必ずしも年齢と共に低下するわけではない。同報告書は、企業はこうした変化を上手くとらえ、年齢に応じたスキルを活用する生産技術を推奨している。
高齢化社会が景気低迷や生活水準の低下を招くとは限らない。だが、依存を減らし生産性を維持するのに役立つ行動面の変化が、必ずしも自動的に起こるわけではない。適切なインセンティブや政策などを通じて支援を惜しまない環境を整える事で、高齢化社会への移行を円滑に進める事が可能になる。
実際にヨーロッパ・中央アジア地域では、より活発で健康かつ生産性の高い高齢社会の実現に向け、数多くの政策分野において、適応のための大胆な施策が求められている。具体的には、相続制度や年金制度の改革をはるかに超えて、保健医療制度の介護予防 、プライマリ・ケア、診断手段の拡充、労働市場における高齢者の増加に伴い生産的雇用に求められる認知技能向上のための教育制度改革、女性が家庭とキャリアを両立でき、高齢者には柔軟な労働時間を認める労働市場制度の改革等を進めるとよいだろう。
「本報告書は、ヨーロッパ・中央アジア地域が高齢化に伴い直面する様々な課題を見事にまとめている。こうした課題は決して新たに浮上したわけではない。しかし、ヨーロッパ各国の政策担当者たちは、現在そして将来にわたり、国民が上手に歳をとるためにはどのような政策を組み合わせれば良いかを決めあぐねている。経済専門家と政策担当者が議論を重ねているが、本報告書の分析結果は双方に大きく貢献するだろう。」と、オーストリアのハンス・ヨルグ・シェリング財務大臣は述べている。
高齢化のための効果的な政策パッケージには、持続可能で公平である事に加え、教育、家族、仕事、退職後などライフサイクル全般を網羅する事が求められている。この条件を満たす事が出来れば、ヨーロッパ・中央アジア地域は、古代神話で言うところの「黄金時代」、すなわち調和、安定、繁栄の中で人々が健康で長生きできる社会へと近づく事が出来る、と同報告書は結論付けている。
報告書と関連情報は、以下のウェブサイトでご覧いただけます。
www.worldbank.org/en/region/eca/publication/golden-aging