市場を基盤とした土地、人、資本の配分を-新報告書
北京、2014年3月25日 – 本日発表された新報告書は、急速に広がる中国の都市化を抑制するためには、土地の取得制度改革、出稼ぎ労働者のための都市部住居の整備及び基本的公共サービスへの公平なアクセス確保、地方財政改革(安定財源の確保、地方政府による中央政府の規制範囲内での直接借入の承認)が必要だとしている。
中国では都市部への人口集中が進んでおり、現在の都市居住者は10年前と比べ2億人も増えている。このため、中国政府は環境関連の法律の施行を徹底し、公害が及ぼす健康問題を抑制する必要がある、と世界銀行と 中国国務院発展研究センターによる共同報告書は指摘する。
14か月を経てこのほど完成した同報告書は、作成過程でその暫定版が、都市化に関する政府の政策議論の材料として中国の政策担当者幹部と定期的に共有され、中国都市化の新モデル策定の重要な根拠となった。
「本報告書が提唱する一連の改革により、農家は土地売却により収入を増やし、移民対象の行政サービスが増え、地方政府による融資が促進されるだろう。また、環境に配慮した都市計画が策定され、大気汚染を減らすためのより厳格な環境管理が進む。中国は既に地方レベルでの試験的施策で大きな進歩を見せており、今後そうした施策を全国規模に拡大することができる。」とジム・ヨン・キム世界銀行グループ総裁は述べた。
「都市化は、中国が持続的に健全な経済成長を進める上で強力な原動力になる。」と中国の楼継偉財政部長は述べた。 「都市化に当たっては、国民をまず一番に考えるべきだ。また、制度や組織の革新を伴い、改革を通じて発展の潜在性を開花させることが必要だ。財政・税制と共に投融資メカニズムの改革を加速させ、官民パートナーシップ(PPP)モデルの活用を促進して、多様で持続可能な都市の財務メカニズム構築を目指すべきだ。人中心の都市化を達成するためには、農村からの出稼ぎ労働者が基本的な公共サービスを享受できるよう段階的に対処し、また彼らが利用できる送金システムを整えなければならない。」
中国では、記録的経済成長によりこの30年間で5億人が貧困から抜け出したが、これは急速な都市化がもたらした豊富な労働力、割安な土地、インフラ整備に因るところが大きい。他方、都市化につきもののマイナス要素は、一部こそ回避できたものの、非効率な土地開発による無秩序な都市膨張やゴーストタウン化、大気汚染による人々の健康被害、農地や水資源の枯渇など、負の兆候も現れている。2030年までに中国の都市人口は約10億人(人口の70%近く)に増えるとみられ、中国政府は都市化プロセスのさらなる道筋を模索している。
「中国は、極度の貧困の撲滅では、世界のどの国よりも大きな飛躍を遂げた。今後、数億人に上る都市部への移住者の生活を改善することで、更なる進歩の可能性がある。」とスリ・ムリヤニ・インドラワティ世界銀行専務理事兼最高業務責任者は述べた。「中国が今後も強い決意で必要な改革の実行に臨めば、世界的な都市化のモデルとなるだろう。そのためには、公害や景気過熱の抑制、都市の活性化に加え、開発の恩恵をより多くの人に行き渡らせることが求められる。」
「中国が、目標とする高所得国への仲間入りを果たすためには、都市化の管理は不可欠だ。」と中国発展研究センターの李伟センター長は述べた。「都市化を効果的に管理することは、都市の潜在性を解き放ち、効率性を高め、技術革新を促す基盤を作る。鍵は、地方都市レベルで、ガバナンスを確保しつつ都市の環境保護強化と公害抑制の課題に対応することだ。弱者に配慮した、効率的かつ持続可能な都市化のための制度面の仕組みを作ることが肝要だ。」
本報告書は、都市化の新たなモデルのための6つの優先課題を挙げている。
1. 土地管理と制度改革:近年行われている都市化の多くは、かつて農地だった土地で起こっている。そのため農地として使える土地の面積が減少し、食糧安全保障に「必要最低限」である1億2000万ヘクタールに近づいてきている。
さらなる土地の有効活用には、農民の所有権拡大、土地取得の際のより手厚い補償、農村部の建設用地を都市部で転用する新たな仕組み、そして市場原理に基づいた都市部土地価格の設定と配分が求められる。また、地方政府が公共目的に土地を収用する際の法的制限の設定も必要だ。本報告書はまた、市場原理に基づいた工業用地の価格設定、工業地帯の商用・住居用への用途変更も提言している。サービス業の発展が促進されれば、小規模都市の経済基盤が強化され、住宅コストの低下につながるからだ。
2. 戸籍制度(戸口)改革による全住民を対象とした行政サービスへのアクセスと、より移動可能で多才な労働力の育成:戸口制度を改革し、全ての住民に基本的公共サービスを提供できる住民登録システムを確立する必要がある。現行の制度は、農村から都市部へ、都市から都市へと労働力の移動を阻む障壁となっているが、この点を改善して流動性を確保し、労働賃金の上昇を促進すべきである。
3. 都市財政の持続可能性を確保し、地方政府の財政規律を確立:本報告書は、地方政府の歳出を、出来るだけ歳入(固定資産税や、都市サービスの料金引き上げなど)で賄えるような収益管理システムへの移行を提言している。また、地方政府が、中央政府の規定範囲内で、直接資金の借入を認められるべきだと指摘している。
4. 都市計画・設計の改革:都市部工業用地の価格を市場原理に基づいて設定すれば、土地集約産業が、小規模都市や地方都市へと移転するだろう。また、区画を小さくし、複数の用途での利用を認めるなど都市区画規制を柔軟化すれば、多様性を持ったより効率的な都市開発が可能となる。そうなれば、既存の都市部の土地をより有効に活用できる。さらに運輸インフラで都心へのアクセスを改善し、都市間の調整を促進すれば、渋滞や大気汚染を効果的に抑制できるだろう。
5. 環境面への負荷の管理:中国には既に環境分野の厳格な法律、規制、標準があるが、より環境に配慮した都市化には、その施行が重要となる。炭素、大気・水質汚染、エネルギーなどを対象とした税制や取引制度など市場ベースのツールを、より積極的に活用することも考慮すべきだろう。中国は、制度改革を通じた「環境に配慮したガバナンス」、ならびに環境管理の強化を可能にするインセンティブや手段に集中的に取り組む必要がある。
6. 地方政府のガバナンス改善:地方公務員の業務査定制度を改善し、より効率的で弱者に配慮した、持続可能な都市化プロセスに対するインセンティブを高めるべきだろう。地方政府はまた、中期的歳出枠組みや資本収支の全面開示により、財務管理や透明性を改善することができる。
「我が国は、改革を進めていく過程で、他国が培った有用な経験を活用すべきだ。世界銀行グループと協力することにより、世銀が持つ豊富な知識や開発のベスト・プラクティスに根ざした改革アジェンダを享受できるだけでなく、我が国が他国と開発の経験を共有できるプラットフォームの役割も担ってもらえる。」と中国の史耀斌財政部副処長は述べた。
世界銀行のクラウス・ローランド中国担当局長は、「世界銀行は、本報告書作成にあたり、発展研究センターと緊密に協力してきた。その結果、世銀が有するグローバルな都市化の知識と、中国が直面する政策課題を掘り下げて理解することにより、リアルタイムで政策助言を提供することができた。」と述べた。