ワシントン、2012年11月14日 – 地域コミュニティが自分たちの生活に影響する決定に関与できるようにすることは、開発効果を高める上での要であり、貧困層が発言権や代弁する組織を持つことによって、開発における彼らの役割が根本的に変わる可能性がある。しかし、市民の開発への参加が簡単に進む訳ではない-世界銀行が、コミュニティ開発や地元への権限委譲を目指す世銀などによるプロジェクトについてまとめた新報告書はこう指摘している。
地元参加型の開発の取組みを分析した新たな政策研究報告書「Localizing Development: Does Participation Work?(仮題:地元主導で行なう開発-参加型は成功するか?)」によると、こうしたプロジェクトではしばしば、地元の複雑な状況―社会的、政治的、歴史的、地理的現実など-に適切な配慮が払われなかったり、モニタリング・評価のシステムが不十分だったりする。このため、プロジェクトの知見がうまく蓄積されない。同報告書は、参加型プロジェクトは脆弱な統治機構を代替するものではなく、むしろ中央による強力な支援が不可欠であることを、多数の事例を挙げて示している。
同報告書は、ドナー機関が地元の参加を促す中で直面する課題について、実証に基づいた教訓として、国家の対応力や現地の状況の確実な把握の必要性などを訴えている。また、資金提供者によるプロジェクト支援が確実に効果を上げるよう、柔軟かつ長期的な関与や地元参加型モニタリングなどいくつかの措置を提言している。
「市民の参加を促す真の取り組みには、持続的な長期コミットメントと、社会のあらゆるレベルでの社会・政治勢力についての明確な理解が求められる」と、同報告書の共著者である世界銀行貧困削減・平等グループのガザラ・マンスーリ・リード・エコノミストと、同僚でやはり共著者の世界銀行開発研究グループのビジャエンドラ・ラオ・リード・エコノミストは述べている。
「市場や政府の失敗を解決するように効果的に人々を組織化することは決して容易ではない。その可能性が真剣に考慮されることも稀である。事実、そうした取り組みは、調整不足、不平等、透明性の欠如、腐敗、ただ乗り、能力の不足など、様々な課題に直面する。市民の参加が最も機能するのは、ボトムアップ型の参加をトップダウン型の監督が支えるというサンドイッチの状態にある時だ」と、ラオは述べている。
過去10年間、地元の参加したプロジェクトに世銀自ら850億ドル以上、また他のドナーもさらに数十億ドルを投じていることから、地元参加型プロジェクトがどのような状況で機能し、どのような状況で機能しなかったかを検証する材料は豊富であった。マンスリとラオの結論は、コミュニティの参加は保健と教育の両セクターでは成果向上にある程度貢献したものの、貧困削減や組織的対応のためのキャパシティ・ビルディングには、さほど効果がないというものである。
コミュニティ単位のプログラムで貧困層へのリーチやサービス向上が成功しているケースには、いくつか共通の特徴がある。ひとつは、国の強力な関与である。無料の保健サービスを提供するブラジルの「家族保健プログラム(Programa Saude da Famılia)」がその一例で、自治体が運営し、ブラジル保健省が監督している。このプログラムは、特に新生児と幼児の保健向上に多大の効果があったと評価されている。さらに、このプログラムは、1人当たり約30ドルと費用対効果が高い。成功のもう一つの鍵は、地元のキャパシティ・ビルディングを図ることである。ガーナのコミュニティ保健・家族計画プロジェクトがその一例である。また、インドネシアのケカマタン開発プログラムのように、背景にある状況に大きな注意を払い、透明性の高いモニタリング・システムを確保することも不可欠である。
同報告書は、実証研究の成果及び地元の参加にかかる幅広い課題に対する検討から得られた主たる教訓として、以下の3点を挙げている。
1) 地元参加型の介入は、国家が地元の声に反応できる場合に、最も効果的となる。必ずしも民主国家である必要はないが、民主国家であることは大いに役立つ。いずれにせよ、国は、介入が実施されるに当って、コミュニティのニーズに反応しなければならない。
2) 地元でも国でも、状況認識がきわめて重要である。介入の成果は、コミュニティの状況によって大きく異なる。なぜなら、地元での不平等、歴史、地理、社会的影響力、ネットワーク、政治システムなどが関係するからである。こうした状況の違いがあまりにも大きく、その影響があまりにも予測不能であることも少なくない。そのような場合にも成功するプロジェクトには、強力な学習システムが組み込まれており、状況の変化に対する敏感さや適応力が備わっている。
3) 効果的な市民参加は計画通りには展開しない。むしろ、進展と停滞を繰り返し、穏やかに見える状態が長く続いた後に、強い、多くの場合は激しい変化が生じる可能性が高い。ドナー主導の参加型プロジェクトでは、そうした対立的な展開になることは想定されていないことが多い。官僚的な必要性から、明確かつ測定可能で、通常は楽観的な成果が一定の時間内に達成されると計画されている。そのようなプロジェクトは、現場での実績ではなく、非現実的な期待に応えられずに失敗とみなされる危険をはらんでいる。
世銀及びドナー機関は、次のような特性を備えたプロジェクトとなるよう、いくつかの措置を講じる必要がある。
- 柔軟かつ長期的な関与が可能となるよう、プロジェクトの構造が変更できるようにする。忍耐は美徳である。
- プロジェクトの設計及びインパクト評価の際、経済的分析に加え、政治的・社会的分析も行なう。
- モニタリング・評価を、これまで以上に重視する。情報通信技術(ICT)に基づいた費用効果の高い新たなツールの活用を図るべき。
- ファシリテータからのフィードバックを得る明確なシステム、及び参加型のモニタリング・救済制度を構築する。
- 最も重要なのは、失敗を恐れたり判断を急ぎ過ぎたりせず、学習を促進するような正直なフィードバックが行われる体制をつくること。参加型開発においては、失敗に対する高い許容度、そしてプロジェクト管理者に失敗の報告を促す明確なインセンティブが要求される。失敗は時として、成功への道を学ばせてくれる。失敗が許容される環境であって初めて、技術革新が実現し、実証に基づいた政策決定が可能。
この政策研究報告書(PRR)は、世銀研究部門の報告シリーズの最新版である。PRRは、開発公共政策に関する議論に貢献することを目的としており、本年度版では地元参加型開発の概念的枠組み及び土台を示している。本報告書は、これまでに実施された約500件の調査を詳細に検討した結果である。