世界銀行が損失軽減のための実践的ガイドブックを発表
東京、2012年2月13日 - 都市部の水害は、東アジアで急成長を遂げる低・中所得国における重要かつ喫緊の開発課題である。水害リスク管理を都市の開発計画に標準的に組み入れることが必要である。本日発表された世界銀行の新ガイドブック「水害に強い街をつくる:21世紀に向けた総合都市計画の指針(仮題)-”Cities and Flooding: A Guide to Integrated Urban Flood Risk Management for the 21st Century”」は、こう指摘している。
同ガイドブックは、都市化、人口増加および長期的な気候変動といった問題の中で、水害リスクをいかに管理すべきかについて、業務上の指針を提供している。
「都市開発により周辺地域が貧困地区となってしまうことが多い。そうした地区では、十分なインフラやサービスが整備されていないため、水害への脆弱性が高くなる。したがって最も深刻な被害を受けるのは、貧困層、特に女性や子供たちだ」と、世界銀行のパメラ・コックス東アジア・太平洋地域総局副総裁は述べている。「他方で、急速な都市化は機会も提供してくれる。計画当初に適切な都市計画を行うことができれば、市町村は持続可能な開発を促進し、人命や資産を守ることができる」
あらゆる自然災害の中で最も頻繁に発生するのが水害であり、東アジア・太平洋地域は南アジア地域と並んで、特にその傾向が高い。実際、過去30年間にアジアで発生した水害は、世界の総水害件数の約40%を占めた。また、世界で水害リスクにさらされている人々の内、90%以上がアジアで暮らしている。
東アジア・太平洋地域の途上国が都市型社会へと移行するにつれ、人口や資産の集中が進み、都市部の水害はますます大きな犠牲をもたらすようになり、管理が困難になっている。また水害は、直接的な経済的損害だけでなく、教育機会の逸失や疾病、栄養状態の低下など、開発目標を損ないかねない長期的影響も及ぼす。
同ガイドブックによると、水害リスクを管理する最も効果的な方法は、構造対策と非構造物対策の両方を組み合わせた統合アプローチを採用することである。
具体的には、以下の施策が含まれる。
- 排水路や放水路の整備
- 湿地帯や環境緩衝帯など「都市緑化」の採用
- 水害警報システムの導入
- 水害被害軽減のための土地利用計画
カギは適正なバランスを取ることにあると同ガイドブックは指摘している。堅固な構造物は、適切に利用されている時には効果的だが、設計容量を超える自然災害には太刀打ちできない。また、構造物によって水害リスクが移転され、ある場所のリスクの軽減が別の場所のリスクの増大となることもある。統合戦略を効果的に実施するには、政府、公的機関、シビルソサエティ、教育機関、民間セクターの様々なレベル間での協力に加えて、国と地方自治体の断固とした政治的リーダーシップも必要となる。
水害リスクとその危険性をより良く理解する上で役立つツールは多数存在する。例えば、ウェブベースの水害予測システムは、水文学的データや水文気象学的データを様々なユーザーに提供する上で効果的な手段となる。また、リスクと脆弱性を地図上に表示するマッピングは、住民を守るために資源をどう配分すべきか知る上で極めて貴重である。
例えば、世界銀行は複数のパートナーと共に、メコン川下流域における気象サービスを支援している。こうした支援は、ベトナムやインドネシアの都市が自然災害の不確実性とリスクを勘案し、中期的に災害に強い都市づくりを進める上で役立つだろう。
啓発活動と防災態勢強化には、広報も重大な役割を果たす。小規模な災害は3年以内に忘れられると、同ガイドブックは警告する。
水害リスクを完全に排除することが不可能である以上、迅速な復旧に向けた計画も必要である。その際、今後、水害に対してより高い抵抗力を備えた、より安全で強いコミュニティを構築するための機会として、復興を捉えていくことが求められる。
「東日本大震災と津波、そしてタイの水害など、最近の大規模災害は、災害リスク管理と耐性強化のための新しいアプローチの必要性を浮き彫りにしている」と、同ガイドブックの主任執筆者である、世界銀行のアバス・ジャ東アジア・太平洋地域総局災害リスク管理プログラム・リーダー兼都市問題リード・スペシャリストは述べている。「水害リスク管理とその影響の複雑性および不確実性を認識したシステムを設計する必要がある。こうした設計は包括的で柔軟性に富み、相互に発信し合えるものでなければならない。また、何が起きるか分からないというリスクの本質と向き合うには、ある一つの解決策に過度に依存することがないよう慎重な設計が求められる」
同ガイドブックの作成に当たっては、防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)が資金を提供し、国際協力機構(JICA)もパートナーとして協力した。