Skip to Main Navigation
2021年2月26日

強靭な回復に向けた最貧国のエンパワーメント

モザンビークのマプト市で、新型コロナウイルス感染症による学校閉鎖の中でも、テレビを通じて学習を続ける子供たち。実際に世界中の最貧国で、教育システム混乱への対応にテクノロジーが大きな役割を果たしている。教育を通じてその国の人的資本を構築することは、世界銀行のグループ機関である国際開発協会(IDA)にとって、強靭な回復実現に向けた主要な優先課題のひとつである。写真撮影:© Claudio Fauvrelle/UNICEF

アフガニスタンの首都カブールから北西に約500キロ離れたナカラバードで、シュクリア(24歳)は、感染症予防のためのマスクを縫っている。1日に仕上げる量は約100枚で、シンプルだが感染防止に役立つマスクが不足する中、村民1,700人の命を守るために役立てられている。

アフガニスタンでは、シュクリア同様、自らのコミュニティのためのマスク製作に従事する女性が増えている。シュクリアが新型コロナウイルス感染症の影響について知ったのは、 アフガニスタン市民憲章プロジェクトによる全国的な情報キャンペーンを通じてだった。

「このキャンペーンのおかげで、コロナウイルス感染症の危険性を真剣にとらえることができた」とシュクラは振り返る。

 

それでなくても紛争と高い貧困率の状況にあるアフガニスタンでは、新型コロナウイルス感染症により多くの人が犠牲になった。今回の感染症流行は、世界銀行のグループ機関である国際開発協会(IDA)の支援対象である市民憲章プログラムは、新型コロナウイルス感染症から人命と生計を守るためにIDAが実施している数多くのプロジェクトのひとつだ。

 

Image
インフォグラフィック全体を見る: IDAの新型コロナウイルス感染症対策:スピード、規模、選択

人的被害の緩和:IDAの最優先課題  

2月初旬、COVAX ファシリティと協力しながら、カーボベルデによるワクチンの調達・配布を支援していく。

「カーボベルデの場合、ワクチンの準備を整えることは、今後数カ月間において最重要課題のひとつとなる。」と、同国の新型コロナウイルス感染症対策調整を手がけるホルヘ・ノエル・バーレト博士は述べた。「国内に適切な低温物流システムを整備し、人口の少なくとも60%へのワクチン接種を目指す。」

ワクチン接種の開始が視野に入ってきたとは言え、新型コロナウイルス感染症のためにIDA支援対象国の見通しは明るくない。今回の危機により、2021年末までに新たに5,500万人から6,300万人が極度の貧困に陥ると予測されている


"今回の危機で最も大きな打撃を受けるのは世界の最貧困国だ。各国が努力の末に達成した成果を維持し、環境に配慮した強靭で包摂的な回復に踏み出そうとする中、IDAは類をみない立場から、長期的な経済的打撃を回避できるよう支援を行っている。"
Image
西尾 昭彦
世界銀行開発金融担当副総裁

各国が回復に向けて不確実ながら歩を踏み出そうとする中、IDAはスピード、規模、選択を柱とする対策に着手するため、2020年4月から2021年6月までに最大550億ドルを動員しようとしている。同対策の目標は、強靭で包摂的な回復に踏み出そうとする各国へのエンパワーメントにある。

新型コロナウイルス感染症は世界の最貧国に最も大きな打撃をもたらしている。この動画では、世界銀行のグループ機関である国際開発協会(IDA)のサミュエル・M・マインボ資金動員局長が、すべての人のための強靱な回復達成に向けた対策の根拠となる考え方を説明する。

保健システムへの投資:強靭性への鍵 

IDAはこれまでに様々な保健危機を通じ、世界の最貧国に確実な支援と専門知識を供給する組織であることを証明してきた。2014~16年に西アフリカで発生したエボラ出血熱の大流行では、保健上の緊急事態におけるより強靭な保健システムと、より迅速な対応の必要性が著しく浮き彫りとなった。エボラ出血熱の大流行の後、IDAの支援の下で、ギニアとその他15の西・中央アフリカ諸国を対象とする地域疾病サーベイランス強化(REDISSE)プロジェクトが立ち上げられた。エボラ対策とREDISSEの両方による支援を受けてきた経験から、これらの国々は新たな保健危機に直面した現在、対応能力を高めるに至っている。

REDISSEは隣国のセネガルでも準備態勢の重要性を浸透させている。

「セネガル全土であらゆる疾病に対する監視システムを強化することができた。」と、ダカール・パスツール研究所所長アルファ・サル博士は述べた。「そのおかげで、コロナウイルスのような感染症を迅速に察知することもできるし、資金を動員して大流行に対応するための機能を高めていくこともできる。」

カンボジアでも同様に、的確な疫学的調査と国立保健研究所の強力な機能が功を奏し、今回の危機に当たっても同国の保健システムが麻痺することはなかった。保健セクターに長年にわたり投資を行ってきたIDAは、迅速に資金を提供できたので、同国政府は早い時点で緊急対応用の重要な医療機器や医薬品を調達することができた。世界的流行の比較的早い段階で新型コロナウイルスの感染が確認されたにもかかわらず、カンボジアが今回の流行でうけた打撃は比較的小さくとどまっている。

平等で包摂的な回復:決して誰も取り残さないために

 世界保健機関(WHO)やユニセフとの協力により進められている同プロジェクトは、72の病院と1,970のプライマリ・ヘルスケア施設のための資金を増やすことで、2,200万人以上のイエメン国民を対象に人命を守る保健と栄養のサービスを提供している。 

さらに、 今も紛争の続くブルキナファソでは、最脆弱層のための新型コロナウイルス感染症対策として政府がただちに現金給付プログラムの拡充に動いた。その際、この国最大の社会的セーフティネット・プログラムである「Burkin-Naong-Sa Ya(現地のムーア語で『ブルキナファソの貧困撲滅』の意味)」など既存の支払いシステムと受益者登録簿が役立てられた。今では、45以上のサブサハラ・アフリカ諸国が IDAの支援を受けて、社会的セーフティネットを整備している。

IDAはまた、各地で教育システムが打撃を受ける中、教育アクセスのためのテクノロジー活用において各国を支援している。パキスタンでは、政府が今回の危機をチャンスに変えようと取り組んでいる。IDAの支援によるパキスタン効果的なパンデミック対応プロジェクトを通じ、1年生から12年生を対象に教育コンテンツを配信する専用テレビチャンネル「テレスクール」が開設された。女子の3人に1人近くが一度も学校教育を受けたことがないパキスタンのような国では、遠隔学習プログラムが困難をしのぐチャンスを生み出しており、さえぎられることのない教材へのアクセスを可能にしている。

「新型コロナウイルス感染症が流行し、勉強を続けることがとても難しくなったが、政府がテレスクールを始めてくれたおかげでとても助かっている」とラワルピンディ小学校の生徒は振り返る。

雇用:生計を維持するための経済活性化

 2020年の国民一人当たりGDPは3.5%低下し、貧困削減における3~4年分の進歩を打ち消してしまった。 暫定的データによると、今回の危機が労働市場に及ぼした影響は甚大で長期化し、著しく不平等である。  

そうした統計の中でも、IDAは長年にわたり、経済的変革、学習成果向上、技能研修の提供、生産的な雇用の創出など、多くの場合に貧困から抜け出すための唯一の手段となる分野において途上国支援の最前線に立ってきた。

ネパール中心部出身のカマラ・B・K(38歳)のような女性は、IDA支援の持続可能な成果に希望を見出している。カマラは、IDAの支援する地震後住宅再建プロジェクトを通じ、2015年の地震で特に被害の大きかった14の被災地で研修を受け雇用された149人の女性移動石工のひとりだ。新型コロナウイルス感染症関連の制約のため、多くの現場作業員が現地に赴くことができない中、カマラのような現地住民はひっぱりだことなっている。 

「石工の研修は私の人生を変えた」とカマラは言う。「新しいスキルを身に付け経験を積めるだけでなく、自分のコミュニティの役に立つ機会を与えてくれた。」 

IDAは、雇用や金融包摂を促進する投資を支援するため創造的な方法を模索し続けている。バングラデシュ、カメルーン、コートジボワール、リベリア、ナイジェリア、ルワンダ、ウガンダでは、IDAの民間セクター・ウィンドウを通じ、新型コロナウイルス感染症の影響が最も深刻な中小企業のために運転資金を融資することで、ビジネスを続けられるよう支援している。

食料不安:新型コロナウイルス感染症の複合的影響への対策 

2020年末の時点で、IDA支援対象国で食料不安tの状態にあった人は2億3,300万人に上り、2021年と2022年にはさらに増えるとみられている。これまでの

2008年の食料危機の際、IDAは最前線に立ち、世界食料危機対応プログラム (GFRP)を通じたファストトラック方式の援助を行うなど中心的役割を果たした。同プログラムは2008~12年の間に、社会的保護プログラムや農業支援を通じ、5,730万人に恩恵をもたらした。

現在、IDAが新たに53億ドルの支援を誓約した新型コロナウイルス感染症による食料不安への対応もまた、現在の対応と長期的な対応の両方を対象としたものだ。誓約額の約半分は、IDAが紛争、気候、人獣共通感染症といった根本的な要因を一層重視していることに伴い、強靭性強化への長期的投資に充てられる。一方、各種プロジェクトの現在の取組みでは、女性、子供、難民、障がい者をはじめとする脆弱層など、今回の危機で特に打撃を受ける人々を重点対象と位置付けている。

気候:原状復帰以上の復興に向けた天然資源管理

 過去20年間に新型コロナウイルス感染症のような人獣共通感染症(動物からヒトに伝播する感染症)の発生頻度と影響が高まっており、IDAは各国と緊密に協力して生物多様性のより効果的な保全と持続可能な管理を支援している。

「メキュベリ森林保護区が豊かな緑を取り戻し、我々の生活に必要な水などの環境資源をもたらしてほしい。祖先の時代にそうだったように。」と、モザンビークのメキュベリ州の地域指導者フェリズミノ・マンヒカは言う。

マンヒカは、IDAの資金によるモザンビーク生物多様性保護・開発地区プロジェクトを通じて復旧機会の見極めと適切な支援の選択についての研修を終えた40人のコミュニティ指導者の一人だ。3,200万ヘクタールの天然林に6,000種の植物、鳥類、哺乳類が暮らすモザンビークでは、荒廃地の復旧が優先課題だ。IDAの支援は、生息環境の保護と共に、国立公園近隣に暮らす2万人(内、約半数が女性)に代替的な所得創出活動を提供することにより生活水準向上を図っている。 

サヘル地域の一部、特にブルキナファソ、チャド、マリ、モーリタニア、ニジェール、セネガルでは、気候変動により、新型コロナウイルス感染症の人的被害と経済的打撃が一層深刻化している。雨季が短くなる一方、乾季は長期化して最長9カ月にも及ぶ場合もある。2010年の干ばつは特に厳しかった。サヘル地域の気温は世界平均の1.5倍のスピードで上昇しているため、こうした国々では水不足が深刻化し、穀物生産高が減り、家畜の生産性が落ち、食料安全保障と食料価格に影響が及んでいる。そこでIDAは、気候変動に強い食料システムと持続可能な土地管理実現を目指し、荒廃地復旧、農業生産性向上、水の安全保障強化への支援を拡大するプログラムに資金を提供している。 

モザンビークやサヘル地域での実例が示す通り、気候変動に対してはただちに行動を起こすことが不可欠だ。各国が環境に配慮した包摂的で強靭な回復に乗り出そうとする中、自然の生態系と生物多様性の保護、そして気候変動の影響への対応が取組みの中核となる。

最終的な目標:コミュニティによる強靭な回復を軌道に乗せること 

シュクラやバーレト博士、サル博士、フェリズミノといった人々は、今回の危機の影響を乗り越えようとするに当たり、強靭な保健システム、社会的セーフティネット、持続可能性、食料安全保障、経済的変革のためのIDAによる支援が今後も継続されることを確信している。各国が希望を見出し、回復を視野に入れ始める中、IDAは確かなパートナーとして、世界の関係者を結集し、各国が誰も取り残すことのない強靭で包摂的かつ持続可能な形で復興を果たせるよう支援を続けていく。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策専用に設置されたファストトラック・ファシリティの恩恵を受けるIDA支援対象国 (2021年2月11日現在)

免責事項:本地図上に示された境界線、色、名称、その他の情報は、いかなる地域についてもその法的地位、またはそうした境界線への支持や承認に関する世界銀行グループの判断を示すものではない。

世界銀行グループによる新型コロナウイルス感染症対策プロジェクトに関する詳細は、プロジェクト一覧をご覧ください。