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特集2025年4月23日

石見英里奈 世界銀行 社会的保護専門官~第68回 世銀スタッフの横顔インタビュー

「開発は国づくり」。南スーダン、エチオピア、スーダンの難民や最貧困層の人々が貧困から抜け出せるように支援する社会的保護とセーフティネットの専門家の言葉には考えさせられます。国づくりとは何か。石見さんを通して、貧困を抜け出した家族の笑顔が見えました。

石見英里奈 世界銀行 社会的保護専門官
Erina Iwami

2022年7月より現職、エチオピア在住。現在、社会的保護専門官としてセーフティネットプログラムの設計から実行までを遂行し、エチオピア、南スーダン、スーダンで3つのプログラムを監督している。2016年6月世界銀行入行。2017年7月より正規職員として、脆弱性・紛争・暴力(FCV)グループのプログラムオフィサーとして国際開発協会(IDA)の支援を受ける国に対するプロジェクトの立ち上げを支援。2020年には世界銀行初のFCV戦略の作成にメンバーの一人として関わり、その後FCV分野の業務担当官としてエチオピアを担当。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)にて修士号取得(国際関係学)、慶應大学法学部卒。

国際開発の世界に憧れて

南スーダン政府の方々と
南スーダン政府の方々と
開発に興味を持ったのは、高校時代です。私の高校では、好きなテーマを半年間かけて研究して論文を書くという自由研究のクラスがあり、テーマを考えた時にインドネシアでの経験を思い出しました。小学生の頃に住んだインドネシアで初めて目の当たりにした貧困、妹と同じくらいの子どもたちが路上で生活している姿は、脳裏にずっと焼き付いていました。この研究を通じて国際開発という仕事があると知ったことが、開発の道への最初の一歩になりました。大学でも開発につながる勉強をしたくて政治学科に入学し、その過程で1年間、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で国際開発学を学び、専門の勉強に少しずつつなげていきました。

就職は、国際機関には憧れていましたが、まず実務経験を積むべきだと考え、三井物産株式会社に入社し、途上国に関わる仕事をしたいという希望が叶って、2010年から4年間、金属資源の開発プロジェクトに携わりました。最初は日本で加工した非鉄金属をインドの鉄鋼会社に販売する仕事でしたが、その後ブラジルとインドネシアのアルミ資源開発案件を担当しました。仕事を通じてインドネシアに関わることができたのは嬉しかったです。

その間も国際機関での開発の仕事への憧れは抱き続け、修士号が必要なことも知りつつ日々が過ぎていましたが、ある日ふと、「修士号を取りに行こう!」と思い立ちました。既に大学院の応募締め切りまで2~3カ月しかない中、「これを逃したら後悔しそうだ」という気持ちに駆り立てられて応募し、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)に合格しました。渡米したのは2014年の夏です。ワシントンDCにある大学院を選んだのは、興味のあった世界銀行の本部があり、近くで研究することで学べることがあると思ったからでした。

余談ですが、インドネシアでは日本人学校で、その後シンガポールに移住した先の中学校で初めて英語で授業を受けることになって、まったく英語ができなくて、とても苦労しました。高校で日本に帰国しましたが、この大変だった時期が原動力になって、英語力を磨こうと頑張るようになり、将来的に英語で仕事をすることも自然と視野に入るようになりました。

人の縁が仕事をつなげてくれることもある

2016年、SAISでの修士号が終わりに近づいた5月頃に、国際機関に関するメーリングリストで、世界銀行のアフリカ地域のチーフエコノミストのオフィスでリサーチアシスタントを募集している情報を見つけました。日本人職員がいる部署で、すぐにお話を伺いたいとメールを送り、その部署のリードエコノミストと面接して、ショートタームコンサルタント(STC)として採用されました。

その翌年に、プログラムオフィサーとして正式に世界銀行に入行しました。STCとして働き始めてから半年ほどたった頃、「ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)の仕事で、世界銀行内で働いている日本人を探している」という情報を別の日本人職員から教えていただき、部署内での面接後にオファーを頂きました。

私の場合は特殊なケースだと思います。それでもひとつ言えることは、世界銀行に入ってからも、人との交流は大事だということです。私もあまりネットワーキングが得意ではないのですが、世界銀行の多くの人から、「自分の名前を知ってもらうことは大事だ」と助言いただき、自分の殻を破って今も頑張っています。

脆弱性・紛争・暴力(FCV)の世界へ

世界銀行ジュバ事務所にて、南スーダン政府および世界銀行職員
世界銀行ジュバ事務所にて、南スーダン政府および世界銀行職員
JPOで所属することになった脆弱性・紛争・暴力(FCV)グループは、世界銀行内ではセクター横断的に取り組み、各国幹部や特定のセクターなどに対して助言するという部署になっています。ちょうどその頃シリア難民が発生し、強制移住を余儀なくされている人々および難民受入れ国に対する世界銀行の取組みを強化しようとする動きが活発化しました。難民を多く受け入れているIDA対象国(IDAの支援を受けている国)に対して新しい支援枠ができ、それを立ち上げる仕事がJPOとして最初の仕事になりました。

世界銀行は開発機関であるため、短期的な支援を提供するだけでなく、どのように対象国の開発につなげていくかが重要な視点になっています。例えば、難民受入れ国の社会的保護制度や教育制度を改善し、その国に住む人々及び難民が制度へアクセスできるよう支援をしたり、世界銀行の様々なセクターのプロジェクトの中に難民を対象に含める方法を担当者と一緒に考えたりしました。

世界銀行はその後さらにFCV分野に力を入れ、2020年には初めてFCVに対する世界銀行の戦略が策定され、私もチームの一員として策定に携わりました。さらに、世界銀行の認定を受けた国や難民受け入れが多い国には、難民問題について現地の各国幹部を支援する世界銀行職員が配置されることになり、2020年2月にエチオピアの事務所へ異動しました。

各国の事情に合わせたセーフティネット

担当は主にエチオピアと南スーダンでしたが、南スーダンの国別支援戦略の作成を手伝ったことをきっかけに南スーダンの仕事が増え、またFCVの中の専門分野の1つであるセーフティネットに関する業務にも関わるようになりました。そんな中で今のマネージャーがセーフティネットの部署への移籍を支援してくれると言ってくれたこともあり、2022年に現在の専門官に着任しました。セーフティネットは、貧しい世帯の生活を支える目的で現金給付(政府や団体が個人や世帯に直接現金支給する制度)を行い、それを元手に仕事を始めることで貧困を抜け出すのを目的としています。日本の生活保護のようなイメージですね。

2024年前半は産休を取りましたが、現在、南スーダンでは生産的セーフティネットプログラム、エチオピアの都市部での生産的セーフティネットプログラム、そしてスーダンの緊急プログラムと、同時に3つのプログラムを担当しています。それぞれの国によって特徴があり、南スーダンは政府のキャパシティが少ないため、資金を受け取る人の基準など細かい技術的なやり取りを何度も重ねる必要があります。一方、スーダンは紛争中なので短期間のプログラムであり、プロジェクトの実施に国連が入り、国連世界食糧計画(WFP)と国連児童基金(ユニセフ)と協力して進めていますが、同じ国際機関でもやり方が違うので、手探りで進めています。エチオピアでは既にプログラムの歴史もあるので、より貧困から抜け出せるような枠組みもあり、世界銀行側もモニタリングなどが中心になります。

指導力と管理能力が問われる

南スーダンで、初めてチームリーダーを任された時のことです。各国の現地職員は、自分の国に対する情熱を持っていますが、家族が他国に住んでいたり、たった一人で現地職員として頑張っていたりと、苦労していました。政府との対話を進めるには重要な存在でもあり、どうすれば彼らのモチベーションを維持しつつ、プロジェクトにつなげていけるのかを考えました。またコミュニケーションの取り方の違いにも戸惑いました。南スーダンでは形式ばったコミュニケーションよりも、電話や現地職員同士の会話が鍵になるんですね。最初私は形式にこだわってしまい、メールできちんと連絡しなければと思ったりしてうまくいかず、チームとしてどういう対話の形が良いのかを考えさせられました。「自分がやった方が早いんじゃないか」と思ってしまう気持ちを抑えて、人に仕事をお願いしたり、監督するのが自分の役目であると気づいたのも南スーダンでした。

ここで痛感したのは、世界銀行では技術的なスキルや専門知識が一番大事ですが、チームリーダーやプロジェクトを担当する際には、プロジェクト管理能力や指導力も肝要だということです。プロジェクトは一人ではできず、チームメンバー、コンサルタント、相手国、上司など、様々な人が関わってくるため、彼らと良い関係を保たなければなりませんし、専門知識があるだけでは良いチームマネージャーにはなれません。そう考えると、民間セクターでの経験はとても役に立ち、ソフトなスキルが欠かせないと思いました。

特にFCV国は、国内の状況も大変、相手国の政府職員も大変という、とてもストレス度が高い環境であり、その中で自分の力を発揮できる力も必要です。それは開発の世界以外でも培えるものだと思います。

日本的な関係の築き方が力になることも

日本人職員は、人とのコミュニケーションや関係の築き方、仕事へのアプローチの仕方など、成功を独り占めするタイプではなく、チームでやっていこうとする人が多いと思います。これが裏目に出ることもありますが、難しいクライアントに対して話を聞く姿勢や、押し付けるのではなく一緒にやっていこうという形で話を進めることができるのは日本人の強みだと思います。日本人と働きやすいという人が多いですね。

3人の子供を学校に行かせることができた

エチオピアのセーフティーネットプロジェクトのプロジェクト受益者たち
エチオピアのセーフティーネットプロジェクトのプロジェクト受益者たち
今の仕事では課題がまだまだあります。FCV国では、プロジェクトが立ち上がらなかったり進まなかったり、本当に小さいことでも一つひとつ一緒に解決して進めなければならないことはよくあります。紛争国ではプロジェクトの一時停止を余儀なくされることもあり、時間がかかるし、成果がなかなか出ない中ででも、成果を問われる厳しさもあります。加えて、機材の輸送中に強盗に遭うなどの事件や事故もあり、こういったことにも対応しなければなりません。

それでもセーフティネットプログラムの支援を受けた人に直接お会いして、「自分のお店を持つことができ、シングルマザーだけれども子供3人を学校に行かせることができた」というような生の声を聞くと、やっていて良かったなとやっぱり嬉しいです。

社会的保護の専門家の道を目指して

今後も社会的保護の仕事を続けていきたいと思っています。セーフティネットは社会的保護の一部でしかなく、他には年金制度や労働市場政策などもありますが、途上国には年金制度も、怪我をして働けない時の保護もハローワークのような仕組みが整っていないことがあります。世界銀行の目標としては、どんな人も保護されるようなプログラムを作ることで、こうした課題をひとつずつ解決して、生産性を高めてその国が成長できるようにすることです。今後、自分の専門性を社会的保護の他の分野にも広げて、社会的保護の専門家として頑張っていきたいです。

開発の世界を目指す人たちへ

開発とはまさに国づくりで、さまざまなセクターや分野があります。まずは一番やってみたい、興味のある分野を見つけるのが大事です。一度見つけると、そこからまた世界がひろがっていきます。

また開発の世界についても、世界銀行の仕組みだけでも複雑で、プロジェクトがどう立ち上がり、どうやって政府に話し、どうプロジェクトが決まるのかなど、インターネット上の情報だけでは得ることができない、人に聞いてみないとわからないことはたくさんあります。「お話を伺えませんか」など、連絡をすれば時間を取ってくれる職員も多いので、連絡してみてください。私も10人連絡して数名反応してくれれば良い、くらいの気持ちでネットワーキングしています。自分の課題でもありますが、パッとその場で30秒で自分のアピールをする「エレベーターピッチ」は練習しておいた方が良いですよ。

世界銀行は女性としても働きやすい組織です。マネージャーもチームメンバーも女性が多く、支援対象国の人々も女性だからといって差別するようなことはありません。今は夫がエチオピア国外で仕事をしているためワンオペなのですが、一児の母としても、仕事しやすい環境だと言えます。頑張ってくださいね。

 

関連項目

世銀スタッフの横顔
採用・奨学金
人事が語る~グローバルキャリア構築のための処方箋~
JPOプログラム

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