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特集2024年4月8日

瀬山奏(せやま そう)世界銀行 ガバナンスグローバルプラクティス 公共セクター専門官~第63回 世銀スタッフの横顔インタビュー

「ラッキーは、準備と機会が出会うときに起こる。準備を絶対にやめないこと。そうすれば幸運を掴むことはできる。」予想外の配属で始まったキャリアでも、1つ1つ真剣に取り組み、夢を形にしていく瀬山さん。一番困っている人に最も支援が行き渡るように、途上国の行政能力向上を支援するエキスパートとして活躍しています。

So Seyama

瀬山奏 世界銀行 ガバナンスグローバルプラクティス 公共セクター専門官
2018年1月、世界銀行入行。主に南アジア地域(パキスタン、アフガニスタン)とカンボジアにおける税務歳入向上や公共サービス・公共財政管理改善等のプログラムを担当。世界銀行入行前は開発コンサルタント企業にて国内外の中央・地方政府、国際開発金融機関から発注されるプロジェクトに従事。イギリスのサセックス大学 開発学研究所にてガバナンス学・開発学修士号を取得。

行政能力向上のプロの仕事とは

現在、ガバナンスグローバルプラクティス公共セクター専門官として、東南アジアや南アジアの地域を担当し、中央政府・地方公共団体の行政能力を向上するための貸付プロジェクトや技術協力プロジェクトなどを実施しています。主な支援分野は公共財政管理と効率的な政府支出管理の2つで、前者では効果的な財政計画を通じて建物や道路・土地など政府が保有する資産をより効率的に管理すること。また後者では、より良い公共支出と社会サービスの拡充を目指して中長期での政府予算の支出計画をモニタリングするメカニズムの構築に注力しています。

海外への興味と国際開発への道のり

小学生の頃に、途上国に生まれたがために貧困に苦しむ同年代の子供達をドキュメンタリー番組で見て、日本に生まれた自分が何かしなければならないという使命感を持ったのが、国際開発に興味を持つきっかけでした。中学3年生くらいから国際協力を仕事にすることについて真剣に考え始め、高校でも英語学習に取り組み、専攻を決めずに入学しても自分の関心と将来の希望に合わせた学び方ができる明治学院大学の国際学部に進学しました。

また海外への興味は家族の影響が大きいと思います。小学生の頃、高校生と中学生の姉達がアメリカに留学し、海外でも臆せずに自分の好きなことを仕事にするため信念を貫く姿に感銘を受け、自分も海外で活躍できたら良いなと思いました。母も自力でバレエ教室を一から立ち上げて現在は地域随一のバレエスタジオとして拡大するなど、好きなこと、やりたいことを仕事にすることに執念を燃やす人です。英語の基礎は、努力家でスポーツマンの父が英語の先生だったことから身についたように思います。

自分はどんな問題意識を持っているのか

大学1年の時は、ミャンマーやベトナムの子供の教育支援をする学生NGO団体 JUNKO Associationでの活動にはまっていました。このNGOでは、途上国で購入したお土産・雑貨などを日本に輸入し、日本の雑貨屋さんなどを一軒ごとに営業して卸し、販売から得た利益を子供たちの奨学金やメンバーの途上国への渡航費、災害への一時支援金に充てていました。雑貨の販売や寄付をしてくれる企業を回って募金活動をする中で、国際協力というのはとてもお金がかかるということに気がつきました。

また大学2年で入った江橋正彦先生のゼミでは、「開発の仕事をしたい人はたくさんいる。だから、専門性がないとだめだ」と先生に指摘され、さらに「途上国にはどんな問題があるかをまず知り、それを解決していく中で専門性が出来ていく。自分はどういう問題意識を持っているかを考えなさい」と教えていただき、地域と専門の2つのアングルについて考えるようになりました。地域としては校外実習で再度訪れたベトナムとミャンマーを含む東南アジアが身近でした。専門性については、「お金のかかる国際協力において、どう資金を捻出して配分していくか」を問題意識として考えた時に、途上国政府が社会福祉分野や公共性の高い分野に財源を割くこと、そしてその財源をどう効率的に捻出できるかが、一番貧困に窮している人達・グループに支援が行き渡るための鍵だと思い、公共セクターに着目しました。中でも、道路などインフラ関連は一番多くの人がその恩恵を受けることができるため、そこから「公共性の高いインフラ」と「途上国支援」というアングルから、実際に現地で様々な調査や具体的な作業を実施し、中立的な立場から支援プランをひとつひとつ実現していく開発コンサルタント業界の中から国際航業株式会社に就職しました。

予想外のキャリアからのスタート

ところが、開発コンサルタント業界は経験者採用が強い業界で、新卒者が海外に行けることはあまりなく、さらに日本国内の地方公共団体のインフラ開発や都市計画などを支援するコンサル部門の営業に配属されてしまいました。国際協力には、ソフト面の仕事(組織づくり、保健、教育、ジェンダーなど)と、ハード面の仕事(橋や道路を実際にエンジニアが設計・施工する分野など)の2つの側面がありますが、エンジニアの知識がないにも関わらず、予想に反してハード面の営業となり、わからないことだらけでした。地方公共団体などにインフラ事業の技術提案を営業するのですが、先輩に「将来は海外で活躍したい」と伝えると、「そんな夢みたなこと言ってないで、給料泥棒でないことを証明するために何でも良いから受注を取ってきなさい」と言われ、夢が遠のいたと落ち込みましたが、先輩達にも理解してほしいと思うようになりました。

そこで営業として受注という結果を出すために役所の資料室に毎日行き、ひたすら国や地方政府の予算書を読み漁り、政府の行う公共事業計画やその予算繰りについて研究し、関係組織に提案書を持って毎日話にいきました。仕事はやり甲斐もありましたが途上国支援とはまったく違う方向の毎日を過ごし、この経験が何に活きるのか悩んだ日もあります。それでも、今振り返るとこの営業時代の経験が私の専門性を築く上で礎となっています。予算書とにらめっこしたり、役所の職員と当該地域のニーズについて毎日話すことで、政府支出をモニタリングする機能、国・地方の予算編成の仕組みや作り方、予算を作る作業や公共調達の大変さ、公共事業の入札の仕組みなど、公共セクターの仕組みを隅々まで誰よりも深く研究することができ、これがそのまま自分の専門性になっていきました。

専門性を大学院で極め、キャリアに反映

その学びを形にし、また国際機関で働くために必要な修士号を取るため、5年間仕事をしながら資金を貯め、会社を休職して自費でイギリスのサセックス大学開発学研究所の「ガバナンスと開発コース」に留学しました。このプログラムは途上国の公共セクターの構造と問題点を深く研究することができたので、途上国政府の能力向上を通じて貧困削減を目指すという自分の研究目標とまさに合致していました。また自費留学であったため、どの授業も無駄にしないように主体的に勉強しました。自分がこれまで仕事で経験してきたことを体系的に英語で勉強できてすごく楽しかったです。

留学後、会社に戻ったところ、今度は念願の海外部門に配属され、「国際機関の受注をとってくるように」というトップダウンの使命をいただきました。当時、日本のコンサル企業の受注は日本政府関係組織からが9割を占め、日本政府が多く資金拠出しているにも関わらず国際機関からの受注は全体の数パーセント程度だったため、そこに風穴を開ける役でした。相変わらず、難しい仕事だと思いましたが、営業時代に培った経験を活かして必要な情報を収集し、自社の技術領域や自分の公共セクター分野の知識経験をフル活用して、世界銀行などから複数のプロジェクトを受注することができました。英語での情報収集やレポート作成は大学院時代に身に付けた能力で、こういった国際機関のプロジェクト実施には必須でした。

そして国際的なベストプラクティスを利用して、顧客に最善のプロジェクトの提案をするためには、国際機関で働くのが良い選択かもしれないと思い始めていた頃に、リクルートミッションで、まさに自分が活躍できる公共セクター専門官の募集を見つけて応募・合格し、入行することになりました。

幸運を掴むためには準備が必要

世界銀行に入行した職員はよく「たまたま、自分にぴったりな募集を見つけた」と言いますが、本当はそうではないと思います。世界銀行の採用に際して面接に呼ばれるために必要な書類はカバーレターと職務経歴書のみですが、逆にいうとこれだけで判断されます。このため、必要とされる場所で必要とされた時に応募できるように自分がどの分野・セクターに対して売り込める人材なのか、どういう組織に応募できるのかを常に考える必要があります。私の場合は、国内外の公共セクターが抱える問題を理解しており、留学を通じて当該分野の調査も複数言語で実施可能で、さらに国際機関特有の分析的な仕事の経験もあることで、公共セクター専門官として売り込める人材になっていたところに、現れたチャンスを掴むことができました。

こういったチャンスを先読みすることは難しいですが、予測を立てることはできます。例えば、ジュニア・プロフェッショナル・オフィサーの募集が出る時期は決まっています。事前に日本の開発大綱などを読めば、日本が開発分野で強いのは保健やインフラ・防災などだとわかりますし、そういった分野の人材募集が予想されるとともに、それに自分のキャリアと照らし合わせれば、自分の現在の立ち位置を理解できます。さらに国際機関が支援しているプロジェクトを見ていけば、数年後にどういう職種が募集されるか推測できます。例えば気候変動分野は重要な分野で様々なプロジェクトが行われていますが、そろそろ中間地点での政策評価が必要になってくるはずで、行政評価やプロジェクト評価の経験がある人のニーズが高まるでしょう。加えて、プロジェクトが多く実施されている地域を事前に把握しておくことも重要です。このように、潮流を意識しながら動いていると、まさに自分のために書かれた募集に出会う、という状況が生まれるのだと思います。「幸運は、準備と機会が出会うときに起こる」と言います。機会は必ずくるので、準備を絶対にやめないことです。そうすれば、幸運を掴むことはできます。

開発コンサルタント業界での最初の営業の仕事は正直すごくやりたい仕事ではありませんでした。それでも、問題意識を持って一つひとつ取り組んだことが良かったと思います。自分の置かれた状況にがっかりせず、毎日予算書を読んでいたことが、専門性につながって世界銀行まで来れましたし、振り返って無駄な時間は全くありませんでした。当時の上司や営業の先輩には感謝していますし、最後は自慢の後輩だと言っていただけるようになりました。

同じ情熱を持った人と建設的な議論ができる楽しさ

「世界銀行スタッフの横顔」瀬山奏 世界銀行 ガバナンスグローバルプラクティス 公共セクター専門官:パキスタンでのアフガニスタンからの難民受け入れ支援プロジェクト
今ちょうどパキスタンでアフガニスタンからの難民受け入れ支援プロジェクトを実施しています。パキスタンに流入する難民に対して、住民基本台帳のようなものに登録したり、小規模ビジネスができるように補助金を出したりするといったサービスを提供するため、州政府の代表と話し合いをしています。どの国でも公共セクターに勤める職員は少なからず国を良くしたいという情熱を持っていて、そういう人と国の基盤をどうやって向上させるかという建設的な議論ができるのはこの仕事の醍醐味です。

また、公共セクターの仕事は、一つの地域でうまくいったものをベストプラクティスとして他の国・地域にも当てはめるやり方が、地域ごとに最初からプロジェクトを作るよりも効率的であるため、世界銀行でも推奨しています。小規模から実施して成功したものの規模を拡大していくやり方を念頭に置いてやっていますが、今の仕事を通じて、どんなベストプラクティスなら他の地域にも当てはめることができるのか、そうでない分野は何か、また上手くいった要因を整理することなどを学べる点もこの仕事の醍醐味です。

一方、簡単な仕事などありません。例えば、途上国は徴税能力が低い傾向にあり、どうやって税収を上げるかについてクライアント政府から世界銀行へアドバイスを求められています。税金は市民から集めるものなので、政府と市民の間の信頼関係を構築する必要がありますが、住民が行政による社会サービスに満足しているかどうかというのは、実際にその土地に住んでいない自分には本当はわかりようがありません。いかに他人事にならずにアドバイスしていくかが難しいところです。

走ることでバランスを取る

「世界銀行スタッフの横顔」瀬山奏 世界銀行 ガバナンスグローバルプラクティス 公共セクター専門官:走ることでバランスを取る
国際機関での仕事では自分の思い通りにいかないことが多々ありますが、コロナ禍後に趣味として始めたランニングでメンタルと身体の健全性を保っています。仕事でコントロールできることが少なかったとしても走ることについては、いつ走るのか、どういうペースでどのコースを走るかなど、すべて自分でコントロールできます。走ることで気持ちを持ち直すことができ、良いマインドセットでまた仕事に戻るようにしています。今ではフルマラソンの自己ベストは2時間34分までになりました。おそらく国際機関に勤める職員としては世界最速だと思います。 

日本人として世界銀行で働くこと

「世界銀行スタッフの横顔」瀬山奏 世界銀行 ガバナンスグローバルプラクティス 公共セクター専門官:チーム・ビルディング
今の部署には日本人は1%程度、6−7人しかいません。日本人としての強みとしては、締め切りを守るとか細やかな仕事への取り組みが評価されると思いますが、もっと主体的に自分を前に出して先進的なプロジェクトに従事していく姿勢も今後は大事だと思っています。また、戦争を経験した国、災害の多い国として、日本の復興行政や、それにかかる財政出動は途上国政府からも注目されており、同僚からも先進事例として質問されることも多いです。そのため日本政府や地方公共団体の取り組みも常に勉強していて、いつかベストプラクティスとしてプロジェクト化するのも今後の目標です。

さらに自分の能力を試したい

「自分がどれだけ売り込める人材なのか」は常に考えておく必要があると思っています。今後のビジョンとしては、国内外の他の機関でも仕事をして、自分の能力を試しながら、より途上国、ひいては困っている地域や人に貢献できるような人材になっていきたいと考えています。世界銀行や国際機関で働くことがキャリアの着地点だと考えると、そこまでしか成長できません。また長く同じ組織で働くことで人材としての成長速度が鈍化することがあり、注意が必要だとも思っています。最近では、世界銀行を一度出て活躍するのがトレンドにもなりつつあります。個人的には社会福祉事業にもとても興味があるので、将来的には、日本や海外で社会福祉に関わる起業もしてみたいとも思っています。

ぜひ先輩に話を聞いてみてください

国際機関への面接に進めるかどうかは書類選考のみで決まります。だからこそ、実際に応募者の職務経歴書が採用側からはどのように見えているのか実際に働いている先輩に相談した方が良いと思います。既に働いている人の話を聞き、自分はどうやって開発に関わっていくか、まずは面接に呼ばれることを意識して具体的なイメージを作っていく必要があります。もし私に質問に来てくれれば、いつでもアドバイスするので、志がある方は私を含めどんどん先輩方に話を聞きに行き、行動してください。今はSNSなど、いくらでも連絡する手段はあります。日本人は「お忙しいから」「迷惑だから」と遠慮がちですが、他の国の人からはたくさん連絡をもらっています。それに私も、学生も含めた若い世代と積極的につながりたいと思っています。Youth Developmentといって若い世代への開発分野への参画がとても大事だと謳われていますし、人口ピラミッドをみても途上国には若い世代が多く、彼らの社会ニーズを理解するためにも国際機関の職員は若い世代と交流していく必要があると思っています。ご連絡をお待ちしています。一緒に頑張っていきましょう。

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