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特集2022年5月1日

インパクト投資を促すMIGA 民間の資金と技術でサステナブルな社会を

* この記事は、国際開発ジャーナル2022年5月号に最初に掲載されたものです。PDFはこちらをご覧ください。


世界銀行グループの多数国間投資保証機関(MIGA)は、開発途上国の政治リスクなどを保証し、対外直接投資(FDI)を促す国際機関だ。途上国の貧困削減と世界の持続可能な成長に向けて、民間の資金や技術はどんな役割を果たすのか。MIGAの長官を務める俣野弘氏に、近年の脱炭素化や持続可能な開発目標(SDGs)、ESG投資の動き、インパクト投資を促す取り組みについて聞いた。

(聞き手:本誌編集委員・竹内 幸史)

 

「2050年ネットゼロ」に向けて

――MIGA は設立当初から日本人が長官を担い、日本の投資家にとって存在感がありますが、MIGA の役割を改めて教えてください。

俣野弘 多数国間投資保証機関 (MIGA)長官
世界銀行グループ 多数国間投資保証機関(MIGA)長官 俣野 弘氏
MIGAは、民間企業から途上国へのFDI を推進する機関として1988年に設立された。メンバーは182カ国・地域に上る。2011年からは民間金融機関などの投資家による融資の債務不履行の保証も行ってきた。

投資家が途上国へ投資する際、最も懸念するのは政治リスクである。政治的なリスクには、配当や融資の返済金の兌換停止と送金制限、国有化・収用などで事業を継続できなくなるような政策の導入、戦争・内乱による資産の破壊や事業の中断、政府の契約不履行などがある。MIGAはこれらのリスクを保証することで投資を促進してきた。保証を受けたプロジェクトは、雇用創出をはじめ、水や電気などの基礎インフラの整備、金融システムの強化、税収確保、環境に配慮した天然資源の活用などに貢献している。

私は、(株)三菱UFJフィナンシャル・グループなどで海外のストラクチャード・ファイナンス(仕組み金融)に携わってきた。グローバルな課題を解決するために、MIGAの役割は一層重要になっていると実感している。

――脱炭素化のアジェンダにどのように対応していますか。

2015年にパリ協定が採択され、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を掲げている。この世界共通の目標を実現するためには巨額の資金が必要だが、公的な資金支援だけでは不十分だ。温室効果ガス排出ゼロ(ネットゼロ)に向けて、途上国へ民間資金が流れるように促していく必要がある。国際復興開発銀行(IBRD)や国際開発協会(IDA)などが環境整備や政策ツールを通じて流れを促し、MIGAも従来の投資の経験を生かして「グリーン投資」の流れを作ってきた。

加えてMIGAは、投融資を裏付ける政策提言も行ってきた。保証の手段だけでなく、どういう政策を進めるかがネットゼロ実現に向けて重要だ。融資と提言の両方を通じて、各国政府をサポートしている。

――脱炭素化への機運は民間セクターでも非常に高まっていますね。

象徴的な出来事として、昨年、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に先立ち、連合組織「ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)」が正式に発足した。賛同機関は世界450以上の金融機関で、資産総額は130兆ドルに及ぶ。今後約30年で脱炭素投資に必要とされる125兆ドルの供給を目指しており、風力や太陽光発電、グリーン水素などの普及に向けた17の投資機会に関するロードマップも発表した。世界の金融業界が一体となった枠組みとして大きなインパクトがある。


全案件でパリ協定の準拠目指す

――コロナ禍が発生して以降のMIGAの取り組み、また今後の方針についてお聞かせください。

新型コロナウイルスの感染拡大でグローバルな投資が手控えられ、2020年度のFDIは42%減と大きく落ち込んだ。MIGAは投資家を呼び戻し、極度の貧困削減を持続可能な手法で実現できるようサブサハラアフリカを中心に支援を強化した。

気候変動対策については、二酸化炭素(CO2)を多く排出している中進国への「気候ファイナンス」を増やしている。2012年以降、再生可能エネルギーを中心とした気候ファイナンス関連の案件は44件以上、総額33億ドル以上に上る。気候ファイナンスが占める割合は2016年度時点で7%だったが、2021年度は26%に上昇した。今後は平均35%以上を目指している。

重要なのは、全てのプロジェクトがパリ協定に準拠している点にある。2021年に、途上国金融機関向け保証案件は除いて2023年までに新規案件の85%をパリ協定に準拠することにコミットした。2025年までに100% にしていく。こうした取り組みは今後、世銀や国際機関だけでなく民間機関のファイナンスのモデルケースになっていくと思う。

また、MIGAは今年、エジプトで実施されるCOP27で国別気候・開発報告書(CCDRs)を発表する予定だ。CCDRsは2050年ネットゼロのために必要な資金や政策を客観的に分析したレポートで、世銀グループや他の開発機関、民間投資家などに向けてロードマップを示すことで、世界がネットゼロに向けて前進できるよう促す。

――ミニグリッドやオフグリッドの開発について教えてください。

SDGsの7番目にエネルギーアクセスがある。世銀などのサポートによって電力にアクセスできる人口が増えているが、アフリカでは電化の恩恵を受けていない人がまだたくさんいる。そのような中、技術の進歩によって、これまでできなかったことが可能になっている。大きな送電網ネットワークの外にある村でも小さなソーラーパネルや風車を立てるなどして電化が実現し、デジタル化の恩恵を受けられるようにもなってきている。

新型コロナの影響でデジタル化や医療の課題が浮き彫りになったが、それらの課題を解決するためにミニグリッド技術の普及を考えている。経済的リターンだけでなく、社会や環境にもプラスの影響をもたらす「インパクト投資家」が増えており、政治的リスクの保証と電力が届く仕組みを提供していく。

また、災害が頻発する中、異常気象に耐えられる「質の高いインフラ」投資の機運が高まっている。CO2が減っても途上国における気候変動の影響は目に見えているため、あらゆる投資においてレジリエンス(耐久性)を高める視点を踏まえることも重要である。


日本企業のパートナーとして

――途上国の債務が膨れ上がっています。累積債務や世界の危機をどう捉えていますか。

累積債務に加え、コロナ禍と気候変動という二重の危機が襲い、さらに米国の金利が引き上げられ、金融システムに大きな負荷がかかっている。累積債務問題を解決するためには、各国の借入状況を把握し、透明性を高めていくことが重要だ。

ウクライナ危機も、ウクライナや周辺地域へ大きな影響を及ぼしている。ロシアの侵攻後、世銀はウクライナへの支援をはじめ難民や周辺地域への食料支援などを続けている。最貧のサブサハラアフリカ地域も厳しい状況にあり、さらなるサポートが必要だ。

――日本企業へのメッセージを

企業にとってもカントリーリスクが高まっている。一方、ここ数年、日本はG20で環境分野の大きな方針を示すなど存在感が高まっている。MIGAは日本企業のパートナーであり、個別の案件一回限りでなく、継続的にアフリカで事業を展開するサポートをしていきたい。リスクを保証するのがMIGAの役割だ。ぜひ東京事務所にいつでも相談してほしい。

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