* この記事は、国際開発ジャーナル2022年4月号に最初に掲載されたものです。PDFはこちらをご覧ください。
「貧困撲滅」と「繁栄の共存」を二大目標に掲げ、開発途上国へ融資や無償支援、政策への助言などを行う世界銀行。気候変動の影響もあって災害が頻発化する中、世銀支援によるプロジェクトはもとより、途上国の国家レベルでの防災強化にも力を入れている。その一環として、2014年に立ち上げられたのが「日本-世界銀行防災共同プログラム」だ。東京防災ハブが運営・実施を担う同プログラムの活動実績は、2022年2月時点で97カ国211件に上っている。
日本と連携した技術協力
2011年3月の東日本大震災から3年後、世銀は日本の知見と世銀グループのネットワークを結びつけるため、「東京防災ハブ」を設置した。同ハブが運営・実施する「日本-世界銀行防災共同プログラム」が目指しているのは、二点。一つは、世銀が支援する全てのプロジェクトに防災の視点を取り入れる、「防災の主流化」の後押しだ。もう一つは、そうした「防災の主流化」を推進するにあたっての、日本の経験・技術・知見の活用だ。
この二つの目標を達成するため、同プログラムでは「強靭なインフラ」「リスクの特定、削減と備え」「災害リスクファイナンスと保険」という3つの重点分野で、日本と連携しながら途上国に技術協力を行っており、2022年2月までに97カ国で211件実施され、多くの日本人専門家が協力した。
事例の一つには、2018年にブルキナファソで実施された事業がある。大雨で大規模な洪水が発生し、首都の交通網が途絶した同国において、都市の交通システムの強靭性を改善するための支援を実施した。洪水やその他のハザードリスクを空間計画に取り入れ、都市交通計画や管理において洪水リスクを体系的に考慮できるようにして、国と市の対応能力の向上を目指した。技術支援にあたっては、日本の兵庫県豊岡市の事前防災行動計画策定の経験が共有された。
このほか、サイクロンや洪水、地滑り、猛暑などの度重なる災害によって交通網の混乱が起きていたエジプトでも、2021年から道路交通を強靭化するための技術協力を続けている。日本の建設コンサルタントや大学と連携し、長崎県と岐阜県の道路資産管理の事例の紹介等を行っている。中でも、両県が持つ人材育成の取り組みや安全な道路を維持するための制度作りに関する経験は、エジプトの行政が道路を安全に管理していく上で大きなヒントになると期待されている。
日本は、世銀内に設置された「防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)」創設以来のメンバーだ。技術協力に加え、東日本大震災の経験を世界に発信する取り組みにも注力している。2012年には災害リスク管理に焦点を当てた「仙台レポート」の作成にも協力した。