Skip to Main Navigation
特集 2020年12月11日

人事が語る~グローバルキャリア構築のための処方箋~ ブログシリーズ 第6回 世銀グループで、自身のキャリア構築のために出来ること (貝塚由美子 国際金融公社(IFC)上級人事担当官)

数年前、ロッククライマーのアレックス・オノルドが、エル・キャピタン(ヨセミテ渓谷)フリークライミングに挑戦した映画「フリーソロ」が、アカデミー賞ドキュメンタリー部門を受賞しました。そして最近、エミリー・ハリントンという30代の米国人女性ロッククライマーが、同じくフリークライミングでヨセミテを登頂し話題になりました。偉大な目標を達成した彼女のインタビューを聞き、面白いと思いました。同じゴールを達成した天才肌のアレックスと比較されながらも、彼女は、自分はアレックスと違い、フリークライミング中に恐怖も感じ、途中で何度か諦めようと思ったと言います。人事という職業柄、私はキャリア開発の相談をよく受けるのですが、彼女のインタビューのコメントと、個々人のキャリア開発の相談に共通点があると感じています。

キャリア開発の話をする際に、次の2つの大前提があります。1.キャリアパスは多様である、2.キャリアのオーナーシップは自分にある、という2点です。今回のブログでは、この2点を掘り下げてみたいと思います。

1.キャリアパスは多様である

一般的にキャリアパス(目標とするポジションへの道筋)は、多くの場合、昇進、昇格などのように縦に上がるイメージが強いと思います。世銀グループ内でも同様に、毎年のグレード昇格のアナウンスメントは注目をあびます。しかし、ポジションが上に行けば行くほど空席も減り、次のグレードへの昇格の可能性は少なくなります。私の所属する国際金融公社(IFC)では、特に近年この点が顕著で、仮に個人の専門性や実績が次のグレードレベルの必要とされる能力・技量を満たしていても、その部門で次のグレードレベルに空席がなければ、昇格はありえません。この点は、IFCほど厳密ではないにしろ、人事の他業種ネットワーキングでも、業種に関わらず多くの組織で見受けられる傾向として取り上げられます。よって、世界銀行グループの人事としては、キャリアパスを、必ずしも縦に上がるのではなく、キャリアを広げる(横や斜めに動くこと)を考えることとして推奨しています。

それでは、キャリアを広げるという点について、もう少しわかりやすく説明します。最近の人事のワークショップでも扱っていたのですが、キャリアパスを公園のジャングルジムをイメージとして説明したいと思います。仮にジャングルジムの頂点を、自分が目標とするポジションのゴールとします。ジャングルジムの下からゴールまでたどりつく際の道筋は一つではありません。最短距離で一気に上がる場合もあるでしょうが、多くの場合、横や斜めに動きながら進むでしょう。或いは途中で息がきれ諦めそうになって、少し休息をとり、体力を温存してから進んでいくこともあるかもしれなません。キャリアパスに言い換えれば、現在と同じ職種において、より幅の広い経験やスキルを積むこと(例えば、異なるプロジェクトチーム、地域、業種を経験すること)がキャリアを広げる例となります。今まで培ったスキルを活かしつつ、さらに多様な経験を積むことで、より応用のきくキャリアとなります。一方、家族、自身の健康、社会的環境などの理由により、一定期間休暇をとり、次のキャリアのステップを踏み出すタイミングを計るという場合もあります。よって、目標とするポジションが同じでも、個々のキャリアパスは多様なのです。つまり前任者のキャリアパスを参考にはできても、同じキャリアパスを選択すれば、自分が同じポジションに達するというわけでは必ずしもありません。逆に言えば、同じようなキャリアパスではなくても、最終的に目標にたどりつく道筋は多様にあると言えます。

 

2.キャリアのオーナーシップは自分にある

次に、私が所属するIFCの人事プログラムで推奨しているキャリア開発について、一部紹介したいと思います。ここでは、自身の経験や能力を振り返り、今後のビジネスニーズと自分の興味のあるキャリアの方向性を繋げ、目標とするキャリア実現を成功に導くために、4つのステップ (認知、選択、実行、進捗)を用いています。このステップでは、各自が自身のキャリアについて考え、マネージャーや組織内のリソースを活用し、行動することが求められています。重要なのは、「キャリアのオーナ―シップは自分にある」ということです。

a)認知 自分自身を認知し、キャリアの棚卸しを行う。自分のキャリア志向、スキル、強み、仕事の進め方、環境などを振り返る。

  • 自己質問例:
  • 自分の強み、ユニークなスキルは何か?
  • 仕事内容や、進め方の志向は何か?
  • 現在の役割についてどう思うか?自分のキャリアの目標、興味は何か?これはビジネスの戦略や、優先事項とどのように関係があるか?
  • 中長期的(1-2年後、3-5年後等)には、どのような職種を目指したいか?そのために必要なスキルは何か?アクセス可能なネットワークや、リソースは何か?

b)選択 目標とする職種に必要なスキルや経験を積むために、自身のキャリア開発の選択肢として「70:20:10の法則」を使用している。

世銀グループ内での例:

  • 70% 経験:短期・特殊アサイメント、シャドーイング、タスクチーム、ローテーション
  • 20% 薫陶:メンタリング、コーチング、ロールモデル、360度フィードバック、プロフェッショナル・ファミリーなどのネットワーク 
  • 10% 研修:テクニカルトレーニング、リーダーシップトレーニング、各種資格

c)実行 IFCでは四半期ごとに、各自がそれぞれのマネージャーとキャリアに関するミーティングを行い、自身のキャリアについて話をすることを推奨している。

キャリアミーティングのポイント:

  • 自分が次に興味のある職種、方向性を伝える。
  • 興味のある職種における、必要な知識やスキル。現在とのギャップをどう補うかを検討する。
  • 「70:20:10の法則」において、どのようなサポートが可能かを合意する。
  • 具体的なアクションプランと各四半期マイルストーンを合意する。

d)進捗 自分の目標とするキャリアの方向性に対し、キャリア開発の進捗状況の自己評価を行う。

自己評価質問例:

  • 何が達成できたか?達成できなかったことは何か?理由は?
  • この経験から得たものは何か?それはどのようにキャリアの目標につながるのか?
  • 目標に近づくための、次のステップは何か?

以上の4つのステップは、世銀グループ以外でも、十分に参考になると思います。正直に言うと、IFCで、全ての職員がこのステップを完璧に行っているわけではありません。ただし、こういうステップを踏むことによって、自分のキャリアのオーナーシップを担うことができるはずです。


まとめ

IFCでは、ここ数年、日本人採用活動が軌道にのり、職員数が倍増しました。これまでは、組織内での日本人の数が少ないことが必ず毎年話題になっていましたが、最近は、組織内でも様々な部署及び全ての地域で日本人職員が活躍しています。一方、世界銀行グループとしてのミッションを重視し、開発に対する情熱を持っていた何人かの同僚が、しばらくして組織を去って行ったのも事実です。縦に上がるキャリアの限界、それに伴う報酬等の限界により、モチベーションを保つことが難しくなったことも、理由の一部にあるのではないでしょうか。上に行けば行くほど昇格の可能性は少なくなっていきます。また、欧米民間企業出身者も数多くいますが、そうした企業のボーナスのような報酬制度があるわけでもありません。こうした中、人事担当として、私がこれから特に注力したいのは、いかに日本人職員がモチベーションを高めて組織の中で活躍できるかということです。「キャリアパスは多様である」、「キャリアのオーナーシップは自分にある」という、キャリアの二つの大前提は、現在の環境でモチベーションを高め、自身のベストを発揮するためにも、重要な意味を持ちます。

先日、IFCではコーポレート・アワード(世界銀行グループ対象)や部門表彰が発表されました。今年はその中に日本人職員の名前を多く見つけ、とても誇りに思いました。これからも、世銀グループの中で、多くの日本人職員がそれぞれの目標とするキャリアを形成できるよう、人事担当者として出来る限り貢献していきたいと思います。

 

筆者略歴

Image
貝塚由美子 国際金融公社(IFC)上級人事担当官
Yumiko Kaizuka, Senior HR Officer, Talent and Incentives, Human Resources, IFC

2012年より国際金融公社(IFC)ワシントン本部にて現職。IFCのオペレーション、管理部門の部門人事ビジネスパートナー担当を経て、現在、人材戦略・育成の人事プログラム部門にて、マネージメントローテンション及びキャリア開発を担当。2018年よりIFCの日本人採用ミッション人事統括。大学卒業後メリルリンチ証券会社にてトレーディング業務従事。MBA留学後は同社にて採用、研修、人材育成を担当。その後ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社、HOYA株式会社にて勤務。東京、米国、シンガポールを拠点にグローバル人事及びグローバルプロジェクト担当。ペンシルベニア大学ウォートンスクール経営学修士。2016年ジョージタウン大学で組織開発コンサルティングのプロフェッショナル資格取得。



Api
Api