2020年6月19日
世界には災害の影響を受けやすい国々があり、こうした国の多くは、自国の文化遺産を災害による被害から守ろうと苦闘しています。近年、世界各地で洪水、暴風雨、地震、地滑り等の発生により文化遺産が大きな影響を受けていますが、途上国は自国の文化遺産の管理、保護に投資するリソースに乏しいが故、さらなる課題に直面しています。文化遺産を抱える地域では、維持管理の不備、問題を解決するための技術的専門性の不足など、天災、そして気候関連の災害にまつわる特有の課題や脆弱性に直面しています。
自国の文化遺産の強靭性確保という点で世界の先頭に立つのが日本です。これは日本、そしてその豊かな文化遺産が、甚大な被害をもたらす天災にしばしば襲われているからであり、このことは1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災および津波から得た教訓からも明らかです。「途上国における防災の主流化のための日本―世界銀行プログラム」の支援による災害に強い文化遺産と観光(RCHT)プログラムでは、このような日本の専門的知見を記録に取りまとめ、世界中の多くの途上国と共有してきました。
災害リスク管理、文化遺産、および公共政策各分野における世界各国の実務者は、自国の文化遺産や持続可能な観光、そしてコミュニティの災害に対する強靭性向上を目指しています。RCHTプログラムでは日本の経験を紹介することで、こうした国々を支援しています。また、この技術支援プログラムは、ウズベキスタン中規模都市総合都市開発プロジェクト(Uzbekistan Medium-Size Cities Integrated Urban Development Project)へ貢献するとともに、2021年開始予定のフィリピン持続可能な観光プロジェクトの策定にも協力してきました。さらに、ブータン、ミャンマー、ラオス、ベトナム、タンザニア、中央アメリカにおいて進行中および新規プロジェクトに対する技術支援も手掛けています。
最近発行されたナレッジノート「災害に強い文化遺産:日本の経験に学ぶ」では、主に3つの項目を中心に日本から学ぶことのできる優良事例と教訓について考察しています。
- 制度上の枠組み: 日本の文化機関および 災害リスク管理機関ならびに主要関係者、関連法と政策、そして災害から文化遺産を保護するための関連予算について紹介しています。また、自国の文化財を有形文化財、無形文化財、民俗文化財、記念物、文化的景観、伝統的建造物群保存地区の6つに分類して選定・指定する日本の制度を、重要な取組の一つとして焦点を当てています。
- 文化遺産における災害リスク管理の実践-リスク特定から災害後の強靭性を考慮した復興まで: 文化遺産を抱える地域における災害リスク管理・リスク削減に向けた対策の立案と実施について、日本の実践的な経験を紹介しています。ここでの焦点は実践的なアプローチと具体的な事例、そして過去の経験と災害からの教訓で、火災、地震、洪水、地滑り等の主な災害を取り上げ、それに関連する手法や対策についても触れています。
- 文化遺産における災害リスク管理へのコミュニティ参加: 日本の地域社会と行政が災害に対する文化遺産の強靭性構築に向け、どのように協働しているのかを論じています。地域社会は極めて重要です。文化財を主に利用し守り続けてきた当事者であり、その保全と管理に重要な役割を果たしているからです。また、周囲の環境に精通し、防災の専門チームよりも早く現場に駆け付けることができることから、災害に迅速に対応できます。
このナレッジノート作成に当たっては、国内外の専門家が協力し、日本の経験を有用な優良事例として取りまとめ、紹介しています。ウズベキスタンとブータンでは、このアプローチを基にしたパイロットプロジェクトの開発が行われ、成功を収めています(詳細については関連リンクをご参照ください)。両国には日本人専門家が赴き、ワークショップや現地視察を通じ、文化遺産についての両国特有の課題の分析や有望な解決策の策定などの支援が行われました。
RCHTプログラム開始当初から、日本の専門家の参加は必要不可欠なものでした。文化庁とR-DMUCHには、2017年4月の実務者研修会合の立ち上げ時から協力を賜っています。また、国際協力機構(JICA)、兵庫県および京都府教育委員会、横浜市立大学等にもナレッジノートの作成に多大なる貢献をしていただきました。
RCHTプログラムは2020年度末に終了します。しかし、このプログラムによってシナジーが生み出され、連携体制が構築され、日本の専門家から学びが得られたことで、今後も途上国における文化遺産とコミュニティの強靱性強化に向けた新たな機会が創出され続けていくことが期待されます。