2019年11月20日
東京
国際協力機構(JICA)、男女共同参画と災害・復興ネットワーク(JWNDRR)、カリフォルニア大学デービス校(UCデービス)が主催する国際シンポジウム「激化する災害対応としての防災集団移転―多様性とジェンダー視点から」が、世界銀行東京防災(DRM)ハブの共催の下、開催されました。本シンポジウムでは、ネパール、フィリピン、米国、日本での事例が報告されました。
シンポジウムにおける防災集団移転の定義 防災集団移転とは広く、自然災害リスクを管理を目的とした建物の移転や土地の放棄を指します。世界的に洪水、海岸浸食、海面上昇等が人命と財産を脅かす中、防災集団移転のトピックは広く取り上げられるようになっています。 出典:UCデービスウェブサイト(英語) |
シンポジウムの冒頭、開会の挨拶として、安達一 ・国際協力機構(JICA)社会基盤・平和構築部長は、世界の途上国における災害への強靱性強化に向けたJICAの継続的支援をはじめ、長年にわたり自然災害に立ち向かってきた日本の経験から、その知見を途上国のために活用することの重要性に言及しました。また、宮崎成人・世界銀行駐日特別代表は、日本政府と世界銀行が引き続き連携するとともに、東京防災ハブがプロジェクト・サイクル全行程を通して災害リスク管理の主流化を支援することの重要性を強く訴えました。
堂本暁子・JWNDRR代表は、パネル討論に先立つ基調演説の中で、防災政策に係る意思決定プロセスにはさまざまな社会的立場にある人々の視点を取り入れることが重要であると強調しました。JWNDRRなどの団体による、2011年の東日本大震災で得られた教訓に基づいた提言は2013年内閣府策定の「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」に取り入れられました。以来、国内避難所の設立と運営などをはじめ、女性ならではのさまざまなニーズに対応した事前準備・復興活動が実施されています。
パネル討論―各パネリストの発表要旨
田中由美子・JWNDRR副代表がモデレーターを務めたパネル討論では、前半に防災集団移転という概念の紹介を中心に、それをめぐる日米間の相違、利点と課題なども含めて議論が行われました。後半では、国内外の事例に基づいて、防災集団移転と土地利用計画に係るコンセンサス構築過程で生じる社会的課題が示されたほか、持続性という観点から、プロジェクトにおける強靱性の融合に極めて重要な優良事例が紹介されました。e
石渡幹夫JICA国際協力専門員(防災・水資源管理)は、防災集団移転に関する日米合同調査の結果を発表しました。本調査は、日本の東北地方と米イリノイ州バルメイヤーの事例で得られた教訓を比較検証したものです。主な調査結果は次のとおりです。
(i)両国共通の教訓:防災集団移転を円滑に実施するためには、計画策定プロセスへの地域コミュニティの参画が必要不可欠
(ii)バルメイヤー復興の鍵:産業と商業施設の開発を長期計画に組み込んだこと
(iii)東北地方復興を支えた優良事例:脆弱層の安全を確保するために、政府が復興支援住宅を提供し、見回りサービスをルーチン化したこと
ニコラス・ピンター・UCデービス教授は、ルイジアナ州アイル・デ・ジーン・チャールズをはじめ、ロサンゼルス、バージニア州グランディーの事例に関する最近の研究結果を用いて米国における防災集団移転の現状を詳説し、オーストラリアと日本を含む過去の事例から得られる教訓として次の点を挙げました。
(i)費用対効果の高いホリスティック(包括的)な防災対策となり得る
(ii)社会構造と地域コミュニティのつながりを維持する上で効果的な手段である
(iii)数多くの過去の事例からさまざまな教訓を得ることができる
(iv)気候変動と洪水被害の増加傾向により求められている、将来に向けた幅広い対応策の1つである
ネパールのNPO団体LUMANTIの設立者であるルマンティ・ジョシ・プログラムマネージャーは、2015年のゴルカ地震後の復興活動において女性参画と地域エンパワーメントに取り組んだ経験を報告しました。LUMANTIの働きかけにより女性が集まることのできるスペースが確保され、ワークショップを開いて地元自治体や政府と協力しながら避難所運営に関するアイデアを出し合うことが可能となったのです。女性と女性協同組合、地域コミュニティが計画策定プロセスに参画することで費用対効果の高い復興活動が実現し、地域の文化遺産がより良い形で保全され、不要サービスの提供が全体的に改善されました。
迫田恵子・世界銀行防災専門官は、全ての人の災害に対する強靱性を向上させるプロジェクト設計の一環として、排除されがちな異なる立場の人々のニーズを取り入れることが重要であると強調。さらに、南アジア地域での世界銀行の出資による既存および新規の防災プロジェクトや今後新たに展開される防災プロジェクトにおいて社会的包摂を促進するために、プロジェクト単位の行動計画策定で行った分析助言サービスについても関連事例を発表しました。その1つがスリランカの洪水被害軽減プロジェクトです。分析に基づく社会的包摂案は、次の3つがプロジェクト設計の一部としてClimate Resilience Multi-Phase Programmatic Approach (CResMPA、P16005、2019年6月承認)に取り入れられました。
(i)川と地域コミュニティ間の結びつきを向上
(ii)再定住支援の一環として土地・財産の権利を男女で共同所有する選択肢を提供
(iii)視聴覚障害などを持つ弱者のために早期警報システムを強化
荒仁・JICA社会基盤・平和構築部、都市・地域開発グループ長は、各地区が直面する災害リスクへの認識を高めるために地元自治体と地域住民との間でどのようにハザードマップを共有したのか、またそれがいかにプロジェクト関係者が災害リスク軽減のために土地利用計画を改善する上で有効であったのかを説明しました。「バランガイ」と呼ばれるフィリピンで最も小さい地方自治単位レベルで数多くのワークショップを開催し地域住民の意見を統合することで、これまでよりも包括的で広く住民に受け入れられる土地利用計画を策定できたとも述べています。
地域特性を考慮しながら都市部インフラの災害に対する強靱性を強化し、各プロジェクトの持続性を確保するためには、計画策定・意思決定プロセスのあらゆるレベルにおいて地域コミュニティの参画とさまざまな社会的立場にある人々の包摂を実現し、人々のニーズと視点を反映させることが極めて重要です。世界銀行は今後も、防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)のジェンダー・アクションプラン(GAP)を通じて、多様性とジェンダーの視点ならびにジェンダー特有のニーズをプロジェクト投資に取り入れていくよう努めて参ります。さらに防災活動における障害者の包摂、および仙台防災枠組み優先行動への関与促進に対して投資がどう効果的であるかについても、GFDRRと共に提言と行動計画を提供しています。