2019年9月24日
東京
水と公衆衛生、エネルギー、交通および通信といったライフライン・インフラは、人々の生活の質を向上させ、維持するために不可欠であると普遍的に考えられています。それにもかかわらず、とりわけ低・中所得国に住む多くの人々は、信頼性の低いインフラサービスがもたらす悪影響を受けており、こうした脆弱なシステムが直面する問題は自然災害によってさらに拡大します。世界銀行は、最近発表した『ライフライン:強靱なインフラ構築がもたらす機会』の中で、この開発課題への取り組みについて報告しています。
世界銀行東京防災(DRM)ハブは、このライフライン報告書の発表を記念し、2019年9月24日に第22回公開セミナーを開催。財務省国際局開発機関課長の米山泰揚氏をお迎えし、開会挨拶にて同氏は自然災害に対する強靭性構築の重要性を強調しました。またセミナーでも、政策やインフラ・プロジェクトの設計における防災の主流化には日本と世界銀行の協力が重要であると力説され、報告書の主要な結果や勧告をクローズアップ。優れた実践や強靭なインフラに関する教訓について、パネルディスカッションを進行しました。
世界銀行主席エコノミストでライフライン報告書の主執筆者であるステファン・ハレガッテ氏、内閣官房国土強靱化推進室内閣参事官の河村賢二氏が行った基調講演では、両氏が強靭なインフラの向上に向けた世界的課題や機会について説明するとともに、日本が「国土強靭化プログラム」を通じていかに強靭性の構築に積極的に取り組んでいるかを強調しました。
ライフライン報告書の主要な研究成果 ハレガッテ氏はライフライン報告書の研究成果、また自然災害がインフラに及ぼす直接的・間接的影響の規模を紹介しました。同氏によれば、途上国での損害費用や修理費用は年間で180億米ドル、更にインフラ破壊が家庭や企業にもたらす損害に対する費用は、3,910〜6,470億米ドルにも上るということです。強靭なインフラにこれまで以上の投資をすることで、新たな資産の寿命を通じて4兆2,000億米ドルの経済純便益をもたらすことが、この報告書により示されました。同氏はまた、インフラが崩壊した際にかかる費用を見積もり、ネットワーク投資のクリティカリティ(危険状態)を判断するための解析ツールを開発したことについても説明。こうしたツールは日本プログラムのサポートを得て、世界銀行の投資プロジェクト全体で運用されています。 |
世界銀行東京防災ハブと世界銀行防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)は、今後も日本—世界銀行プログラムを通じて日本の知見や専門知識を発展途上国と結び付け、強靭なインフラの向上に寄与していきます。総括セッションでは、パネルディスカッションのモデレータとしてジュリー・ダナ氏(GFDRR)が、防災というテーマに対する日本の強いリーダーシップや公開セミナーへの参加に感謝の意を表しました。同氏は、学界や専門家からの技術情報の提供、ピアレビュー、そして報告書で触れられている様々な事例研究を通じたライフライン報告書の整備には、日本の支援が不可欠であると強調しました。
登壇者の齋藤政史氏(浜松市)は、官民パートナーシップ(PPP)構造の下での強靭性向上、ステークホルダー間での災害リスク配分を通じたリスク管理強化の機会について発表。佐久間仁氏(東日本高速道路株式会社)は、BCP(事業継続計画)の策定、高速道路用ICTベースの資産管理の新たな取り組みなどについて話しました。また竹田大輔氏(東芝エネルギーシステムズ株式会社)は、災害対応強化に寄与する電力供給安定化技術を中心に、エネルギー・プロジェクトで用いられる様々な技術的解決策について発表し、北村慎也氏(株式会社帝国データバンク)は、経済活動ネットワークの可視化にビッグデータがいかに役立つかを強調、洪水や地震の被災地域での災害後の商取引についての事例を紹介しました。セミナーでは日本の官民の専門家を招いてのパネルディスカッションも行われ、災害対策やインフラ資産強靭化の向上、インフラ重複、継続計画、ビッグデータ分析を通じた重要なサプライチェーンの維持における官民の関与に関する機会や課題について掘り下げました。