2019年7月19日
インド、デーラー・ドゥーン
インドは洪水や地滑り、地震などの災害による被害にたびたび苦しめられており、リスクにさらされた何百万もの人々の生活に影響を及ぼしています。とりわけ都市部の貧困層といった脆弱層は、災害により、深刻な人的・経済的損失を被っています。この状況は、危険な建築都市環境によってさらに悪化しかねません。建物の損傷や火災などの繰り返し発生する小規模事故も、深刻な影響を及ぼすことが経験によって示されており、強靭性を高める効果的な対策が取られない場合、こうした影響は増大します。現在、しっかりとした建築規制を施行することがインドにおける優先事項の1つとなっています。
日本―世界銀行防災共同プログラムは、世界銀行東京防災(DRM)ハブが運営・実施しています。世界銀行の建築規制を活用した防災 (BRR)プログラムが開発した 建築規制能力評価 (BRCA) ツールを活用し、インドのウッタラカンド州およびアンドラ・プラデシュ州、ジャンム・カシミール連邦直轄領、ラダック連邦直轄領において、現在の建築規制能力の評価、規制強化のため、優先すべき取組みを定める支援を行っています。この支援は、建築規制における日本の知見と経験をインドと結びつけ、規制の枠組みや規制能力の構築を通して強靭性に関する教訓を適用することを目的としています。
2019年7月18日、ウッタラカンド州災害管理局(Uttarakhand State Disaster Management Authority [USDMA])がインド・エネルギー資源研究所( Energy and Resources Institute [TERI])と共同で、「インドにおける建物の災害リスク軽減のためのBRCAワークショップ」をデーラー・ドゥーンにて開催し、そこにはウッタラカンド州政府関係者、災害軽減管理センター(Disaster Mitigation and Management Center [DMMC])や州災害対応部隊の職員、そして国内の2州、2つの連邦直轄領から実務担当者が招かれました。このワークショップの全体目標は、現地の規制枠組み、ステークホルダーが果たす責任、ステークホルダーグループ間での調整、そして規制の実施メカニズムに関するBRCAの評価結果を共有し、同評価の提言を具体的な行動に移す戦略について意見交換をすることでした。
本ワークショップの成果と提言
ウッタラカンド:効果的な規制の実施により強靭性を実現
ウッタラカンドは、インドで最も災害の多い州の1つです。同州は、州全体のリスク評価の研究およびUSDMAが行う災害リスクデーターベースの作成という支えの下、州がさらされているリスクをよく理解しています。その一方で、建築規制の整備は依然として優先課題の1つとなっています。しかし、ウッタラカンド州は、州の法律制定に建築の法令や条例を含めようと試みてきました。これは今後、建築基準を遵守するための基本的枠組みとなっていきます。
条例の施行を成功させるには、既存の規制を改定または、更新するための技術的情報または技術的プロセスが役立つことがあります。具体的には、地域のハザードマップを盛り込む、州条例の一部として構造基準を設ける、市や州レベルで許可手続き用のデジタルプラットフォームを強化するといったことが挙げられます。
私たちにとっての最大の課題は規制遵守です。建築条例の徹底遵守を確実にする効果的な方法を考案することが急務です。それが地域社会の安全と安心を確保する唯一の方法ですから」。ウッタラカンド州災害管理局長官、アミット・シン・ネギ氏
アンドラ・プラデシュ: 包括的な規制能力の構築に向けて
近年、州当局が一丸となり、災害リスク軽減や沿岸域規制を強化し、文化遺産の強靭性を高める努力をしてきました。この他の重点分野には、建築規制に向けた手続き方法の改正、認可プロセスを効率化するためのデジタル技術への投資、そして審査が確実に技術者により行われるような仕組み作りがあげられます。これにはスキルが高く研修を受けた職員が必要ですが、その数は不足しています。
建築規制に関わる政府関係者の能力とその範囲を高める取り組みの一環として、同州では専門的な必要条件を定めた11種の技術プロフィール(認定技術者)のガイドラインの作成を目指しています。職員の能力構築に向けて長期的に取り組むには、様々な技術の専門家に対し、多様な重点項目(火災、アクセシビリティ、検査など)について適切な研修機会を提供するという持続的なコミットメントが必要です。また、適格な職員を見つけることも求められます。
ジャンム・カシミールおよびラダック:イノベーションを通じた長期的な持続可能性の実現
ジャンム・カシミールおよびラダックは複数の危険要素にさらされており、地域の脆弱な状況のため開発指数が低くなっています。地震のような大規模災害といった苦難と、火災のような慢性的な危険とが相まって、さらには地域の寒い気候やアクセス経路の不便さにより状況が悪化することとなります。このため技術的な問題だけでなく、開発をする上で社会的・文化的側面にも配慮した革新的な規制の枠組みを、説明責任と透明性の原則に基づいて整備する必要があります。
効果的な実施に向けた今後の道筋
このワークショップでは、現在の政治的意志を生かしながらコンセンサスを形成し、優先提言事項の妥当性を検討することで、州レベルの協議を通じてフォローアップに向けた土台を築きました。積極的で革新的な広報キャンペーン、確かなリスクファイナンス戦略、そして政治的サポートが、建築都市環境に関する法律を状況に適した形でより良く整備できることにつながります。こうした取り組みは、より安全で、より強靭な建築都市環境を実現するために設計された行動計画の策定を後押しし、これはインドの他の州でも採用されていく可能性があります。