先進的な技術を備えた日本は一方で、世界でも類を見ないほど自然災害の多い国でもあります。こうした背景を踏まえ、日本は、人・インフラ・建造環境・統治システムの強靭化に不可欠な手段となる科学技術の開発・活用に有効な知識の創出、および革新的なソリューションの蓄積において、先駆け的存在となっています。
2018年2月23日、日本政府、世界銀行、世界銀行防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)、国際協力機構(JICA)はイベント「TECH 4 BOSAI:日本の防災技術の活用」をワシントンD.C.の世界銀行本部で開催しました。イベントでは、日本が災害リスクの軽減と管理の取り組み、すなわち「防災」に、科学・技術・イノベーション(TECH)をどのように活用しているかが紹介されました。
世界銀行において、技術とデジタルソリューションは、クライアント国が貧困の緩和と共栄を実現するための支援を提供するのに不可欠な要素として、急速にその重要性を増しています。防災に技術を活用する上での日本の専門知識を伝えるセッションでは、より広範囲にわたる開発の中で強靭性を高めるためのTECHソリューションの導入についての議論が活発に行われました。
日本における防災技術:概要
- Incorporating Science and Technology for Disaster Reduction, the Japanese Experience (PDF)
日本地域開発センター総括研究理事の西川智氏は、防災技術の活用を可能にする主な要因(災害の歴史、政策的な背景、政府・学術機関・民間セクターの役割など)を取り上げ、日本の技術が災害リスクの特定、減災、災害管理を強化する方向に発展していった経緯を紹介しました。
- Innovative Science and Technology for Reducing Water-related Disaster Risk (PDF)
水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)センター長の小池俊雄教授は、日本のICHARMとDIAS(データ統合・解析システム)による革新的な科学技術イニシアチブおよびツールについて説明しました。イニシアチブの例では、全体的な活用法として、気候変動、データ統合、降雨流出氾濫(RRI)シミュレーション・モデル、農業干ばつ監視・予測などの事例が紹介されました。
TECH 4 BOSAI:民間セクターとJICAの役割
イノベーションと持続可能な開発目標の専門家として日本防災プラットフォーム代表の西口尚宏氏が登壇し、社会と産業に対して最大限の影響を与えるための世界銀行グループ、国際協力機構(JICA)、民間セクターによる共同の取り組みが重要であると述べ、日本防災プラットフォーム会員である日本のTECH企業2社の紹介を行ないました。それに続き、国際協力機構は日本の技術を途上国でのニーズに結びつけるイニシアチブに関するプレゼンテーションを行ないました。
- 防災のための情報通信技術(ICT・PDF)
NTTデータのシニア・スペシャリストの八田利弘氏は、ICTが日本とASEAN諸国でどのように災害リスク管理能力を向上させているかについて、その事例を紹介しました。ICTの応用例として、(1) 総合的な早期警報システム、(2) 災害情報共有システム、(3) SNSデータ分析システムが挙げられました。NTTデータは日本の大手システムインテグレーターです。八田氏は公共部門と民間部門の両方の分野での多大な経験を元に、国と地方自治体、ならびに重要なインフラと業界での災害に強いITシステムの開発・運用・保守に関する教訓と先進事例を語りました。
- 防災のためのインプラント構造物(PDF)
技研製作所の海外事業担当執行役員の八重樫永規氏は、重要インフラが地震や津波などの災害に直面した際の強靭性を高める最先端技術を紹介し、技研インプラント構造物の設計と応用例を引き合いに出しながら、斜面の安定化と構造物の強化に関する独自の技術がいかに日本と世界で防災に役立っているかを紹介しました。
- 日本の技術を途上国での防災対策に組み込んできたJICAの経験(PDF)
国際協力機構(JICA)地球環境部次長 防災グループ長の涌井純二氏は、地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)に関するJICAのイニシアチブ、および途上国での強靭性向上に最先端技術研究を応用する際に関係者全体が学んだ教訓について語りました。涌井氏は、TECHをさらに広く応用でき、現場で使えるものにするための運営上の主な要件を指摘しました。
- TECH 4 BOSAI:未来的ソリューションを現実可能に (PDF)
パネリストは、日本が強靭性向上にTECHソリューションを開発・応用する上で得てきた教訓を取り入れながら、中・低所得国による災害リスク低減の取り組みを支えるために知識とソリューションを役立てるための方法を検証しました。国際協力機構(JICA)の上席国際協力専門員の竹谷公男教授は、革新的な防災TECHソリューションの応用には建築基準および法的・制度的枠組みの構築を通じた人的資源、データ収集、システム設計での多大な事前投資が必要であると述べました。こうしたイノベーションを実現可能にする環境の構築には時間がかかりますが、竹谷氏は革新的なTECHソリューションは持続可能な開発目標の達成に不可欠であることを再度強調しました。パネリストは、防災のための技術の応用を推進するために主要開発パートナー、各国政府、民間セクター間の連携を強化することの重要性を強調して、セッションを締めくくりました。