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特集2017年9月22日

高橋孝郎 国際金融公社(IFC)インベストメント・オフィサー~第48回 世銀スタッフの横顔インタビュー

テンポよく快活な語り口から、開発に対する思いや熱意がまっすぐに伝わってくる。インタビュー中に「面白い、楽しい」という言葉が何度も出てきたのだが、興味のあることを追い求め、周囲のアドバイスを聞いて独自のキャリアを築いた結果、若手のインベストメントオフィサーを雇用するIFCのYPPを通じて入社。ワシントン本社とジャカルタ事務所でマイクロファイナンスを担当、現在はデジタルファイナンス、フィンテックに関する投融資を進める業務を紹介する。

Takao Takahashi

The World Bank

2012年YPP(注) (採用時は前身のグローバル・トランザクション・チーム・プログラムで入社)を通じて国際金融公社(IFC)入社。金融機関グループで、デジタル・ファイナンシャル・サービス(DFS)、フィンテック、マイクロファイナンスへの投融資を担当。2013年からの2年間はジャカルタ事務所に駐在。現在はワシントンDCの本社から、地域の垣根なくアフリカ、東南アジア、南アジア等の案件を担当している。大阪府出身。法学士(京都大学)、外交学修士(ジョージタウン大学MSFS)。マッキンゼー&カンパニーにて日本および海外における金融関連プロジェクトに参加した後、修士号を取得。修了後、2011年より1 年間ブータン政府首相フェローとして同国中央銀行で金融を通じた貧困削減に取り組んだ。著書に「ブータンで本当の幸せについて考えてみました。 -『足るを知る』と経済成長は両立するのだろうか?」

YPPというプログラムに応募してIFCへ

IFCには2012年に入社しましたが、きっかけは、ブータンで首相フェローとして勤務していたときにYPPの募集を見つけたことです。ジョージタウン大学院生のときにIFCのインクルーシブビジネスという部署でインターンシップをしていたこともあり、IFCで働くことに興味がありました。IFCは、世界銀行グループとして貧困削減を共通の目標としつつも、世界銀行が途上国政府に融資するのに対して、IFCは民間セクターに投資や融資をすることによって経済を活性化させ、持続可能な形で繁栄の共有をしようというミッションがあります。僕が大学院での授業を通じて関心を持っていたマイクロファイナンスの潮流も、ドナーの支援に頼らずに利益を出して組織をより成長させ、より多くの人々に金融へのアクセスを提供することでしたので、ミッションに共感できるIFCに入社したいと思いました。

YPPは、特に若手のインベストメントオフィサーを雇用し、最初の1年は本社の動きを学び、次に途上国のフィールドオフィスで現場の経験を積むプログラムでした。ブータンに滞在している間に3回ほど電話で面接をして、最終的にはワシントンで1日かけてパネル面接や筆記試験などを行いました。筆記試験は、1時間で投資に関するケーススタディを見て案件の分析をしたり、ファイナンシャルモデルをエクセルで行うといったものでした。コンサル時代にパワーポイントは使っていましたが、ファイナンシャルモデルを立てることはしていなかったので、エクセルの成績はあまりよくなかったと思います。それよりも、これまでのマッキンゼーやブータンでの経験や、興味があることにチャレンジしていく姿勢が買われたのかな、と自分では思っています。

YPPで入社してよかったこととは?

IFCには投資銀行や商業銀行出身の方が多く、自分と同じようなバックグラウンドを持つ人があまりいなかったので、最初は「こいつは何ができるんだ?」という目で見られていたと思います。でもチームの戦略作りを任され、データ分析をして課題を戦略に落とし込み、パワーポイントでプレゼン資料を綺麗に作成して持っていったら、マネージャーの見る目が変わりましたね。それからは仕事も任せてもらえるようになりました。

YPPは本社での1年を終え、次に途上国に行く際に、転勤先のオフィスは自分で見つけてくる必要があります。その点僕はラッキーで、入社して最初に担当したジャカルタの案件のチームに仕事ぶりを評価され、先方に「希望するならぜひ来ていいよ」と言っていただきました。ジャカルタのオフィスで2年間仕事をした後、今は本社に戻り、インドやパキスタン、中東やアフリカなど、地域に限らない広い範囲の案件を担当しています。

The World Bank
YPPとして入社してよかったのは、最初に本社でグローバルな案件を手がけることができたこと、そして次にフィールドオフィスで現場ならではの体験ができたことですね。本社とフィールドオフィスでの動きって、全然違うんです。本社にいたからこそ部署全体の動きや本社の戦略について勉強できましたし、最初の1年で東ティモール、インドネシア、チリという経済状況も地域もさまざまな案件に関わることができました。また、インドネシアのオフィスではクライアントと毎日のように会って交渉をしたり関係性を築いたりとダイナミックな経験ができ、新興国の経済が日ごとに動くのを実感できました。その2つの環境を短期間にローテーションで体験できたのは、やはりYPPで入ったからこそだと思います。

テクノロジーを活かして多くの人に金融サービスを届けたい

現在の仕事としてはデジタルファイナンシャルサービス(DFS)やフィンテックと言って、モバイルウォレット等のテクノロジーを使うことによって、今まで既存の銀行では手が届かなかった人たちにも金融サービスを提供することを手がけています。銀行の支店を置くことは、コストが高いために途上国の地方では実現できない。しかし例えばケニアでは、M-PESAというモバイルウォレットがすごく普及していて、どんな田舎でもそれを利用すれば金融決済ができてしまうんです。そういったテクノロジーを発展させ、より多くの人に金融サービスを利用してもらえるように、それらのテクノロジーを提供している銀行やベンチャー企業を対象として、主にエクイティ投資を担当しています。

このような仕事をしているので、ベンチャー企業の経営者と話す機会が頻繁にあります。彼らは金儲けというよりも社会的な課題を解決するために熱い想いを持って起業していて、組織が小さく若い職員が多いのが特徴です。自分が働いているIFCのような大きな組織とは全く違うスピード感で物事が動き、オフィスの雰囲気等も全然違うので、一緒に仕事をすることで刺激を受けています。

The World Bank
案件により濃淡はありますが、IFCだからこそできること、自分が尽力したからこそ実現するインパクトに仕事の醍醐味を感じます。例えばIFCは今まで東ティモール(右写真)に投資したことがなかったんです。ですが、独立後の内戦の打撃にも何とか耐え、貧しい女性たちに資金を提供しようと地道に成長してきたマイクロファイナンスのNGOが東ティモールにありました。そのNGOが、正規の金融機関になるために海外からの投資家を入れるという規制当局からの条件をクリアしたいと、IFCの投資を求めてきたんです。前例がないと否定的だった社内の論調を何とか説得して、最終的に投資が実現してクライアントに感謝されたときには、大きな達成感を感じましたね。

現在の仕事には非常にやりがいを感じているので、今後専門性をさらに磨き、金融という分野を通して開発に貢献できるように精進したいと思っています。

開発という仕事を意識したきっかけ:ストリートチルドレンと模擬国連

小学校4年生のときに、親の仕事の都合でマニラで2年間、初めての海外生活をしました。移動は車だったんですが、信号で止まると同じぐらいの年頃のストリートチルドレンが物乞いに来る。子どもながらに、日本と途上国のギャップ、富裕層と貧困層のギャップに衝撃を受けました。

大学時代は京都大学の法学部で国際法のゼミに所属していました。このときに力を入れていたのが模擬国連というサークルです。国連の会議を想定して、学生がそれぞれの国の代表になって議論を交わすというサークルです。国益に沿ってどんな発言をするか、どう他国と交渉するのかがとても面白く、国際問題に興味を持つきっかけになりました。インカレのサークルだったので京都大学、同志社大学、立命館大学などの京都研究会の会長を努め、年に2回ある全国大会に参加したり、関西大会の事務総長も経験しました。そういった大会では200人ほどの学生が集まるんですが、4日間ホテルにほぼ缶詰になって議論をするのでお互い仲良くなりますし、多くの刺激をもらいました。また、日本語か英語で国連決議を出すので、英語で文章を書く勉強にもなりました。

マッキンゼーで東京→ドイツへの転籍を経験

就職の際、マッキンゼーに興味を持ったのも、きっかけは模擬国連でした。マッキンゼーのパンフレットを見たときに、ハーバード大学で模擬国連をしていた社員の方のプロフィールが載っていたんです。その方が大学の教授に就職について相談した際、最初から途上国開発の分野に進むより、コンサルタントとして問題解決のスキルを身につけた方が国際問題に貢献できる人材になると言われ、マッキンゼーに入ったとのこと。僕自身も、メンターの方からコンサルティングはその後どこに行ってもいい経験になる、とアドバイスをいただき、マッキンゼーを受け内定をいただくことができました。

1年目は仕事の合間に英語を勉強し、社内の英語の試験に合格して2年目はドイツのフランクフルトに赴任し、リビアの金融セクターの改革をはじめ、エジプト、サウジアラビア、ギリシャなどのプロジェクトに関わりました。当初は1年だけの転勤だったのですが、毎回違うチームメンバーとともに新たな国で仕事をするのが刺激的で、「ドイツに残りたい」と上司に相談したら、「中東などの案件での成果を評価しているから是非残りなさい」と言ってもらい、籍を東京からドイツのオフィスに移すことにしたんです。

ブータン首相フェローの仕事を選択した理由とは?

マッキンゼーに就職して4年半が経ち、問題解決のスキルなどを一通り学べた感がありました。元々は開発の道に進みたかったので、そろそろ行動を起こそうと思い、修士号が必要とされる国際機関に入るために大学院進学を決意しました。このときはまだ、どの分野に携わりたいのかが見えていなかったので、ジョージタウン大学で広く開発を学ぶことを選びました。外交学修士を取得する2年間の授業の中で、マイクロファイナンスの授業が一番面白かったんです。今までマッキンゼーで自分が得た金融セクターの知識と途上国開発が重なる部分だったので、これからは途上国の現場でマイクロファイナンスを活かす仕事につきたいと思うようになりました。

The World Bank
そんな中、母親がブータン首相フェローについての記事を教えてくれたんです。以前からブータンの国民総幸福(GNH)という考え方に興味を持っていて、家族とも話をしたことがありました。記事を読むと、初代首相フェローはマッキンゼー出身の日本人女性。首相フェローとは、ブータンの国家公務員としてブータンの発展に1年間貢献するという立場。小さい国なのでトップの国づくりに直接関われること、ちょうど2代目首相フェローを募集しているということで、是非やってみたい!という気持ちになりました。ただ、月給はブータンの公務員の初任給レベルということで約2万円。大学院は自費留学だったので貯金があまりなく、そんな状態で不安もありましたが、ブータンで働ける機会などないから行ったほうが長期的なキャリアのためになる!という世界銀行に勤める日本人職員の方のアドバイスもあり、行くことを決めました。

ブータン首相フェローとしての最初の1カ月は、国家の政策目標や5カ年計画を立てているGNH委員会という政府機関に入り、GNHについての理解を深めるとともに、マイクロファイナンスに関わっている銀行やNGOといった機関にインタビューをしました。首相フェローとして何に携わるかを自分から提案できたのですが、ちょうどそのときブータン中央銀行が世界銀行のプロジェクトとして金融包摂に関する政策と、マイクロファイナンスに関する規制、金融リテラシー教育の策定をやっていたんです。そこに中央銀行のプロジェクトマネージャーかつ、世界銀行の途上国側のカウンターパートとして関わることで、自分が一番この国に貢献できるんじゃないかな、と考えました。

ブータンで1年を終えて一番印象に残ったのは、やはり幸せに関する取り組みです。「国民の幸せを目指す」。言葉で言うと簡単ですが、単なるスローガンではなく、ブータン政府は真剣にこの目標に向けて取り組んでいます。数年おきに行っているGNH調査では、幸福を9つの分野に分けて、国民がどう感じているか、どう行動しているかを調べます。また各省庁から新たな政策が上がってくる際には、GNHスクリーニングをして、その政策が国民の幸福に寄与するか、寄与しないのならばどう改善すればいいのか、そもそもその政策を実行すべきか否かということを徹底的に議論します。もちろん個々の悩みはあるけれど、僕が滞在中に接したブータン人は総じてみな今生きていることを楽しみ、幸せそうでした。仏教を信じ、今人間として生かされていることに感謝し、お祈りをする彼らの価値観や、国にあふれているオーラを肌で感じることができたことは、キャリアを超えて僕の人生での大切な財産になっています。

自分以外のチームメンバーはネイティブ! ピンチが英語上達のきっかけに

NHKのラジオ英会話を聞くというのが中学のときの宿題だったんですが、それを真面目にやっていたのが後々役に立ちましたね。大学時代は模擬国連で英語の文章を書いたりしていましたが、英語のレベルはまだまだでした。マッキンゼーでは英語が必要なことはわかっていたので、直前にペンシルバニア大学に2か月語学留学をしたんです。マッキンゼーに入社後1年間は、日本で毎週英会話スクールにも通いました。

でも、やはり実際に英語が使えるようになったのは海外で働き始めてからでした。フランクフルト赴任後の最初のプロジェクトがロンドンだったんですが、上司がオーストラリア人、若手のメンバーがイギリス人。自分以外の2人がネイティブで、最初は何を言っているのか全然わかりませんでした。会議でもわからないことが多すぎて、うなずいてわかっているふりをしてやりすごしてから、後で「どういうことだったの?」と若手のイギリス人に聞きに行ったら、「わからないことはミーティング中に聞いてくれ。二度手間になる」と言われました。精神的にはもちろん辛かったですが、給料をもらって仕事をしている以上は成果を出さないといけませんし、コンサル業界は成果を出さないと首にもなりうる厳しい世界。苦労しましたけど、英語に関しては、ここでの踏ん張りがいちばん伸びたと思います。

実は今、○○○を習っているんです

The World Bank

昔から歌が好きで、週に一度オペラを習っています。かつてプロのオペラ歌手だった日本人の方が先生で、イタリア・オペラを歌っています。高校のときは「1万人の第九」に参加したこともあるんですが、社会人になってから歌から遠ざかっていたので、今はレッスンを楽しんでいます。オペラって声の出す位置、呼吸、体の使い方がカラオケで歌うポップスとは全然違うんですよ。10月にはリサイタルもあるので、準備を頑張っています。

これから開発の分野を目指す方たちに伝えたいのは、まず興味関心があることにアンテナを張り、心に引っかかったことに対して興味を持ち続けること。関連する本を読むのもいいと思います。普段から周りに公言しておくと、僕の母親のように誰かが情報を知らせてくれるかもしれませんよ。小さな関心がキャリアにつながることも実際にあるんです。

また、キャリアを長期的な視点で見てどこに目標を置くかも大事ですが、目の前にあることに一生懸命取り組んで成果を出すということも大切です。今の仕事で成果を出して評価を受けるということを大事にしてください。そうすればきっと、ひとつひとつの経験が次につながっていくと思います。

(注) 国際金融公社(IFC)ヤング・プロフェッショナル・プログラム(YPP):3年間のプログラムでは、2~3の部署をローテーションしながら、IFCの事業と戦略に関する理解やグローバル・ネットワーク、IFCの産業グループ(金融機関グループ、インフラ・天然資源、製造・農業・サービス、TMT、ベンチャー・キャピタルおよびファンド)で経験を積みます。2017年の募集は10月10日(火)締切。

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